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読書記録

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2021年1月の記事一覧

『ロング・グッドバイ』再読〜文体のこと、未完の続きのこと

特に必要火急な要件もない平和な日曜日、レイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」を再読した。 僕の中では『長いお別れ』が正しいタイトルで —— つまり清水俊二訳が正規版ということだ —— 村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』はカバー・バージョンみたいな受け止めがいつまでたっても消えない。 もちろん翻訳を介さない英語版がオリジナルなのは当然なのだが、10代の頃に読んだ時の「ハードボイルド」な雰囲気は、ファーストコンタクトの瞬間に身体に深く染み込んでしまったらしい。当時は清

読書記録『ライオンのおやつ』小川 糸

前から読もうと思って用意しておいたのを忘れていた。 末期ガンの主人公がターミナルケアを受けるホスピスの物語なのだけれど、他の作品同様、小川糸の書く物語は因幡の白うさぎをくるんだガマの穂みたいに柔らかく、暖かく、相変わらず描かれる食べ物が美味しそうで、穏やかだ。 これまでなら時折笑みを浮かべながら読めたのだけれど、自分が心臓を患って、手術中まで含めると3度心臓が止まった影響なのか、人が死んでいく物語は——特に訥々と人生を終えていく物語はひどく苦手になった。 心停止したからと