正方行列、零行列、単位行列、和と積
こんにちは。
今回の記事では最も基本的な行列と演算(計算)について紹介したいと思います。前々回の記事では$${n \times m}$$行列がどんなものなのか紹介しました。縦に$${n}$$個、横に$${m}$$個要素があるものを一般に$${n \times m}$$行列というように具体例を示して紹介しました。今回は重要な行列と基本的な計算について書こうと思います。
正則行列
まずは正方行列からです。
"正方行列"とは縦と横、同じ個数の要素がある行列のことをいいます。つまり、$${n \times n}$$行列のことです。まだ紹介していない"正則"とちょっと漢字と読み方が似てるんで混同しちゃいそうなのですが、全く違う概念です。2次正方行列といった場合、$${n \times n}$$行列の$${n}$$が$${2}$$であるということをいいます。つまり、$${2}$$次正方行列とは$${2 \times 2}$$行列のことです。
零行列
零行列とは行列の全ての要素が$${0}$$である行列のことをいいます。$${2}$$次正方行列の零行列は
$$
\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0 \\
\end{pmatrix}
$$
になります。零行列は数式の中では$${O}$$や$${0}$$と表記します。
単位行列
単位行列とは対角成分が$${1}$$でそれ以外は$${0}$$になっている行列のことをいいます。数学では行列の要素のことをよく成分と言ったります。対角成分とは行列の左上から右下の直線上にある成分のことです。例えば$${2}$$次正方行列の単位行列は
$$
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}
$$
3次は
$$
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0\\
0 & 1 & 0\\
0 & 0 &1
\end{pmatrix}
$$
というふうになります。単位行列は$${E}$$や$${I}$$とかで表したりします。人や分野(文脈)にどっちを使うかは変わります。筆者はどっちも線形代数の本で見かけていて、適当に使い分けてます。
行列の成分
行列の成分は座標みたいなものが振り分けられていて、2行目の3列目の成分を$${(2,3)}$$成分といいます。ここで注意しなければいけないのは中学校で習う座標は横が先、縦が後ですが、行列では縦が先で横が後の数字に対応していることです。例えば行列
$$
A = \begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
4 & 5 & 6\\
7 & 8 &9
\end{pmatrix}
$$
の$${(3,1)}$$成分は$${7}$$です。また行列$${A}$$の$${(i,j)}$$成分は対応する小文字$${a}$$を用いて$${a_{i,j}}$$と表すこともあります。この場合、$${(2,3)}$$成分は
$$
a_{2,3}=6
$$
となります。
行列の和
行列の和は次のように同じ次数の正方行列に対してそれぞれの要素を足し算したものになります。例えば$${2}$$次正方行列$${A}$$,$${B}$$の和は
$$
A=\begin{pmatrix}a & b \\c & d \\\end{pmatrix}
$$
$$
B=\begin{pmatrix}e & f \\g & h \\\end{pmatrix}
$$
とすると
$$
A + B =\begin{pmatrix}a & b \\c & d \\\end{pmatrix}+
\begin{pmatrix}e & f \\g & h \\\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}a + e & b + f \\c + g & d + h \\\end{pmatrix}
$$
というようになります。
正方行列の積
正方行列の積は次のように定義されるのですが、最初にこのような一般形を覚えるのではなく、計算して体得したほうがよいです。具体例は、後に紹介します。
$${n}$$次正方行列$${A,B}$$に対して、
$$
AB =\begin{pmatrix}a_{1,1} & a_{1,2} & \dots & a_{1,n} \\
a_{2,1} & a_{2,2} & & \vdots \\
& & \ddots & \\
\vdots & & & \vdots \\
a_{n, 1} & a_{n, 2} & \dots & a_{n,n} \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}b_{1,1} & b_{1,2} & \dots & b_{1,n} \\
