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誘拐犯になりかけた。

妹でも義母でもない。
見たことない女性をポカンと眺めていた。
その女性は、ニッコリ笑いながら
「こんにちは、あなたのお母さんですよ。初めまして〜。」

何言ってんだこの女。

この発言から、私の中でこの女に対して【敵】認定がされた瞬間だった。

「え?違うよ。私のお母さんは…。」

「うん、そう。この人はあなたをこの世に産んだだけのお母さん。これからはあなたをいっぱい甘やかしていろんな経験をさせてあげるお母さんが私の事。」

また、よく分かんない自論を語る女が出てきたな。

「お前、何で勝手に出てきてるんだよ。車に乗せてから挨拶しろって言ってただろ。」
元夫が女に強めの口調で言う。それに対して
「でもさ、それすら手こずってるんだったら私が直接話をした方が早くない?」
「それでも、順序ってもんがあるだろうよ。」

理解できない話を二人でしていたので
そのままにして帰ろうと娘の手を引いて駅に向かおうとした。
その時。

「誰かー!うちの子が攫われちゃう!助けてください!」
女が突然大声でとんでもない事を言い出した。
このまま帰れば私が誘拐犯にされてしまう。
この学校に転校してきて3ヶ月経過していないし、私の顔を知らない保護者はまだまだ沢山いる。
娘の手を強く握りその場で立ち尽くした。
「ごめん、もしかしたらスタバは行けないかも知れない。」
娘に小さな声で囁いた。私の言葉に小さく「うん…。」と返事をした後
「お母さん、怖い…。」
と顔を青ざめながら私の腕を抱き抱えて震えていた。
その間も、あの女は「誘拐される」と叫んでいる。
元夫はその様子をニヤニヤと眺めているだけ。
本当に、何がしたいわけ!?

その騒ぎを聞きつけた学校の先生や警備員が飛んできた。
事情を知らない保護者が、何人も女の方に行って話を聞いている。
そんな騒ぎの中、パトカーが到着した。

学校の先生が私の方に駆け寄ってきてくれて

「大丈夫ですか?な、何があったんですか!」
「元夫が連れてきた女が、『誘拐される』って叫んだんですよ。それを聞きつけた人が集まって多分警察呼んだんですね。」
「えええええ!?」

先生と話をしている最中、あの女は警察官に【娘を攫われそうになってる母親】を演じている。ご丁寧に涙まで流して。

娘が限界になってきてしまい、発作を起こして蹲ってしまった。
急いでランドセルの中から吸入機を取り出し、対処していると

「いいかげん、お母さんに子供を返しなさいよっ!」
女の側にいた野次馬が私に怒鳴り飛ばしてきた。
私は、グッと堪えた。

だめだ。ここで言い返したらアッチの思う壺。
何を言われても、耐えるんだ。

娘のランドセルを地面に置いて、背もたれ代わりにして気道を確保する。
ヒューヒューと嫌な音が娘から聞こえる。
できれば一刻も早く、安静に出来るところに移したい。

保健室に寝かせて欲しいと頼みたかったが、その間に元夫が連れ去る可能性も十分に考えられる。
今は、応急処置で何とかするしかない。
「ごめんね、大丈夫?」
私の問いかけにぐったりしながら、頷く娘。
先生も、着ていたジャージを脱いで娘の足元にかけてくれた。

そうしていると一人の警察官が私に近づいてきた。
「すみません、あちらのお母さんが貴方に娘さんを誘拐されるって言っているんですけど…。」
その言葉にいち早く反応したのは、私ではなく
「この方がこの子のお母さんですよ!私はこの子の担任です!」
先生だった。

先生の言葉に警察官 固まる。
「え?」
「だから!この方がお母さん!」
先生の迫力に私は何も言えず、娘の背中をたださすっているだけ。
警察官が、私に向き直り
「この子のお母さんは、貴方で間違いないですか?」
「はい。この子が0歳の時に離婚調停を行なって親権も私にあります。」
そう言って、私はバックの中から書類を二種類出した。

昨日、姉に連絡した時に言われていた。
それは迎えに行く時に離婚調停の調停調書と戸籍謄本を持っていく事。
あと、自分の身分証明書である運転免許証を持って出ること。
まさか、本当に必要になることになるとは。

警察官が内容を確認すると、書類を私に返して
元夫たちの方へ向かった。
「離婚調停証書にあちらの方が親権が有る事が確認取れました。…あなた方は何をしに来ているんですか?」
「私は娘と一緒に帰りたいだけのなの!」
女が泣き叫んでいた。
周りにいた野次馬が私の方を見て「え?あっちが親?じゃあこの人何?」って
顔で私と女を交互に見ている。
「どう見たって、私とそっくりじゃない!ちんちくりんのデブが娘の親なわけないでしょ!」

悪かったな。
薬の影響で太りやすくなってるんだよ。ほっとけ!

警察官の疑惑が自分の方に向いている事を察知した元夫はその場から立ち去ろうとする。もちろん、日本に警察官は優秀なので逃亡を阻止している。

その騒ぎの最中も、パトカーが何台も集まってきて
学校の前は赤いパトランプで賑やかになっているし
高学年の子達の下校時間に被ってしまって、騒然としているし
見せ物パンダの気分を少し味わった。

元夫と女はパトカーに乗せられ、連行。
私も…と言いたいところだが、娘の体調が悪くなっているので
まずは救急車で病院に搬送して、
病院で事情を聞かれることになった。

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