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ロンドンの美術館で《東山魁夷》を想う・・・展示されてもいないのに

ロンドンにある「ナショナル・ギャラリー」
イギリスの国立美術館。
4年前初めて参加したパックツアーでは旅程に無く、
今回のイギリス・リベンジ個人旅行で最も訪ねたかった所のひとつ。

2023年秋、 はるばる念願のナショナル・ギャラリーに来て、
一枚も展示されていない東山魁夷の話が出てくるとは
思いもよりませんでした。
しかもドイツ人から。

◎謎のドイツ人お爺さん

ギャラリーは朝一番に予約をし、
気合を入れて無事入場。
先ずは一番人気のゴッホの「ひまわり」を拝み、
モネの睡蓮やルノワール、ゴーギャンと、
贅沢に並んでいる素晴らしい数々の作品を
間近で鑑賞できる事に大感激。

興奮気味の私は「嬉しくて頭がくらくらして来たわ。」と、
旦那サンに話しかけようとすると、
彼も自分の大好きな「アンリ・ルソー」の絵を前にくらくらしたのか、
近くにいた人の足をうっかり踏んでしまった様でした。

歳は80歳前後ぐらいの欧米人らしきお爺さん。
私も英語で「すいません。」と謝りましたが、
何の反応も無し。
私達のへなちょこ英語は通じなかったのでしょうか?

「まあ、仕方ないか。」と、
しばらくまた二人でルソーの絵を見ていると、
さっきのお爺さんがひゅっと横に来て、
「この絵が好きなのか?」
「これは現実ではない。夢を描いているんじゃよ・・。」と、
レクチャーが始まった。
(注意:英語でしたが、もし日本語を話していたらこんな感じ。)

まだロンドンに来たばっかりで、
緊張感一杯だった私たちは、
声をかけられても警戒心を研ぎ澄まし、
最初は適当に返事をしていましたが、

「君たちは日本人かな?」
「東山魁夷は知っているかな?」と、色々話かけられているうちに、
彼はドイツ人で、東山魁夷がドイツに来た時に何度も会って、
交流が有ったという事が分かりました。

◎ロンドンで「東山魁夷」


そう言えば数年前、
京都の美術館で「東山魁夷展」に行った事を思い出しました。
その時にドイツを描いた作品もあったはずです。
見たはずだろうけど、全く印象に残っていませんでした。
今になって、しかもイギリスで、
東山魁夷とドイツとの交流の深さを教えてもらう事となりました。

お爺さんは東山魁夷について語ってくれました。
ドイツで盛大だったオークションの話、ヨーロッパでの写生旅行、唐招提寺の襖絵の話など、かなり詳しく。

「あなたは、アーティストですか? 画商? どこかの教授?」
へなちょこ英語で聞いてみるけど、彼は笑って正体を明かしません。

目の前で穏やかに話してくれるお爺さんとの会話を楽しみながらも、
一方では、
「いやいや安心してはいけない。」
「もしかしたらドラマの《コンフィデンスマン》に出てくる様な
詐欺師かも?」
「注意注意!」と、
私の胸の奥にある警戒心がちらちらと信号を送って来ます。

私達は地味な恰好で、
高級時計やアクセサリーもつけず、
お金は持ってそうには見えないようにしてきたつもり。
(持ってないけど)
狙っても何も出て来ないのは一目瞭然だと思います。。。

お爺さんはギャラリー内の他の絵についても、
見ず知らずの私達に親切に
優しく説明をしてくれました。

一体どうして??
彼はナショナルギャラリーの主なのか?
はたまた私達にしか見えない親切な幽霊か?
せっかくギャラリーに来たのに、
要らぬ神経が働いて、
絵の鑑賞どころではなくなってしまいそうなので、
しばらくしてからは、
丁重にお礼をいってその場を離れました。

ナショナル・ギャラリー


そしてギャラリーの次のお目当ての絵画:
ヤン・ファン・エイクの『アノルフィーニ夫妻の肖像』へ。
やっと見つけて、
絵の中央に描かれた鏡の中の超細かい絵を、
感動して覗き込んでいた所、
またまた、ドイツ人お爺さんがやって来ました。

そして、ちょっと興奮気味に・・
「あそこに素晴らしい絵が有るんじゃよ。ぜひ紹介したい。」
「もし、ご興味があるならね、、あなた達が良ければね。」と、
遠慮気味に付け加えながら。

私は、まだこの絵をゆっくり見たいんだけど、、、と思いながらも、
せっかくなので連れて行っていただいたのは、
ホルバインの『大使たち』

「イエスキリストは知っているかね?ほら、十字架にかけられた」と、
お爺さんの質問。
世界中キリストを知らない人は誰もいないでしょう。
アジア人の私達には知識がないと思われたのでしょうか? 

私はちょっと不服気味に「勿論。」
そう答えると、
お爺さんは黙って絵の左上を指差しました。
そこには隅っこに小さく描かれた人物が・・・
それがキリストとの事でした。
これは知らないと見過ごすところです。
お爺さんに感謝。

そして、この絵の一番の特徴の、
下部分のだまし絵の歪んだ物体。
以前、BS日テレ『ぶらぶら美術・博物館』の番組で、
「ナショナルギャラリー展」の回で解説していたのを思い出しました。

確か離れて見れば骸骨に見えるんだけど、
どの方向からだったかな?
ウロウロしていたら、
またお爺さんがふらっと横に来て、
「正面右斜めからみるんじゃよ。」とグッドタイミング。

◎幽霊じゃなかった


私達を見ていた他の人たちも絵の右斜めに並び出し、
骸骨を見ようと、ちょっとした行列ができ始めました。
「ああ、このお爺さんは幽霊じゃなかったんだ。
他の人にも見えていたんだ!」
その時確信し、安心したのでした。

「この絵には見るべきところがたくさんある。
描かれているものには、それぞれ意味があるんじゃよ。
ショップにいったら絵葉書や解説書があるから、
それをよく読みなさい。」と、
また優しく教えてくれました。

そして本当に今度こそ最後に、
丁重にお礼を言って、お爺さんとはお別れしたのでした。

◎警戒することは何も起こらなかった。


旦那サンと、「本当にいい人だったね。何者かな?」
「すごい人かも。」
「明日又どこかで現れたりなんかして!」とか、
冗談を言い合って、
ギャラリーで見た数々の素晴らしい絵の話なんか、
どっかに吹っ飛んでしまい、
ホテルへ帰る道々、
お爺さん話で盛り上がりました。
そしていい出会いと、
いい時間を過ごせたことに感謝しました。

警戒する様なことは
全く何も起こりませんでした。

◎冗談が本当に

そしてそして、翌日、なんと冗談が本当になったのです。

翌日、私たちはお爺さんと再会したのでした。
それはそれは大英博物館の開館前の行列の中での事・・。
(勿論大英博物館に行くこと等一切話していませんでしたよ。)
この続きは次回に・・つづく・・・

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