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2022年8月の記事一覧

夕立あとの木漏れ日に――お盆によせて

 夕立が通りすぎたあと、久しぶりにお墓参りをした。家族を乗せた車が、濡れた路面の上を走っていく。  ラジオでは、月命日で故郷の石巻に帰ったという人のリクエストで、秋川雅史さんの「千の風になって」が流れている。雨上がり、車の外のコンクリートは濡れていて、ところどころに水溜まりがあった。曇っていた空はだんだんと晴れ間を見せて、太陽の光が差し込んで眩しい。  ふと、目の前に広がる木々と太陽が作り出す木漏れ日に目が行く。晴れた夏の木漏れ日は、強い日差しで濃い影を作り出していて、は

寄せて、引き、また寄せて

 海に行った。海が見たかった。  幼い頃からよく海辺に出かけるような家庭ではなかったし、私自身も海辺で遊びたいと強く思ったことはない。けれど、ふとした瞬間に海が見たくなる。  久しぶりに海水浴場に行った。夕方、もうほとんど人がいない海辺。遠くに見える島と、遊覧船。裸足で砂を踏むとき、しっくりくる、と素直に思った。  波が寄せるところまで近づいた友人を見て、私も歩き出す。波は規則的に、寄せては引いてを繰り返していた。濡れた砂は泥になり、ゆっくりと私の足に侵食する。小さなカ