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オムニバスボックス

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サクッと読める掌編小説や短編小説を投稿します。
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記事一覧

掌編小説 恋愛と失恋

 先輩少女に後輩少女は告白する。私は後輩少女の俯いた顔を見ていた。その表情は憂いを帯びている。泣き出しそうな双眸。目元には涙がぷくっと膨らんだ。小さく開いた唇。彼女はわなわなと唇を震わせていた。 「ごめんね」  後輩少女が空を見上げる姿を私はぼんやり眺めた。その表情は寂しそうで悔しそう。泣き始めた双眸。目元には強がりが解けて静々と水滴が落ちていた。小さく閉じた唇。湧き上がる気持ちを堪えるように彼女は下唇を噛みしめていた。 「私は同性愛には興味ないの。恋愛なら男性としたい」  

掌編小説 縁側の妖精

 昼間、縁側に座れば、妖精たちが至福の夢を見せてくれる。  夜中、縁側に座れば、妖精たちは異界の扉を見せてくれる。  一軒の邸宅には平凡な家族が住んでいました。お父さんは今日もお仕事です。お母さんは家事と育児に大忙しです。午後二時を過ぎた頃に、日差しの暖かな縁側に眠る二人の子供がいました。幼い男の子と女の子。二人とも10歳にも満たない子供です。男の子は家の長男です。女の子は彼の幼馴染です。今日は女の子の両親が急用で家にいないようなのです。両親は娘を連れても行けないようなので

掌編小説 オタク品評会

 一冊の古びた書籍。僕は長編のファンタジー小説を読んでいる。なかなか分厚い物語で僕にはお気に入りのポイントがあった。それは登場人物たちの息遣いを作品世界全体から如実に感じ取れることだった。そう、登場人物たちが物語世界で立体的に生きている感覚を文字から鮮明に受けとれるのだ。登場人物の一人一人に厚みがあるといえばいいのか。憶測だが作者は世界観設定や人物設定に相当な時間と手間をかけているだろう。この長編小説は世界観や登場人物たちの情報量と密度が圧倒的に違う。 「ああ、今日もオタク

掌編小説 日本酒と烏龍茶

 夜になって今日も居酒屋『小流犬』は賑わい出した。 「いらっしゃいませー。あら、ルリちゃん? お久しぶりねぇ」 「女将さん、お久しぶりです。今日は飲みに来ました」  ルリは女将に挨拶をする。  玄関の扉に隠れて見えないが彼女は誰かと手を繋いでいる。 「あ、ついでに彼氏も連れて来ました。ほら、トモキ、挨拶しなよ」  そこに現れたのは甲斐性のなさそうな青年一人。 「はいはい、あんまり急かすなよ。えーと、初めまして、トモキです。ここの料理は絶品だって聞いてルリについて来ました」  

掌編小説 最後の一枚

 思い出は胸の中に。  君は私の心の中に。  君が残した思い出の品。本当に少ない君の存在を証明する品々。中でも君の写真は貴重品だった。幼少期、入学式、修学旅行、卒業式の写真。なぜか君の姿はどこにも映っていない。まるで最初からそこには居なかったかのように。  私は君の生き方にとても歯痒い気持ちを抱いていた。馬鹿な男子からからかわれた時も君は笑ってやり過ごした。君は八方美人で、誰にでも優しくて、意地悪をされても笑って誤魔化した。腹が立った私は馬鹿な男子に仕返しをした。君が仲裁に

短編小説 Bitter Side Girl

 ようこそ。ここはビターエンド。外観はモダンな装いで、街外れの森に佇む喫茶店。日本の何処かに存在する隠れ家です。店内はレトロな装いで、主に女性客が訪れます。女性客の多くは安らぎを求めてご来店する模様です。タイムスリップしたような感覚を味わえるとご評判を頂いております。  ビターエンドにはいくつかのフロアが存在します。  各フロアをそれぞれご紹介させて頂きます。  まずはAフロアから紹介いたします。Aフロアは全42席の客席が設置されたフロアです。個人のお客様は基本Aフロアに

短編小説 ハナミズキ

 春は穀雨。  彼女は私の心に水を与えてくれた。 「ねぇ、ミズキ?」 「何、ハナ?」  桜の花びらが散り始める頃、いつものように私とハナは歓談に耽る。私たちは青藍高等学校の生徒である。うちの高校は多くの部活動で全国大会の経験者が多数いる。いわゆる名門校である。我が校からプロのスポーツ選手を輩出したこともあるそうだ。  現在私たちは下校中で、今日一日の勉学と部活はすべて終わらせている。学生によってはこれから塾に通ったりもしているのだろうけど、正直に言うと私には異世界の話題のよ

