キューピッドの弓矢
アーチェリーの試合を見るのが好きだ。
テレビカメラの望遠レンズで圧縮されて、的は選手のすぐ先にあるように見えて、実際は70メートルも90メートルも離れたところにある。
それだけ離れた的の約12センチの中心めがけて矢を放つ集中力と、一本ごとに変化する得点の差や、対戦相手の当たり具合が生む緊迫感と言ったらない。
発想が貧困なのか、弓矢と聞いて真っ先に頭に浮かぶのはロビン・フッドとウィリアム・テル、それにキューピッドという体たらく。
ロビン・フッドとウィリアム・テルは揃って弓の名手ということになっているけれど、キューピッドの弓の腕前は聞いたことがない。どうなんだろう。
キューピッドってのはそもそもかなりヘンテコなシロモノだ。
背丈は40〜50センチほどで、ずんぐりむっくりの幼児体型で、背中にはちんまりとした羽根が生えていて、赤ん坊のような無邪気な表情のくせに弓矢を持っているのだ。思慮も何もなく四方に矢を放ったら、いまどきの乱射事件の犯人とかわりがない。
ご存知の通り、キューピッドの矢が刺さると恋愛が成就することになっている。
可愛らしい顔で弓を引き、当たれば恋が実るとなれば、なんとも微笑ましいことではあるが、考えてみたらキューピッドの責任というのは結構重大だ。その割にキューピッドの弓矢の腕前を不安に思ったなんて話は聞かない。
「あ、手元が!」と全然見当違いのところに飛んで行ったり、別の人に刺さったりするかもしれないというのに、百発百中だと思い込んでるのだろうか(「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と思っていたりして)。
「実は、技量を磨くために、毎年キューピッドの弓矢選手権なんてやってるんですよー」なんてことだったら、是非ともみてみたいものだ。
立射の部、伏射の部と並んで、流鏑馬なんかもあったりして。
想像するとかなりユーモラスではあるけれど、外しまくりで権威失墜なんてことにもなりかねない。
天使のすることなんて、その程度の信頼感しかないよって教えなのかもしれない。
(余禄)
流鏑馬つながりで一つ。
京都の下鴨神社で流鏑馬の練習をしてるのを見たことがあります。
流鏑馬の騎手は馬を走らせながら「陰陽〜陰陽〜」と掛け声をかけ続けて矢を射るのだけれど、最初、この掛け声が「頻尿〜頻尿〜」に聞こえてしまって、ギョッとしたことがありました。
頻尿なんていうはずないのに。
僕の耳より、騎手の滑舌の問題だったと思うんだけどなあ。
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