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理想のペンが見つからないとiPhoneが顔に落ちる

心臓を患って入院していたときは、毎日毎時が閃きを捕まえるチャンスだった。
集中治療室を出て一般病棟に移ったあとも、しばらくはベッドに横になっていることしかできない。
一日に何度も眠りに落ちては目を覚ますことの繰り返しで、その最中にも妙なアイデアを思いつくことは少なくなかった。
「仰向けで書けるペンがあればいいのに」
ベッドに横たわっている間に何度となく思ったことだ。

世の中には「スペースペン」なるものがある。
内圧を高めて仰向けでもインクが出るようになっているなど、「無重力でも書けます」を売りにしたボールペンだ。
入院するはるか以前に何本か買って試してみたものの、どれもペン先が細かったり、書き味が好みでなかったりで、「これだ!」と思えるものはなかった。

僕が望むのは仰向けでもインクがドバドバ出る太字のゲルインキのペンなのだが、本当に欲しいもののど真ん中のストライクというのは、世の中のどこを探しても見つからない。ペンに限らず、ペンケースでもノートでもバッグでも。
かすりもしないというほどではないのに、僕のストライクゾーンをかすめる程度で外角や内角、上下左右にボールは散らばって行ってしまう。
世の中のニーズの平均と僕の求めるものの間にある距離というか、薄いけど高い壁を思い知らされる。

存在しないものを求めたところで仕方がないので、入院中は仰向けのままiPhoneを掲げて、メモを取っていた。
予想通り眠気に襲われ、手が滑って、iPhoneは何度となく顔の上に落ちたのだった。
看護師さんに「学習しないですねえ」と呆れられたのは言うまでもない。

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