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無知から始まるTRPGログ本制作

はじめに

最近TRPG、主にクトゥルフ神話TRPGを嗜んでいる。
TRPGについての詳しい説明や用語解説は省くが、ボイスセッションや半テキストセッション(以後半テキ)で遊んでおり、特にテキストの残る半テキのログを整形して宝物ファイルに突っ込んでいた。

特に思い出に残っているシナリオのログなんかは頻繁に読み返しているのだが、その時にこんなことが頭に過ぎった。

このログ物理本でほしい!!!!!!
自陣のグッズとしても欲しい!!!!!!
本棚に置きたい!!!!!!!!!!!!!

というわけで居ても立ってもいられず、うちよそ相手の同卓者を巻き込んで物理ログ小説本制作を行うことになった。これはそれの記録noteである。



物理小説本を作るにあたって、やらなくてはいけないことが沢山ある。
しかも私は同人誌制作の初心者。買うことはあっても作ることは初めてだ。
ひとまずWordやAdobe製品は手元にあるので、なんとかなるだろう精神で仕様検討に移った。


仕様を決める

まず作りたい本の理想系を決める。しかし決める要素は沢山ある。
やれサイズだの紙など、とにかく種類が豊富な上に何がどう作用するかがわからない。普段テキトーな気持ちで同人誌や書籍を手に取っていた事を反省した。わからないならひとまず既製品で理想系を探そう!と自宅の本棚を漁り、目安を決めた。

今回理想型にしたのはこれ。「兇人邸の殺人」
この本は本文360p、B6サイズ、上製本の丸背。花布やスピンもある。
うん、すごくかっこいい。

カバーを剥いたもの。

加えて、新潮文庫が夏に毎年出しているプレミアムカバーに憧れがあった。
こういうシンプルな箔押しもやりたい。

ちなみに書籍のサイズ感はこちらを参考にして欲しい。単行本でよく使われるのはB6と呼ばれるものであり、文庫と呼ばれるのはA6サイズである。

よし、これを基準にしよう!と隣に置きながら、早速これが出来そうな印刷所を探すぞ〜と意気込んだ。

が、本文に使われている紙がわからない。
学生時代にヴァンヌーボやマシュマロ、マーメイドなどはやたら使っていたので触るとkgや紙種が分かったりしたが、本文の黄みがかった紙がぜーんぜんわからない。とりあえず触った感触で100kg以下なのはなんとなくわかった。

ここで用意したのが紙見本である。
紙見本は印刷所などが出している、取り扱っているいろんな種類の紙をまとめたサンプルである。大概500円~1000円ほどで請求できる。
扱っている印刷所によって取り揃えている紙が違うので一概には言えないが、ひとまず以下のものを請求した。

上記の紙見本と印刷見本、本文見本、表紙見本。などなど。
そして小説向けの書体見本帳を購入した。

これが特に良かった。1番参考になったサンプルである。
フォントの種類、フォントサイズ、使われている紙の手触り、オフセットとオンデマンドのインキの違い、全てが分かった。
2024上旬のベストバイと言っても過言ではない。


印刷所を探す

いざ、色々分かってきたところで印刷所探しである。
おおよその仕様と照らし合わせ、希望通りの注文ができそうな場所を探した。

同卓者と共同で作るのでディスコードでやりとり

今回、印刷部数は個人的に楽しむ範囲でしか刷らないので1冊から作ってくれるところ限定である。ここで多くの印刷所が脱落していった。

緑陽社
カスタムコースとなり、ロット30部からで❌

STARBOOKS
過去にオーダーメイド注文があったが2016年に終了。泣く泣く候補外に。

おたくらぶ
良さげだったが最低ロットが10部からだった。

オリンピア
布張りは気になったが遊び紙などの種類が少ない。


そして最終的に決まったのがここ。大手である栄光。

紙の種類がそこそこあるのと、1冊から作れるのが決め手だった。
取り扱っているセットの中のノベルセットで上製本を選択し、記載された仕様を参考に大まかなところを決めていく。
カバーに関しては紙をこだわりたいので別の印刷所で個別で印刷するという話になった。

イベントに出すわけではないが、記念日に手元にあって欲しいのでこんなスケジュールに

作者に許可を取る

今回、作ろうとしているものは単なる二次創作ではない。
他者の作成した同人TRPGシナリオを、自分がプレイした記録を交えて二次創作的に物理本にするので、同人誌の同人誌。何次創作なのだろうか。
そのため個人で鑑賞する為だけとはいえ許可取りが必要である。基本的にはその作者が提示している規約に従おう。

