見出し画像

友人にも裏切られていた。

元夫の嫌がらせが続いていたので、私は3ヶ月単位で
仕事を変えていた。

ある時はコンビニ派遣・ある時は配送業者。
街頭ティッシュ配りにスーパーで試食マネキン。
病院の看護助手や清掃・印刷業者での一般雑務・コールセンターなどなど。

職歴に関してはやってないのは免許が必要な職種じゃないかな。
とにかく短期で勤務出来る所を片っ端から勤務してきた。
1日に2つ掛け持ちは当たりまえ。
出来る時は3つまで抱えることもザラだった。

そんな生活を続けていた時、とある漬物工場で
フルキャストの営業さんに声をかけられ
安定するまで、フルキャストで派遣の仕事をもらって
生活費をなんとか稼いでいた。

私の事情も知っていて、色々配慮してくれていました。
(本当に感謝しかないです…!ありがとうございます!)

元夫も嫌がらせを続けているようだったけど
職場が毎日変わる勤務形態を選んだため、仕事には支障が出なかった。
ただ、娘の保育園を、突き止めて毎日のように迎えにきては
先生たちに追い払われている事を聞いた。
ここの保育園も、私の事情を知っていて元夫や義家族に
娘に会わせろと言われても、園長先生自ら盾となり
娘や私を守ってくれていた。

その腹いせか、保育園周りには得意のビラまきをして
周りの保護者に私の印象を落とす行為は成功していたけれど。

正直、構っていたってしょうがないかなって諦めていた。
心はかなり疲弊していましたが。

あと、そんな私の生活を気にしてくれていたのが
高校からの友人、A子。
彼女も夫がモラハラで、大変な思いをしている人だった。
私が離婚したと聞いた時、
「そんな大変な事になっていたなんて知らなかった。何かあったら頼ってね」
と励ましてくれていて、元夫の嫌がらせに関しても
相談していたりしていた。

短期派遣で生活をしていたけれど、娘が小学校に上がる年
「娘さんも小学校に入って時間が取れるんだし、長期の仕事してみない?」
派遣会社の営業さんに言われた。
事務を募集している会社があるよって言われて、喜んで承諾した。
「先方から許可が降りれば、正式雇用もしてくれるって」
正式雇用は、つまり正社員として勤務出来るってことだ。
私はA子にだけ長期雇用の派遣がある事・先方が良ければ
正社員になれる事を報告した。

「やったじゃない!これで生活も安定するね!」

そう喜んでくれて、離婚して5年強。
ようやく人並みの生活ができると、喜んだ。

しかし、その会社には1ヶ月しか勤務できなかった。
元夫が義母・義妹を連れて乗り込んできたのだ。
その日は会社近くの公園で、お弁当を食べ午後の業務に戻る時だった。
会社ロビーに見慣れた人達の姿に、体が硬直した。
私を見つけるなり、元夫は大声で
「皆さん!この人です!この人は私の最愛の娘を連れ去っていったのです!」
「そして、裁判で有りもしない事をでっちあげ、自分が優位になるよう仕向けたのです!」
「この会社に勤務させると、不利益に繋がります。ぜひ人事担当は再考を!」
私はその場で動けなくなってしまった。
あの人たちの声も、遠くに聞こえる。
自分の息が浅く激しくなっているのを感じた。
「早く、こっちに!」
そんな私の手を引いたのは、フルキャストの担当営業さんだった。
会社ロビーからではなく、裏口に周り派遣先の人事の人が待つ
応接室に連れて行かれた。

「これは、どういう事ですか!」
派遣先の人事が声を荒げる。
営業さんも私も、最近は元夫からの勤務先に対しての
嫌がらせが減っていたので、派遣先に話を通していなかったのだ。
そりゃ、話を通してなく会社でこんな騒ぎを起こされちゃったら
どうにもならない。
「申し訳ございません。最近はこのような事案がなかったので報告していませんでした。」
営業さんが深々と頭を下げる。
そして、今までの勤務先をターゲットにした嫌がらせの数々を説明した。
「…お話は理解できましたが…、今後このような騒ぎが起こされるようでは勤務継続は難しいですね。」
「そ、それは、彼女も生活がかかっていますし…。」
「生活云々は理解できます。ですが業務に支障が出るようでは困るんですよ!」
その時を境に、私はこの会社との契約を切られた。

