四十路の初体験 コルギ編


いきなりタイトルに反するようだけど、コルギは初めてではない。

以前、自宅エステをしている友人にやってもらったことがある。その時は全身アロママッサージの一環としてさらっとやってもらっただけで顔がスッキリしたので「おおすごい」という感動があった。
最近はめっきりマッサージに行く暇もなく、なんやかんやと手入れをサボっていた。
そしてふと写真にうつった自分を見て、おや?となった。


あなた、顔、こんなに長かったでしたっけ?


いや、長いのは知っている。こちとら何年この顔で生きてると思ってるんだ。
小さなお子さんに「どうしてお顔がバナナみたいなの?」と無垢な瞳で問われたこともある。
でもなんか違う。長くても、そう、バナナみたいに顎はシュッとしていたのだ。
それがどういうわけか顎のラインがもっさりしている。輪郭が曖昧。わたしこんな顔だったか……?

自分の輪郭がなんなのかさえ分からず震えている、四十の夜──

ショックのあまり盗んだバイクで走り出しそう。長きに渡るマスク生活の弊害だけど、年相応に重力に逆らえないのもある。あとスマホの見過ぎ。酒の飲み過ぎ。不摂生。身に覚えは山ほどある。
だからといってこんな長方形弁当箱みたいな顔になるとはね。言っといて欲しかったなー。


というわけで前置きは長くなったが小顔コルギに行くことにした。
いつもお世話になっているマッサージ店でコルギのメニューがあるのでそちらを予約。担当者はマッサージの手技と穏やかな人柄に惚れ込んで指名しているコウさんがお休みだったのでセラピスト歴15年のケイさんにお願いすることにした。


「ではベッドの上のガウンに着替えてお待ちくださ〜い」
通された部屋はいつもと変わりない。
マッサージの時はなぜかいつも沖縄の役所のクールビズみたいなセットアップが用意されているのだが、今日はグレーのタオル地の「ガウン」が置かれていた。
颯爽と下着姿になり広げてみたら、それは水泳の授業で着替える時に腰に巻きつけるスナップボタン付きのタオルだった。


………………ガウン?

とりあえずガウンっぽく羽織って首元でボタンを止めてみた。
えっ、ちがう。たぶんだけど絶対違う。
下、パンツ丸出しだし。
コルギだから触るとしたらデコルテまでだろうし、やはりこれは本来の使用法通り腰に巻きつけるのでは……?
そう思い直し、腰蓑のように装着してベッドに座ってケイさんを待った。

「ご準備よろしいですか〜」
「あっあの、これブラジャーはどうしたらいいですか」
「あ、ブラジャーは取ってくださいねぇ」
「わかりました!」

上半身裸、下は腰蓑のマオリ族ハカスタイルで待機。

「失礼しま〜、アッ」
扉を開けて入ってきたケイさんのキョトン顔。


「も、もっと上にあげてください……」
「え?」

チューブトップのようにデコルテから下に装着するのが正解だったらしい。
意図せず生乳を晒してしまいケイさんを困らせてしまった。私に羞恥心はないのだが、大変申し訳ないことをした。


「じゃあはじめますね」
最初は顔のクレンジングから。
なめらかな指先の動きでするする撫でられてとても気持ちがいい。そのあとはアロマオイルでデコルテから首〜肩のリンパマッサージ。

極楽。
でも、気付いちゃった。

これ、下脱がなくても良かったやつだね。

まあもういいけど──────

リンパの流れ道の通りを良くしてから、顔面のコルギへとうつる。
顎の骨から耳の下へと押し上げて、小鼻横から頬骨に沿って程よく痛気持ちいい力加減でグイグイゴリゴリほぐしていく。
っあ〜〜〜〜…………わかる、わかるぞ、老廃物が溜まっているのが。
ケイさんは黙々と淀みない手つきで骨を押し上げていく。
わたしはどちらかと言えば顔に肉が付きづらいタイプなのだが、顎の下がもっさりしているのは支える筋肉が衰えているからなのだそう。
老廃物が溜まると筋肉も凝り固まって肉が下がる。That′s  HOUREISEN.

特に凝りが酷いところはめちゃくちゃ痛い。
目の下の鼻梁の際あたり。ぐっと押されただけで胸の上で組んでいた手が「グワシッ!」(©︎楳図かずお)になってしまうくらい痛かった。

約40分ほどのリンパマッサージとコルギが終わり、最後の仕上げはフェイシャルパック。
ひんやりしてトロトロのなにかを顔面に塗りたくられる。

「10分ほどこのままお待ちくださ〜い」

明らかに血行が良くなってぽかぽかしている顔を程よく冷やされてたまらなく気持ちがいい。
静かな店内には優しいオルゴールの音色で「得意先の電話の保留音メドレー」みたいなBGMが流れている。
気付いたらうとうとしていて、半分夢の中に落ちていた。
夢の中でわたしの家の冷蔵庫を開けたら茄子でいっぱいになっていて足元にごろごろ茄子が転がってきて「なす…………」と呟いた。



「……ふふ。寝言、ですか?」


ハッ!!!!今、寝てた????!

いきなり「茄子」と口走る女にケイさんはくすくす笑いながら茄子には一切触れず「そんなに気持ちよかったですか〜?」と優しく聞いてくれた。

「は、はい……すいません、寝ちゃって……」
「よかったです。ほら、顔もスッキリしてトーンアップしましたよ」

パックを剥がして鏡を見たら、本当に顎のラインがシュッとしていた。バナナライン復活である。
肌も白くなって今までいかにドブ色だったかが分かる。

施術後になんか甘酸っぱいハーブティーをいただいて本日は終了。
2週間くらいでまた凝りが溜まって元に戻るので定期的に通うとそのスパンがどんどん長く保つようになるそう。

このサロンの良いところは帰り際はサクッとしていて次の予約どうしますか?とか聞いてこない。自分のペースで来れるのありがたいよね。


しばらくは弁当箱フェイスに戻らないよう自分でもマッサージしよう〜っと思っているけれど、まずは飲んだ後のラーメン(アルコールと塩分)をやめるところから……。




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