作りたい旨と頒布範囲、ネタバレに対する取り扱いやSNSでの公開範囲を明記した上で一報を入れた。無事確認が取れ、許可と優しいお言葉をいただけたのでルンルンである。
現在該当シナリオは非公開だが、シナリオ作者さんはこちら。


データを作る

ざっくり決まったところでここからデータの作成である。
今回、TRPGをプレイした際のログが本文となる。従って本文の量はシナリオ本文+キャラクターが喋ったセリフ/書き加えた描写となる。

その遊んだシナリオの本文量、実は40万字以上ある。
世界観の説明や、ルール説明などを抜いたとしても、おそらく30万字はある。
そう、今回作ろうとしてるものはすごい量だった。初めての物理本制作でやる量ではない。バカである。
しかし熱量だけはあったので、同卓者と手分けして作業することにした。
やりたいこととしては単純なリプレイ本ではなく、小説として読めるような形のログ本のため、自然に読めるように細かい部分の修正が必要だった。

  • あなた、あなたたちなど言い回しの調整

  • だろう、かもしれないなどのシナリオでよくある表現の修正

  • 秘匿と呼ばれる個別シーンの見せ方

  • 秘匿の処理を同時進行で進めたシーンの順序の整理

  • 戦闘シーンなど、ダイスロールのみで描写がない部分の描写の追加

  • 雑談タブで喋っていた内容の取り扱い

などなど。地の文はあれど、意外とやることが多い。実際この調整がめちゃくちゃ大変だった。
自分達のやり方がベストだとは思わないが、共同制作である程度便利だったので記録として記載する。

まず共同のデータ置き場を作る

共同制作ではデータの受け渡しや共有を楽にするのがめちゃくちゃ大事である。いわゆるクラウドストレージサービスを使うと便利なのだが、今回はBoxを使用した。
Boxはオンラインでファイル共有ができるサービスの1つで、無料で10GBから利用できる。スマホからアクセスも出来、それ以外にもMicrosoft Office 365などと連携が出来るところも便利ポイントである。

Boxで共同編集者として同卓者を招待し、そこでデータのやり取りを始めた。

メインと雑談の取り扱いを決める

まず、私は普段TRPGセッションでココフォリアというサービスを利用している。こちらのサービスでは全ログというものが出力でき、これを基にログの修正を行うことにした。

便利だなぁ。いつもお世話になってます

そして、画像でタブが見えているように、ココフォリアにはメインタブや情報タブ、雑談タブというのがデフォルトで存在する。
それ以外にも個別でタブを増やすことができるが、共通しているのはタブ毎にそこに送信された内容が整理されているところだ。
その為、並行処理が可能になる。メインタブで描写が流れている後ろで、雑談タブでやんややんやと騒ぐことが可能だ。

つまり、リアルタイムの反応が雑談タブに残っていたりする。
当初小説的に読めるように、としていたが、リアルタイムの反応はどうしても捨て難い。このシーンにどんな反応をしていたのかを平行で見たい。
なので文章を上下で分けることにした。上部は小説として読め、下部で当時の反応も見れる。いいとこ取りである。これで本文のデザインが出来た。

後述で詳しく説明するが、栄光で配布しているInDesignテンプレートを魔改造したもの

ログをWordにペースト

次にやることは編集データの素体作りである。ここがまぁめんどくさかった。
今回、シナリオが章ごとに分かれているものだった為、ある程度区切りがあったが何せ量が多い上に一部は作成したココフォリアルームの都合上、合体してる章もある。ひとまず担当として割り振った話ごとに別データとしてWordデータを作成した。

この時点はログベタ張りである。一括コピペのため、メイン・情報・雑談全て混ざっているので、まず雑談の文章をひたすら消した。苦しい単純作業である。

こんな感じで混ざる

そして次に文頭の[雑談][メイン]や発言者名の一括削除を行った。
こちらはWordの検索機能と置換を利用したのでボタンポチで一発だった。
楽だ〜〜

また、リプレイではないのでダイスの判定を消す。これはひたすら手作業。
ダイスの判定を先に消してしまうと、描写を書き加えるときに何をしたか分からないのでは?と思われるかもしれないが、デュアルモニタでWordとログのhtmlを同時開きで同じ箇所を見ながら作業をしたので問題なかった。
デュアルじゃなかったら結構めんどくさかったと思う。
他にもシステム説明やプレイヤー向けの補助情報なども全て削除している。

そのような作業を経て、ようやく編集用の地の文ができた。
ここからが長い戦いである。まず、フォントサイズや名前の取り扱い、秘匿情報の取り扱いルールを決めた。
下記画像に記載以外にも「数字は漢数字で統一」などもある。

