そっち行かないで! --- 映画「LAST NIGHT in SOHO」レビュー ネタバレあり)
コロナ自粛のおかげですっかり配信メインになってしまっていましたが、本当に久しぶりの映画館です。カミさんが何やらネットで評判がいいと聴いたらしいので、それに付き合い本当になんの予備知識も無い状態で鑑賞。映画との出会い方としてはこれは理想的かもしれない。
英国の片田舎でファッションデザイナーに憧れる少女がロンドンの服飾学校の合格通知を受け取るまでの冒頭数分の出来が素晴らしく、開始10秒でバッチリ眼が覚めました。音楽、衣装、カメラワーク、完璧。主演のお嬢さんの身のこなし、表情、最高。これは俺好みの映画だと五感がビリビリ訴えてきます。実はもうこの冒頭の時点で彼女が「他人には見えない物が見える」人であることはしっかり描かれてしまうわけですが、私はこの「彼女に見えてしまう物」が彼女が夢を叶えるオシャレな手助けをするんだろうなと勝手な想像を巡らせていました。その手の映画、大好きなんで。
実際、物語中盤までは本当にいい。主人公が過去の同世代の記憶にシンクロして才能を開花させていくあたり、もう眼福としか言いようがない。主役の女優さんと、彼女にシンクロする過去の女を演じる女優さんが実に魅力的に取られていて、綺麗なお姉さん好きの私としては本当にワクワクしたんです。
ところが物語が後半に入るに従って、どんどんホラー色が強まって、のっぺらぼうの亡霊がたくさん襲いかかってきたり、きゃあきゃあ叫び声を上げて包丁振り回したり、まあ大変な騒ぎになっていくわけですが、私は見ていて残念で仕方がなかったですね。ずっと「えーっ!?そっち行かないで!私が見たいのはそっち方面じゃないのに!」と思い続けてました。
もちろん見終わった今になって思えば、前半を魅力的に描かないと後半の悲劇的な展開が盛り上がらないというのはわかるんです。わかるんですけどね…。もっともっとファッションデザイナーの夢に邁進して悩んだり苦しんだり仲間と助け合ったりする話が見たかった。なにより可愛い女の子が素敵な衣装をたくさん着る姿をもっともっと見たかった!それができるキャストであり、スタッフであり、監督だったと思えるだけに、本当に残念。しかもラストは取ってつけたような成功で終わる。あの衣装だけで評価されるというのはちょっと物足りないし、ドラマの締めくくりとしてはいくらなんでも唐突すぎました。
あと、主人公に思いを寄せる男子学生が、取ってつけたように黒人だというのもちょっと白けてしまいまった原因です。いや、彼自身はすごく人間味に溢れていて好感度高いのですが、ほとんど白人の登場人物で中に彼だけ黒人という感じなんです。60年代の白人しかいなかったロンドンと現代のロンドンの風景の大きな差として描かれているのかもしれませんが、それはうまくいってないと感じます。うーん、うまく言えませんが、お似合いじゃないんです。しっくりこない。ハマらない。無理がある。ネットを漁ってみると実際には白人女性と黒人男性のカップルは普通にいるみたいなんで、これは僕の感性が古いのでしょう。同じ理由でTENETも駄目だったし。
多分、ホラー作品としてみれば十分に面白いです。怖さも適度にマイルドですごく良くできてる。監督のこだわりも伝わってくる作品で好感度高いです。
ですが、私の感想としては、とにかく冒頭5分のイメージのまま突っ走ってくれてたら間違いなく今年のベストワンだったのに、とにかく惜しいという気持ちしかありません。もったいない作品でした。
あまりに悔しいのでこれからハッピー・デス・デイを観なおします。
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