すぐに荷物をまとめて、派遣事務所へ移動している最中
「私の勤務先、問い合わせってありましたか?」
と、営業さんに聞いた。
「いや、個人情報に関係するからね。問い合わせがあっても答えないよ。」
「そうですよね…。」
だとしたら、勤務先情報が漏洩したのは、一つしかなかった。

派遣事務所に荷物を置き、すぐに事務所を後にした。
事務所から最寄り駅までの間、私は電話をかけた。
「どうしたの?まだ勤務時間じゃない?」
そう、今回の勤務先のことを話しているのは彼女しかいなかったからだ。
「勤務先に元夫が来て大騒ぎになったの。」
「え、ほんと!?よく探し出したねー感心しちゃうー。」
受話スピーカーから聞こえてくる声に苛立ってきた。
私が、黙っているとA子が
「…どうしたの?」
と、何事もなかったように聞いてくる。
「ちょっと、今から会いたいんだけど良いかな?」
「うん、大丈夫だよ。待ってるね」
すぐに電話を切って彼女の家に向かう。
彼女の家もまた、団地で元夫の住んでいる団地とは1キロも離れていない。
信じたくなかったんだけど、もう確信に変わっていた。

彼女の家につき、インターフォンを押す。
エレベーターもない古い団地なので、5階まで上がると
流石に息が上がる。
すぐに、ガコンと重たい鉄扉が開いた。
「どうぞ、上がって!」
満面の笑顔で私を出迎える。その姿にますます苛立った。
「いいえ、ここで良いわ。」
「? あ、そう?」
私は、息を整えて彼女に「あなたでしょ?」と問いかける。
その問いかけに一瞬目が揺らいだのを見逃さなかった。
「なんのこと?」
「元夫に私の勤務先を教えたのは、あなたでしょ?」
その言葉に、少し動揺をして
「え、ちょっとーひどくない?派遣先か家族かもしれないじゃん…。なんで私だって決めつけるの?」
「今の私の勤務先を知っているのは、派遣会社の営業さんとあなたの二人だからよ。」
私の言葉に、彼女は顔が引き攣った。
「え?」
「今回の勤務先のこと、正式採用になってから家族に話をしようと思っていて。母も姉も勤務先は知らないの。」
「…。」
「勤務先の情報が派遣会社から流出していない事は確認した。だとすると、元夫に勤務先を教えたのは…あなたしかいないのよ。」
彼女の部屋から、「おかーさん、どうしたの?」と子供が顔を出した。
その声に彼女は「ちょっと、部屋の中で待ってなさい。」と言って
自分は外に出てきた。
「…下で話しましょ。」
そう発した彼女の顔からは笑みが消えていた。

団地下の公園ベンチに腰掛けて
「さっきの答えを聞かせてくれる?」と彼女に言った。
そうすると、はぁっとため息をつくと
「なんか心外なんだけど。そんな犯人みたいに言われて。私が情報流したって証拠はないでしょ?」
「ないよ。今回も。」
「そうでしょ?怪しいってだけで酷くない?」
確かに、彼女のいう通り証拠は何もない。私の憶測だ。
「そうだね、自分でも酷いと思う。でも、怪しんでしまった以上…今までみたいには出来ない。正直、信じられない。」
「私じゃないって言っても、信じてくれないって事?」
「そうだね、もう信用できない。」
私の言葉にイライラしながら、髪をかきあげる。
「悪いんだけど、あんたの元旦那の連絡先なんて知らないんだよ?どうやって教えるっていうの?」
「それは…」
確かに。連絡先も知らないのにどうやって情報を流すんだ。
私の気のせいだったのか?
その時、彼女の携帯電話が鳴った。
彼女の携帯は二つ折りでも、外側に着信してきている人が通知されるものだった。
私がその携帯に目を向けると、そこには
見慣れた元夫の名前が表示されていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?