中2女子のカナダ滞在期 3

車を降りると、ケイトさんの旦那さん、ユリウスさんがにこやかに迎えてくれた。差し出された手を握ると、そっと引き寄せられ自然とハグをされた。日本ではほぼ馴染みのない挨拶だが、環境のせいか不思議と一切嫌悪感は無い。

白いタキシードに黒い蝶ネクタイをつけてもらえば、日本でも有名なフライドチキン専門店の店先に立つあの人に似ている気がする。ケイトさんと同じくドイツ人のユリウスさんは、ケイトさんよりもヨーロッパ訛りが強いのか英語の発音が聞き取りづらく、歓迎してくれているのはわかるが半分は何を言っているのか分からず、助けを求めケイトさんに視線をやると、ケイトさんがユリウスさんに何か2、3言話しかけた後

「リカ、疲れたでしょう。家に入ろう。」

と連れ出してくれた。耳打ちで「あの人発音悪いから何言ってるか分からないでしょ?無理して会話しなくていいから。」と囁きながら。家庭内別居という前情報の通り、仲がいいとは言えない関係のようだ・・・

白いドアが開くと、右手側すぐにカーペット敷の階段があり、同じく玄関すぐから床材はカーペットになっている。そういえば日本と違って土足文化だった。頭では分かっていても私が戸惑っていると、ケイトさんは一瞬不思議そうにした後すぐに「ああ!」と合点がいったように笑い、私のすぐ脇のボックスを指差した。スリッパが入っている。

よく見ると既にケイトさんはスリッパに履き替えていた。基本は土足文化だが室内では履き替える家庭もあるらしい。好きなものを履けばいいと言われたので、真新しげな白いタオル地のようなサンダル型スリッパを選んだ。

ようやく落ち着いて室内を見渡す。左手側には一部屋、あまり広くはないが立派なアンティーク調の家具で統一された応接間のような部屋がある。あまりジロジロ物色するのも失礼かと思いつつソワソワしていると、またケイトさんがおかしそうに笑った。

「今日からあなたの家みたいなものなんだから、好きなようにどこでも入ってなんでも見て大丈夫よ。気になるならどんどん見て。」

そう言って、私の手を引いてさらに家の奥へ進んでいくケイトさん。

今日から1ヶ月、ここが私の家。受け入れてくれることがはっきりとわかる言葉に、不安と緊張で強張っていた心が少し軽くなった。

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