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一挙版 幸せになりたいエルフの冒険 第九話 エルフと吸血鬼 第八部

エルフの女の子デフィーは、
ダークエルフの女の子フィリア、
人間の女性で作家のシャイルと一緒に
幸せを探す旅をしています。

デフィー達が旅の途中に宿を取った町は、
若い女性の行方不明者が出続け、
それを恐れた住人達の移住が相次ぎ、
人が少なく空き家が目立っていました。

その宿に泊まった晩に
面識の無いロドスから
屋敷への招待を受けたデフィー達は、
宿屋の娘のリアムに頼まれ、
不安を感じながらも一緒に
ロドスの屋敷に向かうことにします。

屋敷に到着し、
招待主のロドスに迎え入れられて
一緒に食事をするデフィー達。
食事の途中でデフィーとリアムが
急な眠気に襲われて眠り込んでしまい、
ロドスの提案を受けて
その日の晩は止む無く
屋敷に泊まることにします。

屋敷内が寝静まってから数時間後、
デフィーの眠っている部屋に
デフィーの血を飲む為にロドス侵入しますが、
警戒心から寝ずの番をしていた
フィリアとシャイルによって阻止されます。

追い詰められたロドスは
奇怪な術を使って部屋を白煙で覆い、
その隙に別の部屋で眠っている
リアムを連れ去り、
屋敷を捨てて逃走します。

リアムを取り戻す為に
追ってくるフィリア達を、
目眩ましを使って出し抜くロドスですが、
その騒ぎを聞きつけた
ルシファーとティスに行く手を阻まれ、
リアムを諦め一人で逃走します。

夜の森の中へ逃げたロドスを捕らえる為、
ルシファー、ティス、シャイルは
後を追いますが、
ティスがロドスに襲われて
血を飲まれてしまいます。

ティスを人質にして逃げるロドスを追う
ルシファーとシャイルは、
その途中で森の中に放置された
ティスを発見して保護しますが、
ロドスを見失い取り逃がしてしまいます。

それから数時間後、
シャイルとルシファーは
リアムの宿屋の有る町の酒場で
それぞれの状況を報告し合った後、
ルシファーは仲間の元に戻って
事件の後始末に、
シャイルはデフィーとフィリアの待つ
リアムの宿屋に帰ります。

夕刻にシャイルが宿屋に戻ると、
リアムの両親で宿屋を経営する
パテル夫妻が出迎えてくれました。
夫妻はシャイル達のことを
気遣ってくれますが、
娘のリアムが危険に巻き込まれたこと、
そのことにより
塞ぎ込んでしまったことを受け、
心配と不安が見て取れました。

シャイルがリアムの部屋を訪れると、
ベッドの上に座っているリアムが、
デフィーとフィリアと談笑していました。

塞ぎ込んでいたリアムは、
恐ろしい事件から
少し時間が経ったことと、
デフィーとフィリアが
付き添っていたことで、
少し気分が落ち着いたようです。

笑顔で出迎えてくれたリアム達三人を見て、
シャイルは少し安心します。

シャイル「リアムさん、
     具合はどうですか?」

リアム「ええ、
    おかげさまで
    大分良くなりましたわ」

シャイル「それは良かったです」

リアム「デフィーさんと
    フィリアさんが
    ずっと付き添っていてくれたから、
    私もいつまでも
    落ち込んでいられないなって
    気持ちになって」

シャイル「そうでしたか。
     デフィーちゃん、
     フィリアちゃん、
     ありがとう」

フィリア「えへへ」

照れながら笑うフィリア。

デフィー「いいえ・・」

少し表情を曇らせ、
謙遜するように答えるデフィー。

リアム「何が有ったのかは
    フィリアさんから
    お聞きしました。
    私が眠っている間、
    皆さんには大変
    お世話になったみたいで、
    本当にありがとうございます。
    心からお礼を申し上げますわ」

シャイル「とんでもないです。
     私の方こそ、
     眠らされてしまった
     リアムさんの部屋から
     離れてしまったせいで、
     リアムさんを危険な目に
     遭わせてしまって・・
     申し訳ありません、
     どう償ったらいいのか・・」

暗い表情で
申し訳なさそうに言うシャイル。

リアム「いいえ。
    元はと言えば私が
    皆さんに無理を言って
    招待を受けなければ、
    危険なことに巻き込まずに
    済んだんですもの・・

