あるミュージックビデオに感激したという話 『ラビットホール』

筆者は美術や音楽にまつわる知識やボキャブラリーに乏しく、表現や説明が適切でないおそれがあります。
この記事や、記事中で紹介するコンテンツにはNSFW的な表現が含まれるおそれがあります。
独自解釈が多分に含まれます。というか、これは僕の感想文にすぎません。

あらかじめご了承ください。










注釈をちゃんと読まずにスクロールしてしまった人のためにもう一度。

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ただ「エロい!」だけでは済まされない

今回話題にしたいのはchannel氏が2月7日に投稿したばかりのこのミュージックビデオだ。

ポップでキュートなタッチのアートでありながら、バニーガールという衣装の持つセクシーな面が必要十分以上に描かれる。前半は「かわいい!」で済ませるが、後半は「エロい!」で済ませられない別の魅力が発揮される。
もしあなたがまだこのビデオを見ていないなら、まだ再生せずにまずは僕の話を聞いてほしい。

DECO*27の印象

楽曲はDECO*27 氏の『ラビットホール』だ。このミュージックビデオはおそらくファンメイド作品で、公式タイアップ作品などではないとみられる。

DECO*27 氏といえば古くは『二息歩行』、近年では『ヴァンパイア』やポケットモンスターシリーズタイアップ楽曲『ボルテッカー』などで知られるアーテイストだ。

初音ミクをはじめとしたボーカロイドを使用した楽曲製作者のなかでも非常に作曲歴が長く、常にボーカロイド音楽シーンをリードしてきたといえよう。

DECO*27 氏の楽曲で語られるストーリーや歌詞にはしばしば背徳を感じさせ、センシティブな語句や表現が登場する。例えば『モザイクロール』。

終わる頃には 君に飽いてるよ
愛か欲か分からず 放つことは何としようか
思いやりの欠如と 形だけの交尾は
腐れ縁のキミとアタシによく似ている

DECO*27 - モザイクロール feat. GUMI

この作品のリリース当時中学生だった筆者にはこれを「ただの"レンアイ"ソング」ととらえるにはダーティーすぎた。「すき」「きらい」「別れ」「さみしい」といった、中学生が想像するレンアイっぽさに対して一歩踏み込んだ印象があり、カラオケで歌うのは少々はばかられるようだった。

高校生になって初めて女の子と二人きりでカラオケにいったとき、その子が『モザイクロール』を歌うのを聞いて少し緊張したことを覚えている。歌詞はダーティーだが、曲調はかっこよく、これを堂々と歌う彼女はかっこよかった。

もう少し最近の曲で『ヴァンパイア』でもその傾向は見られる。ちょうど社会が緊急事態だったころに発表され、「stay home」の潮流に乗って多くの著名人にカバーされていた。

きみもヴァンパイア
いいよ 吸っちゃっていいよ
「もう無理もう無理」だって 言わせてほしい
きみ以外では絶対にいけない ほら絶賛させてよ

きみもヴァンパイア
求めちゃってまた枯らしちゃって今何回目?
星が見えるような泡の中で
きみもヴァンパイア
延長をください まだ絶対いけるよ

DECO*27 - ヴァンパイア feat. 初音ミク

『モザイクロール』での「交尾」ほど露骨な言葉使われていないが、やはりセクシャルな雰囲気を纏っている。『ヴァンパイア』では「吸う」というワードがたびたび登場する。一方が幼児である場合を除き、人間が人間の何かを「吸う」のは性行為であることが多い。「わたし」と「きみ」どちらもヴァンパイアの場合も同じだろう。

とはいえ、曲調はポップでいやらしいかんじはしないし、ジャケットやミュージックビデオもキュート。下品さは感じられない。

ではここで例の『ラビットホール』。

もうやっぱアピってラビったらいいじゃん
Pop な愛撫 謳ったらいいじゃん
みっともないから嫉妬仕舞いな
発火しちゃうとかくっそだせえな
淋しくなったら誰でもいいじゃん
埋まればいいじゃん 埋まればいいじゃん
嫌嫌愛して生きたくなって
死ぬまでピュアピュアやってんのん?