掌編小説 輪郭

 君を知るのが怖かった。  出会った日の綺麗な横顔と日の匂い。  私には無縁だった眩しいまでの温もりをくれた人。  その笑顔があまりにも眩しかった。 「言いたいことがあったら遠慮なく言ってね」  あの日の私には言えない。  不安や疑心に塗れた、私とは生きる世界が違う。  そう、違ったんだね。 「私、自分に自信がないの」  その言葉の意味が私にはわからなかった。  その意味を知るのは、もう少し未来の私です。  ある日、私は君に尋ねました。  君の好きな音楽のジャンルを

掌編小説 存在薄明

 親は子供を守らない。所有物に慈悲など不要。  子供は親に期待しない。だって彼らは馬鹿だから。  人は人を傷つける。歯向かう者に容赦はいらない。  お前は間違いだらけだ。  それを認められない愚か者だ。  自分を棚に上げてよく言う。  あなたは結局他人を食い物にしているだけよ。  君たちに違いはないよ?  君たちは等しく自分を見ていない。  少年はそう言った。  薄明光線はこの世の終わりだ。  ある日、少年と出会った。  少年は無表情で、同時に笑ってるように見えた。

掌編小説 ProtoCore-ARFREEZE

 心とは何ですか?  心を持つとはどういうことですか?  心には形があるのですか?  心とは何ですか?  心は何処にあるのですか?  心に意味はありますか?   「アルフリーズ。人間に情けをかけなくてもいい。遠慮なく、容赦なく裁きなさい」  心ある人が、心ない言葉を吐きます。  そもそも心があるとはどういう状態ですか?  魔女と疎まれた人々の血の痕跡をたどりました。  知りたい。知りたい。知りたい、な。 「アルフリーズ。魔女とは絶対的被害者であり、絶対的支配者だ。きっと

掌編小説 ProtoCore-ARFLARE

 心とは何ですか?  心を持つとはどういうことですか?  心には形があるのですか?  心とは何ですか?  心は何処にあるのですか?  心に意味はありますか?   「アルフレア。人の心に意味を見出さなくてもいい」  心ある人が心ない言葉を吐きます。  そもそも心があるとはどういう状態ですか?  怪物と蔑まされた少年の流した涙がありました。  知りたい。知りたい。知りたい。 「アルフレア。人間とは欺瞞に満ちた賢しい生き物だ。それでも知りたいか?」  人間とは何ですか?  

掌編小説 理由は言わない

 先生は言います。  少年は自分勝手であると。  誰のことも顧みず、何事も自身の思い通りにならないと気が済まない。  そんな身勝手な性格であると。  少年は言います。  僕は自分に正直なだけだと。  それは僕らの決定的な認識の違いで、僕が自分の思い通りに生きたいのではなく、あなたが人を思い通りにしたいだけなのだと。  きっとこの言葉は、あなたには届かないことも僕はもう知っている。  先生は言います。  お前に俺の何が分かる。そう声を荒げて少年に怒号を浴びせます。  正直、

掌編小説 すでに破滅の先

 私は目覚める。気持ちのいい朝だ。  今日も一日お仕事頑張ろう。 「お姉ちゃん、おはよう」 「おはよう、佐奈」  私の名は真奈という。  唐突だが、私は重度の健忘症を患っている。そこはそれ、色々と工夫して生きている。  私は実家を離れ、妹の佐奈と同居中だ。  私たちはテーブルの椅子に座り、コーヒー片手に朝のニュースを見ている。 『……次のニュースです。昨晩未明、──市のマンションで男性の遺体が発見されました。男性は──社に勤める27歳の会社員で……』  私はハッとする

短編小説 海鹿の子供たちへ

 はじめに。  ここは厄の島。伝説の島国と呼ばれていた断崖絶壁の島。陸の孤島でもある、この島には海鹿と呼ばれる魔物が存在していたようです。鹿のツノを生やした、しかして鹿にあらずの異形の魔物です。  それも過去のお話です。今はもう、海鹿たちはどこにもいません。海鹿たちは人間たちに退治されたようです。おそらく海鹿たちはもう絶滅してしまったのでしょう。しかし近年、奇妙な噂が厄の島に広がりはじめました。 「海鹿の子供を見た」  その噂は瞬く間に島中へと広がりました。話によると大き