    お詫びしなくては
    ならないのは
    私の方ですわ」

真剣な表情で詫びるリアム。

シャイル「リアムさん・・」

リアム「私が今こうして
    この場に居られるのは、
    シャイルさん、
    そして皆さんのおかげですわ。

    もし皆さんが
    居てくれなかったら、
    そして守ってくれなかったら、
    私はあの男の手にかけられて
    今こうして此処に居ることは
    出来なかったでしょうから・・

    あんな男に好かれる為に
    必死になっていたこと、
    その為に皆さんに
    色々と無理をお願いしたこと、
    その結果危険な目に
    遭わせてしまったこと、
    本当に自分が恥ずかしくて
    仕方が無いですわ・・」

フィリア「リアムさん、
     あんまり自分を
     責めないで・・」

フィリア「その通りです。
     悪いのはロドスなんですから」

フィリア「・・それでシャイル、
     ロドスは捕まえられたの?」

シャイル「いいや・・
     残念ながらまだのようだよ。
     でもルシファーの話だと、
     今も何人かで足取りを
     追っているらしいから、
     時期吉報が
     聞けるだろうってさ」

フィリア「そっか・・
     捕まえられると良いね」

シャイル「ああ」

フィリア「あの賞金稼ぎの
     お兄さんは大丈夫なの?」

シャイル「うん、
     容態は落ち着いて
     今はゆっくり
     休んでいるってさ」

フィリア「良かった、
     ずっと心配だったんだ」

シャイル「うん」

デフィー「・・・
     皆さん、ごめんなさい。
     とても大変なことが
     起こっていたと言うのに、
     私は眠っていて
     何も力になれなくて・・」

フィリア「デフィー・・」

シャイル「デフィーちゃん・・
     昨日のことは仕方ないよ、
     ロドスに薬で眠らされて
     いたんだから」

フィリア「そうだよ」

デフィー「でも・・
     あれほど用心するよう
     言われていたのに、
     私・・
     眠らされた上に
     足手纏いになって、
     フィリアやシャイルさんに
     迷惑をかけてしまって・・

     私を庇ったせいで
     二人やリアムさんに、
     もしものことが
     有っていたらと思うと、
     私・・」

リアム「!・・」

自分が誘った為に、
そして眠っていた自分を
庇ったが為に、
目の前に居る三人を
危険な目に遭わせてしまったことを
改めて痛感するリアム。

フィリア「デフィー!
     大丈夫だよ!
     そんなことには
     ならなかったんだから」

デフィー「でも・・」

フィリア「僕が強いのを
     知ってるだろう?
     それに君の為なら僕は、
     どんなことだって出来るんだ!
     だから、
     もしものことなんかに
     なったりはしないさ!」

デフィー「フィリア・・」

シャイル「そうだよ、
     デフィーちゃん。
     フィリアちゃんは
     ロドスに一人で立ち向かって、
     床に叩き伏せたんだから。
     びっくりするくらい
     強かったんだよ。

     それに私だって、
     あいつを一発蹴飛ばして
     やったんだよ。
     こう見えて結構強いんだ、
     だからちょっとやそっとのことで
     どうにかなったりしないさ」

デフィー「シャイルさん・・」

フィリア「シャイルの言う通りだよ、
     デフィー」

デフィー「フィリア、シャイルさん、
     ありがとうごさいます・・
     二人にはいつも
     助けてもらったり、
     支えてもらってばかりです」

フィリア「ううん、
     そんなことないよ。
     デフィー、
     僕は君が一緒に居てくれるから
     毎日がとても楽しいんだ。

     それに苦しい時も怖い時も、
     挫けてしまいそうな時だって、
     君が傍に居てくれたから
     乗り越えて来られたんだよ。

     だから、
     助けてもらったり
     支えられているのは
     僕の方なんだ」

デフィー「フィリア・・あなた・・」

デフィーとフィリアを見て微笑むシャイル。

シャイル「私も同じだよ、
     デフィーちゃん。
     この旅に同行させてもらってから、
     二人には元気と勇気と希望を、
     そして楽しい思い出を
     い~っぱい貰っているんだよ。

