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Clubhouseはじめてません

流行りものが苦手というか、嫌いというか、一つ所に群れてる中に自分がいる絵を想像しただけで鳥肌がたつというか、昔からの偏屈具合は今も治る気配はなく、当然ながらClubhouseにも食指が向かない。

何かを創る人間にとっては「興味がない」というセリフは禁句なので(知っておくこととのめり込むことは別だ)、早々にClubhouseを始めた友人たちに様子を聞いてみたけれど、おおよその仕組みがわかるにつれて関心が一層薄れてしまった。

生産的、発展的な会話がどれだけあるのかは知らないが、アーカイブされないその場限りの場所であることは間違いがないようだ。
録音等々全て禁止のルールが守られるってことは、言いたい放題の無法地帯にもできるということで、「クラブハウス」の名の通り、隣には話が筒抜けの部室での内輪の与太話——あるいは公開井戸端会議が日々行われる場所のように思えてしまう。
無法地帯になるかどうかは、ルールではなくモラル次第。ただでさえ匿名大好き、秘密大好き、陰口大好き、本音と建前が白滝とくずきりぐらい違う日本人である。脆弱すぎて怖い。

流行云々とは関係なく、昔から電話で話すのが苦手だった僕には、顔の見えないClubhouseは敷居が高い。
どれだけ仲の良い友達であっても、顔が見えないまま話をすることが今でも嫌いだ。
基本、疑ってかかる体質なもんで、「こいつ、相槌打ちながら漫画読んでるんじゃ?」みたいなネガティブな想像が広がってとにかく疲れる。

どこかで飲みながら話している分には、グラスの中身を浴びせるなり、グラスごと投げつけるなり、スツールから引きずり倒すなり、フィジカルになんでもできるけれど(雰囲気を察して、そこに至る手前で互いに自重するのが大半だけれど)、音声だけではそうはいかない。
無理してClubhouseを始めたところで、疲弊するのは目に見えている。

これは根拠のない想像だけれど、ClubhouseのアーリーアダプターたちはYouTubeではレイトマジョリティ組か、アーリーマジョリティでもメジャーになれなかった層なんじゃないかと思う。
YouTubeでまあまあ成功しているなら、わざわざClubhouseに軸足を移す必要はないし、アーカイブされたコンテンツが視聴回数を上げる仕組みであることは自分たちが一番よくわかっているはずだし。

YouTubeにテレビの世界の人間が参入して来た頃から、根こそぎ持っていかれる予感はあった。
彼らはすでに場数を踏んでいるプロたちなのだ。
現場の回し方も、喋る技術も、撮影や録音、編集の技術、素材の組み方、見せ方、テレビでできること、テレビではできないこと、全部知っている。
彼らがチームを組んで「テレビではできないこと」をやり出したら、相当なアイデア勝ちとラッキーパンチを除けば、一般市民のワンカメラでのコンテンツなど比較にもならない。

僕は猫好きなので、時折、猫の動画を見ることもあるけれど、例えば岩合さんのチームがYouTubeで猫動画を公開し始めたら、差は歴然である。
すでにYouTubeはそういう場所になってる気がする。
「だから新しいClubhouseならまだチャンスが」と考えるのかもしれないが、ここで「録音不可(=再生不可能)」と「アーカイブ機能ナシ」という二つが障壁になる。

その場限りの希少性に価値があると「売り文句」にしても、「あの時のあの話は」とどれだけ言ったところで、後では聞けないなら意味がない。
それに不特定多数が聞けて、聴取料のないラジオですら、番組の広告枠を売るのに苦労しまくっているのだ。再生機能がないClubhouseに広告がつくとは思えない。

そう考えると、金に置き換えられるのは、せいぜいがルームを有料化する程度。
「これからは録音OKにします。アーカイブの再生もできるようになりました」なんてことになったら、なんでもありの井戸端会議ではなくなってしまう。その場限りの言いたい放題を楽しんでいたユーザーは離れるはず。
どっちに転んでもYouTube的な美味しさには縁がなさそうに見える。
(断っておくが、儲からないからやらないってわけじゃない)

実際のところ音声だけで話すくらいなら、コロナが収まった後にその辺の居酒屋で居合わせた客とその場限りの話で盛り上がる方が楽しそうだ。
学生の頃から夜な夜な同じ店に集まって、面と向かって日々たわいない話に興じる楽しさを知ってしまって身としては、音声だけで話をするのが楽しいって、それがすでにわからない。
その場にいる人間が顔を見ながら会話を回していく中で自然発生するグルーブ感というのも確実にあるし。

こんなことを言ってると「年寄りだから」と笑われるのかもしれないな。
それはそれで良いけど。
必要になればその時に考えれば済むし、何より言いたいことがあるなら、喋るより書く方がいいや。

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