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4話:ここまで愚かだと思わなかった。

子育ては、一人でやるものでない。
私は夫と離婚してからは、周りに協力を仰いで何とか子育てをして来た。
というか、現在進行形だけど。

でも、家庭の中での子育ては
子供によって【これが必要】【あれは何時にやる】とか
細かいルールが存在している。

それを一切理解しない、阿呆から自分が腹を痛めて産んだ子供を
代わりに育てるって言われたら・・・どうしますか?


「お子さんを相手の方が育てたいと言って来ています」

「・・・・・はぁ・・・。」

子供なんて欲しくなかったって言ったのは、どこの誰でしたっけー!
って叫びたい気持ちをグッと堪えて

「今まで娘に対してそんな執着して来たことないのに、そういう風の吹き回しでしょうかね」
「まぁ、相手がたにも父性があるんでしょう」
「・・はぁ?父性がある?」
調停委員さんの【父性】という言葉に敏感に反応してしまって
思わず素に戻ってしまった。

「娘の親権を要求するということは、娘が何を口にして、何に注意しなくちゃいけないって分かっているってことで良いんですかね。」
「それは、わかるんじゃないですか?流石に一緒に暮らしていたんですし」

娘は私のお腹にいる時に【卵巣嚢腫】になっている事が分かって
(ごくたまに、そういった症例が有るんですって。私も知らなかった)
生まれてから、暫くの間通院しないといけなかった。
今現在は、特に問題はないけれど 生まれて半年は
卵巣が腫れたままだった。

そして、娘は一度口にしたもの以外は飲んだりしてくれなかった。

最初から母乳が出ているわけではなかったのだけど
ストレスから母乳が止まって完全ミルク派になってしまった事は
以前書いているんですが、そのミルクが問題で。

病院で入れてくれたミルクでないと飲んでくれない。
近所のドラックストアで買ったミルクは、吐き出してしまう。
それを先生に相談したら『生まれてすぐに口にしたミルクならどうでしょう』
そう言われ、そのミルクに変えた。

娘の病気・口にする物
娘に必要な事や習慣を知っているならば、親権も考えたけれど。

「娘の親権が欲しいとの事でしたが、であれば娘が飲んでいるミルク・使っている石鹸やおむつ、あと病院にはなぜ受診しなくてはいけないのか。その事を聞いて頂けますか?・・・ちなみに答えはコレです。」
調停委員さんに渡したのは、娘の事を聞かれた時に参照しようと作成した資料。
そこには、娘に使っている物や重要事項をまとめていた。
「できれば、この問題は次に持ち越したくないので、今すぐ聞いて欲しいんですけど。可能ですか?」
「あ、ああ。わかりました。」
私はすぐに控え室に戻った。
『まあ、一時期でも一緒に暮らしていたんだし。1つくらいはわかるんじゃないかな。』
そう思いながら、持ってきたコーヒーを一口飲んだ。
10分後、もう1度調停室に呼ばれた。

「親権は渡さない方がいいですね!」
男性の調停委員さんが、めっちゃ渋い顔をして言った。
「え?」
女性の調停委員さんが苦笑いしながら
「先ほどの娘さんに関しての質問が、1個も分からなかったんですよ。」
「・・・・え。」
病院のことは、分からないのは仕方ないかなって思ってた。
でもミルクもオムツも、生活していた部屋の目に身につく所に置いてあったのに?
よくそれで、娘の親権が欲しいなんて言えたな!

「私たちの方からも、娘さんと生活するにあたって貴方から聞かれている内容は最低レベルの質問ですし、今後養育していくにしても難しいのではないかってお伝えしました。」
「は、はあ・・・それはどうも・・・。」
私は呆れながら返事することしかできない。

「まあ。それでも無職の貴方に育てる権利はないので親権を要求したいと言って来ていますが。」

堂々巡りかよ!面倒臭いな!

イラっとしながらも、平静さを取り戻して話を続ける。
「無職と仰っているようですが、私は今回の離婚調停中に転職活動を並行して行い
来月一日から時間短縮で勤務させて頂けることが決まっています。」

「そうなんですね。それはアルバイトですか?」

「いいえ。契約社員です。月収は20万程度でしょうか。」

調停委員さんが私の言葉を書き留める。

「今回、娘の親権のことで有耶無耶になりそうな婚姻費用の事ですが。私が社会復帰したからといって支払いを逃れるという事はできないと思うんです。現に復帰するのは来月からで、今現在は無職です。相手方に婚姻費用の支払い義務がある事を忘れないでくださいとお伝えして下さい。」