     それに実際に
     助けてもらったことも有るし、
     支えてももらっている。
     感謝しなくてはいけないのは
     私の方さ」

デフィー「シャイルさん・・
     二人共・・
     私のことをそんな風に
     思っていてくれたなんて・・
     嬉しいです・・
     本当にありがとう・・」

嬉しそうに涙ぐむデフィー。

フィリア「デフィー」

シャイル「デフィーちゃん」

デフィー「ごめんなさい・・
     私・・」

溢れてきた涙を指で拭うデフィー。

シャイル「・・謝ることなんて
     何も無いよ、
     泣きたい時は我慢しないで
     思い切り泣いたらいいのさ」

フィリア「うん」

優しく微笑むシャイルとフィリア。

溜まっていた感情を吐き出すように
泣き出してしまうデフィー。

フィリアがデフィーの傍に寄り、
優しく抱き締めます。

シャイルは二人を
優しい表情で見守っています。

リアム「ふふふ・・
    良いですね、
    羨ましいですわ・・
    私にはそんな風に思ってくれる
    お友達が居ないんですもの・・」

切ない表情で言うリアム。

フィリア「えっ?
     僕達が居るじゃない?」

リアム「!?」

シャイル「そうですよ、
     リアムさん」

デフィー「はいっ」

フィリアの胸元で泣きながら
デフィーも答えます。

リアム「えっ!?
    でも・・
    私のせいで皆さんを
    危険な目に遭わせて
    しまったんですよ、
    そんな私なんかと
    お友達になって
    くれるんですか?」

フィリア「なってくれるもなにも、
     僕達はもう友達じゃない?」

リアム「フィリアさん・・」

シャイル「フィリアちゃんの
     言う通りです。
     それに先程も言いましたが、
     悪いのはすべてロドスです。
     今回のことについて
     リアムさんが責任を
     感じることは有りませんよ」

デフィー「そうです」

デフィーも泣きながら答えます。

リアム「皆さん・・
    ありがとうございます・・

    ・・皆さんは私には
    勿体ない程の
    素晴らしいお友達ですわ。
    だから、
    私もそんな皆さんに
    見合うような人間に
    ならないといけませんわね」

フィリア・シャイル「リアムさん・・」

リアム「フフッ」

リアムは悲しげな表情から一転して
ニコリと笑います。

リアム「そうと決めたら、
    いつまでもウジウジして
    居られませんわね」

ベッドから立ち上がるリアム。

フィリア「あっ、でも・・」

シャイル「そうですよリアムさん、
     まだ無理は禁物ですよ」

心配そうな表情のフィリアとシャイル。

リアム「いいえ、
    もう十分に休ませて
    もらいましたわ。
    それに私よりも
    皆さんの方がお疲れでしょう?

    ですからここからは、
    お詫びと友情のお礼も兼ねて、
    私がたっぷりと
    持て成させていただきますわ!

    まずは晩御飯ですわね!
    とびきり腕によりをかけて
    作らさせていただきますので、
    楽しみに待っていてくださいね!」

そう言うとリアムは
自分の部屋を出て行きました。

フィリア「良かったね、
     リアムさん元気に
     なってくれたみたい」

シャイル「ああ、
     今回のことでかなりショックを
     受けていたからね。
     立ち直ってくれて
     本当に良かったよ」

フィリア「うん」

シャイル「あれ?
     デフィーちゃんは?」

フィリア「ふふっ、
     眠っちゃったみたい。
     ずっとリアムさんの傍に居て
     元気づけていたからね」

シャイル「昨晩はあんなに
     危険で大変な目に遭ったのに、
     ずっと付きっきりで
     リアムさんを見ていてくれたんだ。
     疲れていて当然さ。

     フィリアちゃんも
     疲れているだろう?
     昨日はずっと
     緊張の連続だったし、
     ロドスと戦って
     デフィーちゃんと私を
     守ってくれたんだから。

     それに宿に帰って来てからも、
     デフィーちゃんと一緒に
     ずっとリアムさんに
     付き添っていて
     くれたみたいだしね。

     晩御飯の前に
     少し休んだらどうだい?」

フィリア「それを言うなら
     シャイルもだよ。
     ロドスをずっと追いかけて、
     その後はデフィーとリアムさんを
     治療所に連れて行ったり、
     それに昨日からほとんど
     寝ていないじゃない?」