b_{2,1} & b_{2,2} & & \vdots\\
& & \ddots & \\
\vdots & & & \vdots \\
b_{n, 1} & b_{n, 2} & \dots & b_{n,n} \\ \end{pmatrix} \\ =\begin{pmatrix} a_{1,1}b_{1,1} + a_{1,2}b_{2,1} + \dots + a_{1,n}b_{n,1} & a_{1,1}b_{1,2} + a_{1,2}b_{2,2} + \dots + a_{1,n}b_{n,1} & \dots & a_{1,1}b_{1,n} + a_{1,2}b_{2,n} + \dots + a_{1,n}b_{n,n} \\
a_{2,1}b_{1,1} + a_{2,2}b_{2,1} + \dots + a_{2,n}b_{n,1}& a_{2,1}b_{1,1} + a_{2,2}b_{2,2} + \dots + a_{1,n}b_{n,2} & & \vdots \\
& & \ddots & \\
\vdots & & & \vdots \\
a_{n,1}b_{1,1} + a_{n,2}b_{2,1} + \dots + a_{n,n}b_{n,1} &
a_{n,1}b_{1,2} + a_{n,2}b_{2,2} + \dots + a_{n,n}b_{n,2} &
\dots & a_{n,1}b_{1,n} + a_{n,2}b_{2,n} + \dots + a_{n,n}b_{n,n}
\end{pmatrix}
$$
となります。$${2}$$次の具体的な計算例は以下のような感じです。
$$
A =\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4 \\
\end{pmatrix} ,
B=\begin{pmatrix}
5 & 6 \\
7 & 8 \\
\end{pmatrix}
$$
としたとき、
$$
AB =
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
5 & 6 \\
7 & 8 \\
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
1 \cdot 5 + 2 \cdot 7& 1 \cdot 6 + 2 \cdot 8 \\
3 \cdot 5 + 4 \cdot 7 & 3 \cdot 6 + 4 \cdot 8 \\
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
19 & 22 \\
43 & 50 \\
\end{pmatrix}
$$
行列の積について注意しなくてはいけないことは、一般的には積は非可換であることです。非可換とは、上の計算で言うと$${AB}$$の順序を$${BA}$$というふうに逆にすると、$${AB}$$と$${BA}$$は違う行列になるということです。四則演算では
$$
4 \times 3 = 12 = 3 \times 4
$$
っていう感じで積は可換、つまりこの場合だと3と4は入れ替えても同じ12になるのですが、行列の積だとこれが成り立ちません。さっきの$${AB}$$の逆の$${BA}$$を実際に計算してみると
$$
BA=
\begin{pmatrix}
23 & 34 \\
31 & 46 \\
\end{pmatrix}
\neq \begin{pmatrix}
19 & 22 \\
43 & 50 \\
\end{pmatrix}
$$
というように、$${AB}$$と$${BA}$$は一致しません。可換な特殊な行列もありますが、上記のように普通は可換ではないので気をつけましょう。
行列$${A,B}$$は正方行列じゃなくても積は定義できます。$${A}$$の列の個数と$${B}$$の行の個数が同じである時、行列の積を定義できます。このとき、例えば行列$${A}$$が$${a \times b}$$行列、$${b \times c}$$行列のとき、その積は$${a \times c}$$行列になります。回転行列とかを紹介するときに具体例をお見せします。
零行列と単位行列の性質
一番最初に零行列を紹介しましたが、零行列は普通の四則演算の$${0}$$みたいな次の性質があります。任意の$${n}$$次正方行列$${A}$$に対しては$${n}$$次正方行列の零行列$${O}$$は
$$
AO=OA=O
$$
を満たします。
単位行列は四則演算の$${1}$$みたいな性質があります。任意の$${n}$$次正方行列$${A}$$に対しては$${n}$$次正方行列の単位行列$${E}$$は
$$
AE=EA=A
$$
を満たします。
今回紹介すること以上となります。
なにか参考になれば幸いです。
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