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超短編小説

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ショートストーリー置き場です。
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#小説

子墨

唐のころ、都、長安にて商いを営む子墨という男がいた。ある日、子墨は木の陰に佇む面妖な動物…

鰯崎 友
4年前
21

太郎が射た天使の足輪のこと

むかしむかし、太郎という大悪人がいました。猫のためにおいておいたご飯に、唐辛子をいれたり…

鰯崎 友
4年前
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龍の血が水を濁した

むかしむかし、あるところに、古くから人々の喉を潤してきた井戸がありました。底からしみ出し…

鰯崎 友
4年前
21

自分が風船をひろったのは親切のためではない

詳しい事情は置いといて、いま自宅で落ち着いてnoteを書ける状況じゃないのである。仕事から帰…

鰯崎 友
4年前
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雨が降りはじめる。

雲行きが怪しくなってきたと思ったら、つぎの瞬間には雨が落ちはじめ、どんどんと勢いをまして…

鰯崎 友
5年前
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西の生き物 東の生き物

兄の浩二は西に行った。弟の重道は東に行った。西には明日はなく、昨日しかなかった。生物は暗…

鰯崎 友
5年前
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長野県上伊那郡野自利左部神卦村の民話

【2015年に実施した、長野県上伊那郡野自利左部神卦村の民話の調査より】 これもなが、いい日照りったさ。ががのつくような日じゃった。村っ子さが、皆して笹隠しして遊びよったさ。坂隠しと笹隠しってさ、村っ子さはどっちがで遊びよったさ、あんころは。その日よりは村っ子さは坂隠しでのうて、笹隠しのほうをやりよって遊び寄ったさ。笹っこをようけ千切って、皆あたまん上にのっけてさ。「笹っこ、笹っこ、よけ食いもんばもろてこい、笹っこ、笹っこ、よけ腹ふくれるもんもろてこい」いうて、村っ子はまわ

おじいさん犬のトニーが知っていること

おじいさん犬のトニーが知っていることといえば、10年昔のことだ。あのころ、トニーの家の隣に…

鰯崎 友
5年前
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今日はたらふく煮え湯を飲まされたな。

今日はたらふく煮え湯を飲まされたな。しかし、。鱈だというではないか。横っ腹にたらふく、だ…

鰯崎 友
5年前
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転生

「先日の大風の止むころより、極楽鳥の羽がこのような命を宿したのです」 親王の言葉に、麗和…

鰯崎 友
5年前
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奥の間に導かれた円儀が目にしたのは、人間の頭ほど大きさの、七色の光彩を放つ繭だ。かたちは…

鰯崎 友
5年前
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使者

剛毅な性格の円儀でも、麗和の死はさすがにこたえた。魂を抜かれたように床に臥する日々を送る…

鰯崎 友
5年前
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麗和

麗和の声が、ここではない何処か別の場所より発せられたかのように聞こえる。天を飛ぶ神鳥のさ…

鰯崎 友
5年前
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小屋の外では風が吹き荒れ、木々を揺さぶっていた。円儀に抱きかかえられた麗和は、ただ暗闇の様子を、瞬きをすることも忘れて眺めている。円儀も黙りこくって、過ぎゆく時に身を任せるばかりだ。 山野の生物が息をひそめるこの夜にあって、円儀と麗和だけが、風の行く末を見守るかのように暗闇を見上げていた。 「わたしはみこ法師さまのことが好きだわ」 「うむ、かくいう俺も、はじめは頭のおかしな男と思っていたのだが、ばかばかしい嘘を真に受けて、涙を流す様子に、なんとなく同情を覚えたのだ。こ