縊鬼

映画大好き。あと音楽も。

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最近の記事

怪談のようなもの

 この時節になると思い出すことがあります。ひょっとすれば、ただの妄想や夢の類いだったのかもしれません。だからこの出来事を安易に怪談と呼称するのは少々憚られるのですが、兎にも角にも、私の人生の中で最も恐ろしい体験でありました。拙く、不適切な表現も含む駄文ではありますが、不調法も愛嬌のうちと大目に見ていただけると幸いです。  中学三年の夏休みの事です。三年間続けた部活動の最後の大会が終わり、すっかり気の抜けた私は、日がな一日回りっぱなしの扇風機の前で怠惰な生活を送っておりました。

    • 二枚舌の男

      私の胸には虫が棲んでいる。 その虫はタイノエによく似ている。 諸君らはご存知かもしれないが、一応、断っておく。 タイノエとは、乳白色のダンゴムシのような外見をしていて、魚の口内に齧り付いて体液を啜る寄生虫である。 昔、この虫が父の釣ってきた夕餉の魚にへばりついているのを見たことがある。 俎板の上の魚が虚しく口を開閉する度に覗く無機質な双眸を発見して以来、魚が食卓に並ぶと決まってその虫の悍ましさを思い出し、食事どころではなくなってしまうのだ。 此奴が胸に棲みつくよう

      • テングナイト見参!

        「ヘイ、ポール。テングというジャパンのヨーカイを知っているかい?」 白衣のジョンがケースから何かを取り出しながら、背中越しにポールに問いかける。 知らない、ポールは乱雑に物が積まれたジョンの机を眺めながら返事をする。 小汚い研究室のひび割れた合成皮革のソファに腰掛け、ぬるくなった安酒を呷る。 ひさびさの再会だというのに、ひどくチープな歓迎にポールは退屈し始めていた。 不満の念を混めながらジョンに問い返す。 「それで?そのテングって何だ?」 「ヨーカイだよ、ポール

        • スーズー・ミー

          断崖でひしと抱き合う男女。男は頬を血で、女な頬を涙で濡らしている。がさついた口唇が淡い紅を差した口唇へと接近し、重なる。 そして暗転。 壮大な音楽に乗せて文字が下から上へ流れていく。 そして暗転。 今度はテレビの電源がぷつりと落ちる音がした。 電源の落ちたテレビの画面には二人の男の姿が反射している。 「おい!」 「エンドロールなんて観る必要ねぇだろ」 「わかってないな!君は!今!僕の大事な時間を台無しにしたんだぞ!」 「うるせぇな。だったらもう一度エンドロー

        怪談のようなもの

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          空中に表示される歴史の映像教材に退屈してきた田中は首の後ろに埋め込まれた機械に触れながら『電源を切る』と念じる。 光のみで構成された浮かぶディスプレイが消滅し、部屋に静寂が漂う。 しばらくの間、眠りにつこうと努力してみたが、少しも眠れそうになかった。 壁一面、いや、壁どころか床もベッドも枕元のよくわからない機械も全てが真っ白で落ち着かないせいだ。 巡回している看護婦の姿のロボットに声をかけ、煙草が欲しいと申し出る。 「申し訳ありません。当病室は禁煙となって おります

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