DECO*27 - ラビットホール feat. 初音ミク

めちゃくちゃ露骨だ。

世界一有名な成人向け雑誌『PLAYBOY』に起源を持ち、同じく"制服"でありながら「メイド」「ナース」などと異なり、その起こりから着用者の性的魅力を発揮するためにデザインされたバニースーツを着たキャラクターがサムネイルに描かれ、ネオン街を彷彿とさせるきらびやかなタイポグラフィで飾り立てられている。

そもそもタイトルがラビット(アナウサギは繁殖期をもたない動物であり、時期を問わず繁殖可能であることから、性欲や性行為の暗示とされる)ホール()とは……

「ラビットホール」では自身の性的欲求に対して正直になれない(なろうとしない)人に対して「難しく考えるな、素直になれ!」と歌う。しかしここがやはりDECO*27のすごいところで、曲にはいやらしさをかんじない。歌詞は雪崩のようにジットリと存在感を持ちつつも曲に疾走感があり、リズムについのってしまう。

多くの人の心の中に性欲は存在するが、それを社会はひた隠しにしてきた。この令和の時代では、自分らしさを表現できない人間は「ダサい」。一億総表現者社会では、表現の結果ではなく、自分のスタイル(自分をどう見せたいか、自分が何をしたいか、自分が何を考えているか)を表現しようとせず、無難なところに収まろうとする姿勢をダサいと評する。……と僕は考えている。

DECO*27の楽曲はかつてニコニコ動画というインターネットの裏通りでオタクにかっこいいロックの曲で「レンアイって結構ハードだ」と説き、現在では自分に素直に生きる人間のかっこよさを説いている。(そういう僕はこの評論をツイッターではなくクッションを十分すぎるほどおいたnoteでしか展開できないダサいやつである。)

『ラビットホール』は一見下品なように見えて、それが実はかっこいい、という曲なのだと僕は考えている。
とはいうものの、僕は『ラビットホール』を初めて聞いた時点ではこの印象には至っていない。
そう考えるに至ったきっかけは、くしくも「DECO*27の日」2月7日に公開された例のミュージックビデオを何度も繰り返しリピート再生してことだった。

おまたせ!例のミュージックビデオを見よう

ポップにデフォルメされたキャラクターが疾走感のある曲に合わせて歌う。かわいくてかっこいい!のだが――23秒あたりからの「ホップステップ う~ ワンモアチャンス!」から信じられないほどエロい。
もちろん局部描写はなく、R-15程度の表現なのだが、「たのしげなエロス」が軽快なリズムにのって次々映し出される。
「ちょっとまって、いまのカットは!???」と思わず戸惑うほどにエロい。そしてかっこいい。いっしょに踊りだしたくなるほどに。

なぜこんなに曲とビデオがエロいのか?
それは、もはやここで表現される「エロス」はそれでさえ比喩表現であり、あくまでわかりやすい例示として挙げられているにすぎないからだ。エロスとは思わず隠したくなるほど自分の根源の近くに置かれている欲求の例えであり、多くの人にとって身近で分かりやすいからこうして例示されている。だから、「ミュージックビデオのポップなキャラクターがすごくエロい!」ことが僕にはこんなにも魅力的に見えるのだ。

「自分のやりたいことを自分に正直に楽しそうにやれるヤツがクールだ」、「それもラクではないがな!」

もっとも、これを真に受けすぎてはいけない(ミュージックビデオでも最後に「なんちゃって★」とでも言いたげな笑顔を見せる)。現実社会では奔放すぎるエロス(くどいようだが比喩だ)は破滅をもたらすおそれがあるのだが、僕ももう少し素直に表現をしたいものだとこのミュージックビデオに感銘を受けたのだった。僕は「ラビットホール」を聞いた時点ではここまで考えが至らなかったから。

なんちゃって★

素晴らしい表現者のみなさん

この記事を書いたのは

いってつ
脚本家、小説家、ライター。
映画と写真、マジック:ザ・ギャザリングが好き

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