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五輪マラソンと東京マラソン

新型肺炎が国内流行の兆しを見せる中、東京マラソンの一般の部が中止になった。五輪マラソンの北海道移転と合わせて、五輪イヤーの盛り上がりに2度に渡って冷水をぶっかけられたような気がする。

僕が東京マラソンに初めてエントリーしたのは北京五輪の翌年だった。それまではジムのランニングマシンで走ることしか知らなかったけど、北京五輪の男子400メートルリレーを見て、思わずミズノのジャパンモデルのランニングシューズを衝動買いしてしまった。そしてなんとなく皇居を走っているうちにフルマラソンいける気がして、何も考えずに抽選に申し込んだらあっさり当選してしまった。

いざ当選してみてわかったことは、東京マラソンにエントリーするというのはただ東京を走るイベントではなかったということだ。事前に受付済ませるために訪れたビックサイトにはスポーツ用品やサプリメントの展示ブースが並んて空気を盛り上げる、受付のかわいい女の子に励まされてゼッケンや記念品を受け取る。もう見るもの聞くもの楽しくて仕方がない。当日ももちろん楽しい。まず芸能人をたくさん見かける。石原慎太郎、かっこ良かった。ダウンタウン浜田、すごく小さかった。松村邦洋を見て、これは無理だろうと思ったら救急搬送されたとあとから聞いた。宮根誠司、俺を追い抜く姿をミヤネ屋でしかもCM跨ぎで放送しやがった。芸能人以外にも様々なコスプレの人が楽しませてくれた。もちろんかの有名なキリスト様の姿も拝めた。

そして歩道ではたくさんのカメラマン。これはランナーの記念の写真を撮っている。あとからゼッケンで自分が写っている写真を検索して購入することができる。ボランティアの皆さんが様々な食べ物や飲み物が用意されている。木村屋のあんぱんは、即エネルギーになることを実感した。終盤雨に降られたけど、全然寒くなかったし、むしろ気持ちいいくらいだった。完走するとまたかわいい女の子にメダルを掛けてもらえる。

完走したことで感動したか?と問われると、僕の場合は少し違う。僕はエントリーが決まってから計画を立てて走り込みや筋トレをやったし、自分なりのペース配分も計画して臨んで、ほぼその通りに走り切ることができた。その一連のトレーニングで得られた自分に対しての自信が一番大きい。タイムとしてはサブ4にも届かない記録だけれども、大会までのプロセスは誰に話しても恥ずかしいものではなかったと思う。

東京マラソンを完走したからと言って突然人生がかわるなんてことはもちろんない。でもその後いろんな所で会話のネタにも使わせてもらったし、何人かの人には褒めてもらえたり、とにかく良い思い出になっている。当時の参加費は15,000円だったけど、全然高いと思わなかった。

東京マラソンが東京オリンピック構想の延長線上にあるのは知っていたけれど、まさか本当に誘致できるとは思っていなかった。そして東京オリンピックが決定したときにまず思ったのが、「僕が走ったあのコースを五輪の選手が走るのか!」という喜びだった。実際には全く同じコースではなかったけれど、それでも2度に渡って東京マラソンを走っているという経験が、僕の気持ちを高揚させた。自分の経験をオリンピックの競技に重ね合わせて見ることができる日が来るのが楽しみになった。ちょっとした当事者目線で競技を見ることができるのが嬉しかった。

しかしながら酷暑対策によるIOCのゴリ押しによって、マラソンは北海道に会場を移してしまう。僕の楽しみは失われてしまった。

更に今回、新型肺炎の流行を防ぐために東京マラソンの一般参加が取りやめになってしまった。おそらく初めてフルマラソンを経験する人も多かったろうと推測する。がんばってフルマラソンを走り抜いてその時に自分が感じた足の重さとか呼吸の苦しさとか給水で身体が持ち直す感覚とかそういういろんな物を重ねて五輪のマラソンを見ることを楽しみにしていた人たちがたくさんいる。

twitterでは「なぜ大金を払ってまで辛い思いをするのか」などと面白おかしく議論されているけれど、僕は東京オリンピックのマラソン移転と、東京マラソンの一般ランナー参加中止をとても残念に思っている。ある意味東京オリンピックの核となる部分が失われたとさえ思っている。選手と応援する側で、最も思いが重なる部分が多い競技がマラソンで、そのために今日までの東京マラソンの積み上げがあった。例え今回の東京マラソンの縮小開催が避けられなかったとしても、五輪のマラソン競技が東京で行われていれば、来年は「オリンピックの舞台になったコースを自分で走る」という楽しみも生まれていたはずだ。今回それすらも失われてしまった。これは大会の盛り上がりに大きく水を差すと思う。日本のためとかではなく、単純に多くの人たちの楽しみが失われてしまった。石原慎太郎はそこをわかっていたと思うし、小池百合子はいまだにわかっていないと思う。石原慎太郎だったらマラソン競技の北海道移転を防げたとは言わないけれど、もはや決まった事とはいえ、とにかく残念だ。

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