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太郎が射た天使の足輪のこと

むかしむかし、太郎という大悪人がいました。猫のためにおいておいたご飯に、唐辛子をいれたり、商店街のガラスを破って回ったり、人を殺したり、それはだいぶ悪さをして、警察に捕まって今は牢屋の中で吊るされているのです。

太郎は高校生のころはとてもマジメで、アーチェリー部に所属し、練習熱心なことで知られていました。その日も夕方まで練習をしていると、同級生のひとりが言いました。

「おれたちはいつも的に向かって矢を射っているが、空をめがけて射ったらはたしてどんなに気持ちが良いことだろう」

その場にいた部員は、そうだ、そうだ、的なんて狙って射つのはもうやめだ。みんな、空に矢を射よう。とめいめいに口走り、矢を放ちました。太郎もみんなと一緒に矢を天にめがけて放ったのです。なんて爽快な気分だろう。ああ、的になんてもう俺は矢を射ることは金輪際ないだろう、そんな気持ちでした。しかし、次の瞬間。

部員たちのいるグラウンドに、どさりとなにかが落下しました。それは、たまたま近くを飛んでいた、天使でした。ほっそりとした顎をした、まだ少女の天使でした。運の悪いことに、太郎の放った矢が心臓を射抜き、瀕死の重傷を負っていました。

天使は言いました。

「私を射た人間の方。あなたに恨みはありません。ただ、死にゆく私の足についている足輪を、どうぞ大切に守ってください。これはとても大切なものだから」

息が途絶えた天使の足から足輪を外し、太郎は自分の手首にはめたのです。自責の念によって、心臓がきりきりと痛みました。その日から、太郎は変わってしまいました。弓は捨てました。そして、とても悪い人間になりました。

牢屋のなかで、吊るされた太郎の耳に、音楽が聞こえてきました。いや、音楽ではなく、死んだ天使の声なのかもしれません。

「私の足輪は美しいでしょう?」

天使は太郎に問います。

「ああ、ぞっとするほど。すべての善き行いも、この足輪のまえではとても汚く見える」

太郎はそう答えました。



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