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フリー獣医師とお留守番

「ゆっくり急げ(ラテン語:Festina Lente フェスティナ・レンテ) 」はヨーロッパの様々な言語に伝わる格言。一般に「求める結果に早くたどりつくには、ゆっくり進んだほうがよい」、また逆に「歩みが遅すぎると求める結果が得られない」を同時に意味するとされる[1]。もとはギリシャ語の「σπεύδε βραδέως(スペウデ・ブラデオース)」という格言[2]。
Wikipedia「ゆっくり急げ」より

今日のお仕事


本日はとある動物病院にお仕事で来ています。
獣医師は院長先生お一人で、スタッフは3名の病院です。

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写真:看板犬の大和くん

僕のここでのお仕事は
お留守番の獣医さんです。
院長先生がお休みの日に、診療を行っています。
医者で言うところの、代診医ですね。

月に2日ほどのペースで代診に入っておりますが、
代診を自分でやってみて、獣医さんの新しい働き方を感じました。

それについて、このブログで解説していきたいと思います。

最もお伝えしたかったことは、
この記事の最後の項目「ゆっくり急げ」
にまとめてみました。

お時間の無い方はそこだけでも読んでいただけましたら幸いです。

お留守番の獣医さん

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お留守番の獣医さんの仕事内容について書いていきます。

こちらの病院は診療が完全予約制で、
あらかじめ治療方針が定まっている患者さんがほとんどです。
問題が無ければ予定通りの治療を、
問題があればオンラインで院長と相談しながら治療方針を立てていきます。

ここでの僕のお仕事は、とにかく平穏に過ごすこと

病態が自分のキャパシティを超える可能性があると判断した場合、
正直にお伝えし、近くの二次診療施設や救急医療施設を紹介させていただくこともあります。

お留守番に限って言えば、
自分の成長や知的好奇心の優先順は常に一番下にあります。
(もちろんどの獣医さんも患者さん最優先ですが)

今のレベル以上のことにチャレンジしたり、
それらを院長先生から求められることはありません。


その代わり、
お留守番中は比較的時間があるので、
患者さんの些細なお悩みに耳を傾けたり、
世間話で盛り上がったり、
そんな時間を大切にできます。

今日はある患者さんと30分間、
猫という生き物が持つ魅力について語り合いました。

院長にもこの話をお伝えしたところ、
怒られるどころか、とても喜んでいただけました。

フリーの獣医さんとしてお仕事をして行く中で、

院長と2人でバンバン診療を行い、
診療後にビールでお互いの健闘を称え合う日もあれば、

ひたすら臨床検査(超音波画像診断など)に努め、
自分の技術を研ぎ澄ます日もあり、

そして今日のように、患者さんと病院の平穏を守り抜き、
院長のお休みを全力でサポートする
という日もあります。

優れている劣っている、正しい間違っているではなく、
獣医さんっていろんな形があって面白いなとつくづく思います。

お留守番のコスト

このブログを読まれている院長先生、
もしくはお留守番の働き方にご興味のある獣医さんに向けて、
コスト面のお話しをしたいと思います。

興味のない方は、どうぞ読み飛ばしちゃってください

臨床4年目の僕の場合、お留守番1日あたりの日当は25,000〜30,000円です。

オペ等はありませんので、診療は17:00までといった短縮形式で行う事がほとんどです。

次にお留守番の費用対効果ですが、
診療業務をもってしても、
僕が生み出す生産性は日当とあまり変わらないか、
よくて少し上回るくらいです。

診察が少ない日は、マイナスになる日もあると思います。

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図:お留守番の費用対効果イメージ

なぜそれでもお留守番が必要なのか

休診にしない理由を一度院長先生に尋ねたところ、
以下の二つの理由を挙げられました。

一つ目の理由は、獣医師免許を持ってる人が1人いるだけでも、
診療業務に限らず病院全体としての生産性は高まる
ということです。

代表的なお仕事として、入院管理やトリミング時の予防接種などが挙げられます。

休診にしてしまうと、正社員の方の雇用費用でマイナスになってしまうため、
トータルがプラマイゼロでも、病院が稼働していた方がずっといいということのようです。

これに関しては個人的な見解も多いので、
是非一度他の先生方のご意見もお伺いしてみたいです!

二つ目の理由は休診よりも代診の方が患者様にとって望ましいということです。

患者様からすれば、違う先生に診てもらうことに変わりはないので
別の病院に行くよりも
カルテがあり、主治医と連絡の取れるいつもの病院の方が安心して頂けるのだと思います。

以上がお留守番獣医師のコストのお話です
もちろん、病院・獣医さんによって働き方はこの限りではないと思いますので、あくまでn=1の症例報告だとお考え下さい。

ゆっくり急げ

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このブログで最もお伝えしたい事を書きます。
お付き合いいただけましたら幸いです。

冒頭で紹介したヨーロッパの格言
「ゆっくり急げ」
僕はこの言葉が大好きです。

情報やサービスが目まぐるしく変化し、簡単に人と繋がれるこの時代には、
生き急いでしまう理由が溢れ返っていると感じる事があります。

僕自身、
日々の診療や、大学病院での研修、セミナーでの勉強、流行の先端医療など
ついていこうと必死になり、
気付けば目の前の患者さんを大切にできていない
本末転倒マンになってしまった事も何度もあります。

もちろん、腕を磨く努力は獣医師として必要ですし、
それを体現されている先生のことを心から尊敬しています。

しかし、中には自分の限界を越えて体や心を削ってまで働き、
結果、獣医を辞めてしまう方もいます。

あるいは様々な理由で、
本当は働きたいのにそれが叶わず、
小動物臨床から去ってしまう獣医さんもいます。

僕は最初に務めた病院を半年で退職した苦い思い出があります。
当時は本気で獣医を辞めようか悩みました。

そのような方々に、こんな働き方もあるんだと
知っていただけたら幸いです。

キャリアアップやスキルアップは少し忘れて
等身大の自分を世の中のために役立てる

院長先生が安心して
休息やお勉強にお時間をあてていただければ、
より良い医療の提供にも繋がります。

やってみて初めてわかりましたが、
お留守番の獣医さんはそんなお仕事です。

月に2日、人と人とが向き合い、
血の通った獣医師の仕事を思い出させてくれる、
僕にとってもありがたい時間です。

お留守番獣医さんは、病院からも患者さんからも必要とされています。
一度臨床の現場を離れた方や、
忙しさに疲れた方にお勧めできる働き方です。

1人でも多くの獣医さんに、こんな働き方もあると
知っていただけましたら幸いです。

もしお力になれる事がありましたら、
美味しいお酒でも飲みながら話しましょう

こんな獣医師免許の使い方もあってもいいのかもしれないというお話でした。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

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写真:先日15歳のお誕生日を迎えた大和くん



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