婚姻生活の終わり
1万円。
この金額で、色んな事ができる。
食費に充てたり、病院代に充てたりと、大なり小なり、
人によって1万円の価値は様々。
「お待たせしました。調停室にお越しください」
いつもより長く感じた。
ぐっすり寝てしまっている娘を、起こさない様に静かに移動した。
廊下には義母が雇った弁護士と立っていた。
私はこの間と同じ事が起きるのではないかと、体を硬直させた。
その様子を感じ取った調停委員さんが
「大丈夫ですよ。こちらへ。」
そう言って私と義母の間に入って牽制をしてくれた。
義母と弁護士は、その場から不満そうに離れていった。
あの時、調停委員さんが居なかったら…多分義母から何かしらの攻撃を受けていた可能性があったかも知れません。
調停室に再度入って、椅子に腰掛けると、男性調停委員さんが
「養育費ですが、月額1万円で良いとお返事頂けました。」
と、ため息混じりで話かけてきました。
月額決めるの、大変だったのかも知れない。
「わかりました。正直かなり少ないとは思いますが、支払って頂けるなら良いです。」
「養育費が決定しましたので、面会についてを話していきたいと思います。相手方は養育費の支払いはしますが今後、娘さんと面会を希望しないそうです。」
「え?そうなんですか?」
「はい。この調停成立後は関係ないとの事です。」
関係ない…。
その言葉に全身の血が冷えていくのを感じた。
おそらく、自分の…自分達の思い通りにならず金にならない存在だと決め切り捨てたんだな。
本当にクソでゲスな男だな。
「…わかりました。」
「ただ、面会しないっていうのは…」
「多分、自分の思い通りにならない事への苛立ちから自暴自棄になっているだけだと思いますので、月1回の面会について記載して下さい。…向こうが何を言っても。」
「そうですね。記載させていただきます。」
「お手数ですが宜しくお願い致します。」
これで調停が終わり、元夫が調停室に呼ばれた。
少し待つと、裁判官が調停室にきて審判が下された。
こうして離婚成立。
やっと終わった…と安堵したのも束の間
「もう最後だから抱かせてもらいなさい。」
と、義母。
え。イヤです。
って言いたかったんですが…
まぁ、最後だし娘を抱っこ紐から外して元夫に渡そうとした瞬間。
ぐっすり眠っていたのに、目を覚まして調停室から廊下にまで響き渡る位の大声でギャン泣き。
流石に泣いてる状態は良くない。
私の方にもう一度抱き寄せて、なだめた。
すぐに泣き止んだので、『じゃあ抱いてもらいなさい』って言いながら、もう一度差し出すと、再度ギャン泣き。
き、気まずい…。
これには裁判官と調停委員さんも苦笑い。
だけど元夫は娘を受け取って抱きしめ
「もう会えないけど、ずっと愛してるからな」
みたいな事言っていたけど、その間も娘はギャン泣きして全身で元夫を拒否。
なーにが【愛してる】だよ。
妊娠わかった時は、中絶出来ないのか、子供は要らないって言って産まれてから1度も興味持たなかったクセに。
【可哀想な父子の別れ】を演出したいのだろうけど、娘が全身で拒否してるし、逆に元夫が哀れに見えた。
あまりに大声で泣くもんだから、娘がむせてきちゃって咳こんできたので
「可哀想だから、もういい?」
と、私の腕に娘を移動。
すると、次第に落ち着いてウトウトし始めた。
その様子を元夫が涙ぐみながら、見ている。
どんなに【娘と引き裂かれて可哀想な俺】を演出しても、娘の態度で嫌われてるって理解しなさいよ。
義母も【ウチの息子。可哀想】って元夫の背中さすってるのを見て寒気がした。
もう…気持ちが悪い。
裁判所で不幸劇場を無理やり観覧させられ、もう胸焼けが止まらなかった。
「では、この調停の場は解散となります。」
って裁判官に言われたら、元夫はサッサと帰って行きました。
私は娘とのお出かけ道具をまとめるのに時間がかかり、すぐに出られずモタモタしていたら女性調停委員さんが話しかけてくれた。
「最後、娘さんが一番正直な反応をしましたね。あの光景を見て貴女に親権が渡った事…心から良かったと思います。これから大変でしょうけど頑張って下さい。」
その言葉に今まで我慢していた感情が吹き出して涙が自然に出てきた。
「ありがとうございます…。お世話になりました。」
一礼をして、調停室を後にした。
こうして、私の離婚調停は終わった。
が、しかし。
このクソでゲスな男は、離婚後も私たちに大迷惑をかけていくことになります。
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