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娘は拒否。そうして縁が切れたと思った。

「今、なんて言ったんだ?」
元夫はポカンとしながら、娘に問いかけた。
「私はあなたとは行かないって言ったの」
娘は私の手を強く握っている。その手から微かに震えも感じた。
思いがけない言葉にしばらく動けなかったようだけど、すぐに
「ああ、この間のことを気にしているのか。あの時はすまなかった。でも、それもその女が邪魔をしたからであって、俺のせいじゃないんだよ。」
そう言いながら、一歩近づいてくる。
私は娘の手を引いた。けど、びくともしない。
「違います。お母さんは邪魔をしていません。悪くないです。」
その言葉に、またピクッと元夫の手が止まる。
「帰ってください。私はあなたと行きたくありません。」
その言葉に元夫が声を荒げた。
「いい加減にしろよ!お前は俺の娘なんだぞ!いう事を聞けよ!」
その声に私の体が、驚きで震えた。
娘は私の手をますます強く握ってくる。
「この女よりいい暮らしをさせてやるって言ってんだよ!生意気なガキが!」
「じゃあ、なんで誕生日に何も言ってくれないの!」
元夫の怒鳴り声に負けじと、娘も大声を上げた。
「誕生日だけじゃない。クリスマスもお正月も!父の日参観にも来てくれなかった!みんながお父さんと一緒にいるのに私だけ一人で帰ったんだよ!待ってたのに!」
思いがけない言葉に動けなくなる元夫。
娘は声を切らしながら、泣いていた。
「…私の誕生日は?」
娘が泣きながら、元夫に聞く。
「あ?」
「私の誕生日はいつですか?」
娘の誕生日は離婚する時に必要な書類で、至る所に書いてあった。
一回でも見ていれば覚えられる。なぜなら、日本国民だったら親しみがある
祝日に生まれているのだから。
「もちろん、覚えてるよ!だから先月来たんじゃないか。」


ウッソでしょ。
コイツ…自分の娘の誕生日も覚えてないのかよ!?


「違います。」
「え?」
「私の誕生日は5月5日です。」
娘の言葉に絶句する元夫。
「誕生日が違うみたいなので、私はあなたの娘ではありません。さようなら。」
そう言って、私の手をぐいぐい引っ張って駅に向かっていく。
駅のホームに入るまで、無言で私を引っ張って歩いて息が上がっていた。
「だ、大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
何だかきまずくて駅のホームのベンチに座って電車を待っていた。
「ねえ、よくあんな事言えたね。お母さん感心しちゃった。」
「おばちゃんが教えてくれた。お母さんが言ってもダメなら私が言えって。」
…姉が…?

最寄駅に着くと、姉が迎えに来てくれていた。
「よっ、おかえり」
「おばちゃん!ただいまー!」
娘は姉の車に駆け寄っていった。私も後に続いて助手席に乗り込む。
「おばちゃん、怖かったけどうまくいったよ!」
「おお、上出来じゃん。」
二人の会話に、私も加わる。
「何を吹き込んだのよ。」
「んー?あんたの娘っ子に『行かない』ってハッキリ断れって言った。あと、しつこい様ならあんたが思ってる不満をぶちまけろって。」
不満…。父の日参観に父親が嫌いことが不満だったのか。
私はこの子から父親を自分の都合で奪った事をこの時ハッキリと理解した。
「父の日参観。お父さんいないのアンタだけだったね…。ごめんね。嫌な思いさせて。」
「え?別になんとも思ってないよ?」
私の言葉にケロッとした表情で娘は返事をした。
「お父さんが最初からいないのが当たり前だったし。」
「え?だってさっきのは?」
「あ、あれ。クラスの子が『パパが誕生日一緒にいてくれない』って言ってて、その子のお父さんも誕生日忘れてて、お母さんと大喧嘩したって話をしてたのを言っただけ。」

娘は、不登校を経験してから何か他の子とは違った。
私が仕事に行っている間、私の母。つまりはこの子にとって祖母と過ごす時間が多い。一緒に見ている番組も2時間ドラマや刑事物といった、同じ年の子が見るような番組を見ていないので、小さいながらも悟りを開いたような子だった。

当時の私がびっくりするような暴言を吐いたり、他の子が騒いでいることを冷めて見ている所もあった。

「こないだ、あいつのせいでスタバ行けなくなったから。頭に来てたんだよね。」

その発言に思わず吹き出してしまった。

娘に拒否されたのが結構ショックだったのか、自分のプライドが傷ついたのかは
分からないけれど、それから娘のところに来ることは無くなった。

相変わらず養育費に関しては支払いはしてくれないまま。
法律で決まっている事だというのも正直面倒で
支払いをしてくれないのが当たり前という考えに変わった。

生活費やいろんな制度を使っていけば、ギリギリでも生活はできる。
娘の学校も、義務教育の時期なら私の収入でも何とかなる。
私学に行きたいと言われたら、貯金と制度をうまく使えば通わせることも
可能だと、自分なりにシュミレートした。

もう元夫は私とは関係のない人だと思った。

思っていたのに!

娘が中学校に上がった年。私は念願だった修理職に就くことができた。
収入も今までで一番高くなり(それでも薄給には変わらないけど)
安定して生活を過ごせるようになっていた。

そんな中、私はとある武術教室に出張修理の依頼を受けた。
道具を抱えて、市営体育館に向かうと
その教室でインストラクターをしていたのは、元夫。
私に気がついて、少し動揺していた。

「…こんにちは。修理依頼を受けて本日伺いました。責任者の方ですか?」

私は何食わぬ顔で挨拶すると、向こうも慌てて挨拶してきた。

「私ではないので、呼んできます。お待ちください。」

そういうと、そそくさと離れていく。
すぐに責任者の人がきた。
ホームページを作成中にPCが動かなくなってしまい
新しいPCを購入したが、セットアップができないという依頼。

私にとっては朝飯前の仕事だった。

詳しく話を聞きながら、責任者の顔を見つからないように
どこかで見た事がある顔だな…って見ていると
スーツを着た男性が近づいてきて責任者に耳打ちする。
「市長。そろそろお時間です。」
「ああ、分かった。」

あ、思い出した。
この人、この市の市長だ。

ん?ってことは…?
元夫の師匠って、この人のことか?

「すみませんね、ちょっと仕事に戻らないといけないので。ここで失礼します。」
そういって、市長は出て行った。

やっと離婚した事とか、元夫の嫌がらせの事とか忘れて
自分の生活を取り戻したっていうのに。
その仕事で、また関わることになるとは。

世間って狭いなぁ。
そう思いながら、依頼されたPCに向き合った。

そして、今回の依頼で今までの私に行っていた嫌がらせに経緯が
分かることになる。

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