その時のメモ。斜線部分の理由は後ほど

セッション時、セリフに合わせて表情を変える遊びをしていたのでセリフが小分けになりまくっていた。これを程よく一括にしたり、余計なものを削除する作業もしている。

こんな感じで小分けになる。これはネタバレのないシーン

上の画像で、実は「……」と「…」(真似して手だけ合わせる)で表情が変わっている。しかし小説として書き起こすと、表情が見えないので何をしているのかが分からない。それに「…」が続くのは冗長なので片方を削除したり、

「…」
椒は薬卸の行動をじっと見る。そして黙ったまま真似をするように手を合わせた。

例文

などのように一部削除した上でその時の描写を書き加えたりした。
※実際このシーンではやってない。例として挙げただけ

ここでハプニング発生

Word側で自分の担当範囲の一部が出来上がったので、InDesignのデータに文章を流し込む。

と、なんと!インデントやフォントサイズが初期状態にもどった!!!!
ここは私のInDesign無知による設定ミスかもしれないが、文字情報が全て削除された上で文章が流し込まれたのである。
秘匿情報の見せ方をいちいちWord側でも調整していた作業が無に帰した。

即座に連絡。悲しみのルール変更

InDesignのソフトを持っているのが私だけだったので、ひとまず全部流し込んだ後に一括で秘匿や情報の見せ方を調整することにした。
本文と秘匿・情報の間は2行空け、フォントサイズは7ptで統一することに決定。そんな作業をちまちま進め、ようやく全ての文章データが完成した。

ただ、ここで埋まったのはInDesignのテンプレート上段のみである。
ここから同じタイミングで発生した雑談などのコメントを差し込む作業が発生した。

本文はネタバレなのでぼかし

こんな感じでテンプレートに差し込んでいく。
デュアルモニタでInDesignと元のhtmlログを表示しながら、画面内検索でハイライトをかけてわかりやすくした上でひたすらのコピペタイム。
無心だった。単純作業なので、自陣のイメソンを流しながらテンションを上げて頑張った。
これを乗り切り、ついに全てのページデータが完成した

入稿データを作る

栄光では500ページまでしか対応していないため、今回のデータ量で1冊にまとめるのは無理である。そのため、上下巻で分けることにした。
データもInDesignのブック機能を使って分けて作ったInDesignデータを結合した。楽だね〜(半泣きでデータをいじくり回していたことは割愛)

入稿データの形式は印刷所によりけりなので、ちゃんと確認をする。
今回は本文はPDFデータ、表紙はaiデータにした。

表紙を作る

表紙データは背幅がわかってから作成した。
背幅は印刷所によっては自動計算ツールなどがHPに掲載されていたりするのでそれを参考にすると良い。もしくは紙の厚みがHPに載っているはずなので、それで計算する。

グリーンの紙に白インキと箔押しのみで考えていたので、以下のようなデータをIllustratorで作った。
これをインキと箔でファイルを分ける。ここら辺は印刷所のやり方に従おう。

紙色を仮置きしたデータなので実際グリーンは印刷されない

これで入稿データが全て完成した。上巻336p、下巻368p
あとは入稿するのみ。


価格トンデモ編

ここから生温いお金の話をする。

今回、特殊な加工をたくさんする予定なのでHPの自動見積もりができなかった。そのため、入稿データが完成してから見積もり依頼をした。
HPに載っていた価格表や自動見積もりでわかった範囲を足して、ある程度個人で見積もってはいたが実際どれくらいかかるのか分からない。
ドキドキしながら見積もり結果を待った。

返ってきた結果は割引を入れて上巻4冊で74990円。想定より高くはなったものの、1冊18500円。正直許容範囲だった。
が、しかし。上下巻合わせると37000円。これは結構するなぁ〜〜!
4冊中2冊は私がKPをした同シナリオ2PLの相手に渡す予定だったので、結構な負担となる。ここで4冊は諦め、2冊で再見積もりをしてもらった。

結果。上巻2冊で71290円。そりゃあそうである。
本は刷れば刷るほど1冊単価は安くなる。減らせば単価は上がる。
下巻は上巻よりページ数があるのでもっと高かった。上下巻で7万円を超える事態は、流石に私たちには無理だった。富豪であればやってた。
印刷所には申し訳ないがキャンセルをさせてもらい、仕様を見直して別の印刷所を探すことにした。
ある程度の同人制作経験値がないとこういうことになる。気をつけよう。

