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もう投げてはいけない。

夏の甲子園、実力伯仲、手に汗を握るゲームが繰り広げられているが、反面、納得できないこともある。酷暑による熱中症などの危機が叫ばれている昨今、甲子園では選手を危険な状況に追いやるような旧態依然とした起用が続いている。

12日の星稜高校と済美高校の試合では、32度の気温のなか、済美のエース、山口直哉投手が184球という時代錯誤な球数を投げている。このゲームはなかなか決着がつかず、13回までの延長戦となった。山口投手は地方大会、および甲子園の全てのゲームをひとりで投げており、体には相当なダメージが蓄積されているはずだ。そこにきての184球。

テレビで見ているかぎりでは、山口投手は9回の段階ですでにふつうの状態ではなかった。死球を受けたこともあり、足に違和感があるような仕草を見せていた。力を込めた速球はほとんど投げられなかった。それでも、監督はこの選手を試合が終わるまで交代させなかった。

済美高校の監督は選手の健康管理にはまったくもって気をつかっていないのだな、ということがよく分かった。普通なら、高校生を預かる責任者として、懲戒処分を受けてもおかしくないと思う。ことし7月に、東京都の高校のバスケットボール部で、部員に校舎の外周を43周(約19km)するように命じた教員がいた。このときの気温も32度。この教員には、処分が下されている。当たり前のことだ。

都教委は、「気温の高い中、過度の負担をかける不適切な指導。体罰に当たる」との見解を示した。そうであれば、私は、この教員と済美の監督のあいだに、おおきな違いがあるとは思えない。しかし、済美の監督は顰蹙を買うことはあっても、おそらく具体的な処罰を課されることはない。というか処罰を課すという声さえほとんど出ないだろう。

山口投手自身が志願して投げ続けた、という話もある。しかし、それを止めなければいけないのだ。山口投手にはエースとしての責任感がある。だからどれだけ体がつらくても、投げると言うだろう。あるいは気分が高揚して、自身が危険な状態にあることに気づいていない可能性もある。酷使によってスポーツはおろか日常生活にも支障をきたすような障害を負ったプレイヤーがいる。その轍を踏まないようにしなければならない。

そもそも、済美という名の知れた強豪校が、ひとりの投手に頼りきり、ということ自体がおかしい。どれだけ優れた投手でも、登板過多によって確実にパフォーマンスは落ちてゆく。しかも、近年の酷暑による不測の怪我や健康不良は当然想定に入れたうえで、チームづくりをしなくてはならないはずだ。もう絶対的エースがひとりいれば勝ち進める、という環境ではない。

これは選手の健康面の問題でもあり、勝つための合理的戦略でもある。済美の監督は選手の健康管理は言うに及ばず、合理的な戦略を選択することも放棄しているのではないか。勝ちたいのならエース以外の投手を実戦で起用し、チームの総合力を高めるべきだ。選手の健康を守ることもせず、勝つために最適の手段をとるわけでもない。結局この人は何をやりたいのか。

済美の監督は、今後の山口投手の登板について、「どこかで止めるのが私の仕事。本人と相談して決めたい」と語っているそうだが、こういうコメントで逆に認識の甘さを感じてしまう。止めるべきポイントなどとうの昔に過ぎ去っている。山口投手はいつ重篤な故障をしてもおかしくない。彼はもう、ひとりのプレイヤーとして充分すぎるほどにチームに貢献した。たとえ本人が望んだとしても、試合に出すべきではない。いち野球ファンとして、山口投手がプロに入って活躍する姿を想像しながら甲子園を観たい。プレイヤーが潰れていくようなゲームは観たくない。

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