多分、婚姻費用のことを言われるのを、相手弁護士も予想して来ていたんだろう。
その話から注目をそらせるために、娘の親権を請求して来たんだと思った。

その時は。

実はこの親権請求に関して、離婚してだいぶ経過してから分かった事がある。
今現在、養育費の請求を相手方に申し立てをしているんだけど
その際に相手方から『児童扶養手当とか、緊急の給付金とか受け取っているのに何で養育費を請求してくるんだよ』って言われたこと。

そう実は、娘の親権を欲しがったのは本当に娘を養育したいからではなく
市からもらえる【児童扶養手当】が本当の目的だったんだって。
親権を始めは元夫が取り、暫くして義母に親権を渡す手続きをして満額の児童扶養手当を貰う計画をこの時点で立てていたそうだ。

なんて浅はかな考えだったんだ。
(それに関しては、今後詳しく書いていきます)

「では、婚姻費用の請求と親権に関しては、貴方が取ると言う事でお話ししますね」
「よろしくお願いいたします。」
「今日は、あと相手方のお話を聞くだけで終わってしまいそうなので、次の調停日を決めましょう。1ヶ月後でよろしいいですか?」
「はい。構いません。」
「では、本日は終わりとなります。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」
そう言って調停室を出た。

裁判所から法テラスは目と鼻の先にあるので、このまま予約を取って
次回の調停のアドバイスをもらおうかなと携帯を取り出した時
急に腕を掴まれた。
何が起きたのか分からなかったけれど、すぐに状況を理解する事ができた。

「あのさ、何を勘違いしてるのか分からないんだけどさ!さっさと条件のんで離婚してくれない!?お兄ちゃんが可哀想なんだけど!!」
元夫の妹だ。仲がそんなに良い訳でもなかった。
今回の件で、私という悪者ができたおかげで一致団結しているんだろう。
だからと言って、こんな事をすれば自分の兄が不利になると言うことを理解出来ないんだろうか。掴まれた腕を無理に引き剥がす事もせず、ただ黙って義妹を見つめる。
「何とか言ったらどうなのよ!」
義妹の叫び声は裁判所ロビーに響き渡る。
裁判所っていうのは、商業施設のように賑やかではない。
市役所ですら、少し雑談が聞こえる程度。
裁判所はみんながみんな問題を抱えて来ているので、押し黙っている。
聞こえるのは、通りがかる人たちの靴音だけだ。
「散々お兄ちゃんのことを利用してきたクセに!お金払いなさいよ!」
掴まれた腕に義妹の爪が食い込んでくる。私は払いのける事もせず、ただ黙って義妹の暴言を聞いていた。
すぐにロビーにいた警備員さんが私たちを引き剥がしてくれた。
普通ならば、静かな裁判所内でそんな騒ぎが起きれば、警備員が飛んでくるのは分かるだろうに。まぁ普通じゃないからこんな騒ぎ起こしたんだろうけど。
「大丈夫ですか?」
警備員さんに言われ、掴まれた腕を見ると食い込んだ爪が私の皮膚を突き破っていた。腕には何筋ものミミズ腫れと血が流れていた。
「すぐに救急車を呼びますね!」
他の警備員さんも私の所に駆けつけてきて、応急処置をしてくれる。
その間にも取り押さえられた義妹は大騒ぎしている。
「今日は裁判所にどのようなご用事で来ているんですか?」
「・・・離婚調停で来て、私の話が終わったので帰ろうと思った所でした。」
その話を聞いた警備員さんは「刑事番号を教えて下さい」と聞いてきて
私は調停に必要な資料をまとめたファイルを手渡した。
その番号で今日担当している調停委員さんが飛んできてくれて
「大丈夫ですか!」
と私に駆け寄ってきてくれた。
「ああ、大丈夫です。」
「いやいや、首からも血が出てますよ!」
え?って思って首に手をやるとぬるりとした感触があった。
首も引っ掻かれたのか・・・。とため息をついた。
「怪我の具合では調停日を調整する必要がありますので、言って下さい。」
「・・・わかりました。」

また、時間かかるのか。
うんざりしながら、返事をして自分の怪我を改めて確認した。
舌戦で勝てないと決まったら、暴力に走る。
今までは運が良かったんだとゾッとした。

程なくして救急隊が到着。
私は搬送された病院で手当を受けた。
今回の場合、傷害になるので警察も介入して話を聞かれた。

この日、裁判所から一駅移動した先の病院に運ばれたけれど
駅からはかなり遠い病院だったのでバス代・診療代は全て私が実費で支払い、
娘を預けている保育園に事情を話し、最大時間まで延長してもらった為
めちゃくちゃ金額取られたことは、言うまでも無い。



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