仕様の再編

どこで金額が跳ね上がったのか。どう考えても上製本加工と箔加工だ。
書籍のサイズ変更はデータを全て作り直す必要があるのでなるべく避けたい。あくまでB6のまま、ある程度オプションは取りやめて再度ある程度元の仕様を再現できそうな印刷所を探した。

すると!なんと!いいところがあった!!
印刷通販ちょいのまだ。

同人誌を専門でやっているわけでは無く、個人で使える印刷所といった立ち位置のサービスである。なので即売会に合わせた締め切りなどの提示はなく、校了から営業日で計算して届くタイプだ。いついつまでに欲しいなどがあれば、余裕の持ったスケジュール立てが必要になる。
一応9/4までに欲しい気持ちはあったが、イベントなどは何にも関係ないのでオーバーしても許容範囲だった。
なによりここ、最大1000pまでいける。そんなに!?
一旦上下巻合わせた場合のページ数で見積もってみた。

箔押しも遊び紙も入れてるはずなのに

やす…くない???安いね…?
初めて同人誌を作るものだから平均価格帯を知らないのでなんとも言えないが、初期の見積もりと比べて圧倒的に安い。しかも上下巻で分ける必要もない。

今までの制作実績ページがあったので色々漁ってみると、HP自体には書いてないけれど袋とじ加工をやってる人もいる。すごいね!?
こまかな特殊加工なども、オペレーターと相談すればやってくれるらしい。
入稿は「完全データ」である必要はあるが、がんばりゃ作れる。
満場一致でここにした。

データの作り直し

印刷所が決まり直せばあとは完全データを作るだけだ。
InDesignデータを結合して1冊にした。ここでデータとの戦いで色々あったが割愛する。おかげでInDesignの知識がチョットついた。

表紙の紙は栄光と違って少なく、ほとんどホワイトのみの扱いなのでデザインを作り直した。

箔オンリーデザイン
タイトルロゴは私が作り、下のイラストは同卓者が描いてくれた。ありがと〜!

インクでの印刷は一切やめ、箔のみにした。イメージとしては新潮文庫のプレミアムカバーが近い。同じような装丁をしていた人が過去の制作実績の中にいたので参考になった。ありがて〜〜

それにしても1冊にすると、本文がキンマリの62kgとはいえ背幅が28mmもある。どれだけ分厚いかというと、ちょうど手元にあったMIU404のシナリオブックとほぼ一緒だった。京極夏彦よりは薄い。

ぶあち〜〜〜
MIU404はいいぞ

こうして完全データも入稿し、校了も終えて作業はひと段落ついた。
長い戦いだった。
ちょいのまさんとのやりとりはシンプルだがわかりやすく丁寧だった。


ついに届いた

9/3、記念日の前日についにログ本がとどいた。
在宅勤務の最中、嬉々として受け取り段ボールを開けた。

うおお!
うおおお!!!
うわーーーーー!!!!
分厚!!!!!!

出来てる!!!!
箔が綺麗!!!!!!!!!!!
すごい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


最初の理想形とは違うが、想像よりも良い仕上がりだった。
箔も線が細い部分が心配だったがとても綺麗に出力されている。すごい。うれしい。きれい。語彙が飛ぶ。
パラパラとめくってみたりもしたが、本文のネタバレになってしまうので割愛させてもらう。しかしオンデマンド特有のテカリもなく、非常に綺麗だった。(挿絵無しの話)
分厚い、でかい、きれい、でかい。存在感がすごい。喜びで頭の悪いことしか言えない。でも本当に箔オンリーのデザインが綺麗だった。
ちなみに予部が1冊ついた。


作ってみて

終えてみての感想は「大変だった」
初めて作る同人ログ本が700p超えはバカだと思う。自陣とシナリオに対する愛だけがモチベを維持させてくれた。
けれど実際、手元に置いてみるととんでもなく嬉しい。データでログは読めるけれど、本として手元にあると格別な感じがする。
この世に探索者の軌跡を存在させることができた。そんな感覚があった。

紙見本もつけてくれた

こうして無事完成したが、同人制作に詳しい人から見ればもっと考えて行動しろなど、見るも無惨な紆余曲折具合だと思う。
けれど楽しかった。実際こうしてずっしりと手元に生の本があるのは格別である。
初心者の戒めとして、参考になる人が一人でもいたら幸いだ。

みんなも作ろう!ログ本!
※作る際はなるべく作者さんの意向に従い、確認をとりましょう。


次はこれにかけるカバーと帯を作ります。
あとグッズ製作記録もそのうち残します。刺繍キャップとか。

かわいい

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