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小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#4 考える少年

宵宮氷 6月1日 水曜日 午後6時30分
        静岡県 紅無町 じいちゃんの家

「ねぇ、じいちゃん」
「ん、なんだ?」
 俺は夕飯にじいちゃんが作ったカレーを食べていた手を止めた。
 わざわざ手を膝の上に置く。緊張しながら息を吸って、思いきって声を出した。
「愛知県に、行きたいんだけど」
「ほぉ?なぜ急に?」
 去年はずっと静岡県から出なかった。愛知に行きたいとも一言も言わなかった。しかし、朝にいつもあの海の見える景色を見るのは、ただ自分を苦しめるだけだ、と思ったのだ。

「わらべたちに、会いたいからさ」
 あいつらに会いたいのも、理由の一つだ。
 きっと、いや絶対あいつらは仲良くやってるだろうし、そこに俺も混ざりたい。また、4人でいたい。そしたら、あの3人も歓迎してくれると思うから。
「、、、」
 じいちゃんの次の一言を待っていた。だが、じいちゃんは何も言わず、カレーを一口食べた。そして、飲み込んだであろう喉の動きを見て、もう一回待った。それなのに、またカレーを一口。
 俺はさすがに訊いてみた。
「じい、ちゃん?どうかな?」
 じいちゃんは飲み込んで、やっと口を開けた。
「好きにすれば良い。なんでも、お前のやりたいことをやれば良い」
「、、、!」
 ちょっとだけ素っ気ない言い方はいつものことだ。俺は、許してくれて嬉しかった。
「それじゃあ、携帯貸して!」
 一気にカレーをかき込んで、机上にあった携帯を取った。

 幼い頃に何度も読んで覚えていた、わらべの母のメールのアドレスを打ち込んで、件名を書いて、用件を書く。“わらべへ 久しぶり。元気にしてた?夏休みにそっちに行きたいんだけど良いかな?”

黄昏わらべ 6月1日 水曜日 午後6時40分
「─8月7日を予定してるよ、だって」
「、、、!!あ、あ、そうなんだー、、、」
「まあ、そりゃあびっくりするよね。返事しちゃうけど、、、いい?」
「あ、もちろん!たのしみ!」
 ゆっちゃん(お母さんのこと。柚っていう名前)は、返信という青色のところをタップした。やばいやばい。

 今、俺はあの2人と話せてない、しかも口すら聞いてない。びっくりした訳じゃなくて、焦ってんだよ。もしこれで氷が来たら、絶対、あいつは悲しむ。だって俺らのことを信じてんだから。俺は相棒として、あの時引き止められなかった代わりに、今度は愛知を楽しんでもらわなきゃ。絶対に、喜んでもらわなきゃ。

 俺は引きつった笑いで曖昧に返事をしながら、ゆっくりと二階に上がる。そのまま二階の部屋に籠り、急いでルーズリーフを出した。
「あー、どーすればいいんだよー!!」
 頭を抱えながら、必死の思いでシャーペンを動かした。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!

それじゃあ
またね!

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