シャイル「ははは、
     確かにそうだったね。
     何だか安心したからか、
     今になって急に
     疲れが出だしたよ・・
     私達も
     デフィーちゃんと一緒に
     少し休もうか?」

フィリア「うん、
     そうしよう」

晩御飯の前に少し眠ることにした
フィリアとシャイル。
眠っているデフィーをフィリアが背負い、
リアムの部屋を出て
自分達が泊まっている部屋に移動します。

デフィーをベッドに寝かすと、
フィリアとシャイルもそれぞれベッドに入り、
眠りにつきます。


それから数時間経ち
晩御飯の時間になると、
部屋で眠っているデフィー達に
リアムが声をかけます。
眠って休んだこともあり
デフィー達は元気を取り戻し、
宿の食堂に向かいます。

食堂にはパテルとミテラが居り、
リアムが腕によりをかけた料理を
テーブルの上に並べていました。

昨晩からまともに食事を
取らなかったことに加え、
やっと日常に戻れた安心感も重なり、
デフィー達はリアムの作った料理を
ペロリと平らげてしまいました。

デフィー「とっても美味しかったです、
     リアムさん」

フィリア「うん!
     僕もうお腹いっぱいだよ!」

リアム「ふふっ、
    喜んでいただけて
    何よりですわ」

シャイル「いや~、
     本当に美味しかったです。
     ご馳走様でした。」

デフィー・フィリア「ご馳走様でした」

リアム「フフフ、
    お粗末様でした」

デフィー達に笑顔で答えたリアムは、
その後何かを決意したような
真剣な表情をします。

リアム「・・皆さん、
    それにパパとママも、
    この後
    聞いてもらいたいことが
    有るんですが、
    お時間よろしいでしょうか?」

パテル・ミテラ「?」

顔を見合わせるパテルとミテラ。

パテル「私達は構わないよ。」

デフィーとフィリアの顔を見て
確認するシャイル。

シャイル「私達もです。」

デフィー「はい」

フィリア「うん」

リアム「ありがとうございます、
    良かったですわ。
    私事なんですけど、
    パパとママと、
    それにお友達の皆さんにも
    聞いてもらいたくて」

パテル「何の話なんだい?
    リアム」

少し躊躇うリアム。

リアム「・・パパ、私ね、
    この家を出てみようと思うの」

パテル・ミテラ「!?」

驚きの表情を浮かべる
パテルとミテラ。

パテル「な、何だって?
    どうして急に?」

ミテラ「そ、そうよリアム」

リアム「あのね、
    昨晩のことで
    色々思うことが有ったの・・

    私は今まで、
    周りに期待しながら、
    それでいて
    周りのせいにしながら
    生きてきたわ・・」

パテル・ミテラ「?・・」

リアム「いつも周りが
    何とかしてくれる、
    上手く行かないのは
    全部周りのせい。
    そう思いながら生きて来たの・・」

パテル「お前・・
    そんな風に
    思っていたのかい?」

リアム「ええ・・

    いつも周りに期待して、
    でも期待通りにならなくて・・
    それでも周りに
    期待するしか無くて・・

    そんな中、
    今回の恐ろしい事件が
    起こったの・・

    名前も知らない、
    会ったことも無い他者に、
    チャンスだと思って
    期待して、頼ろうとして、
    その為に張り切って・・

    でもその結果、
    自分だけではなく
    大切なお友達まで
    危険な目に
    遭わせてしまった上に、
    パパとママにも心配を
    かけることに
    なってしまったわ・・」

デフィー「リアムさん・・」

心配そうにリアムを見るデフィー。

リアム「それと言うのもすべて、
    私の他者任せの生き方のせい。
    周りが何とかしてくれると思う
    甘えのせいだと痛感したの。

    だからこれからは
    自分の力で、
    自分で決断しながら
    生きて行かないと
    いけないと思ったの!」

ミテラ「リアム・・」

リアム「いつまでも
    このままじゃ
    いけないと思うし、
    いつまでも今のままで
    居られる訳じゃない・・
    状況や環境は常に
    変化し続けていくものだから・・

    いつかは変わらないと
    いけないのだから、
    いい機会だと思うの」

パテル「でもお前・・
    危険な目に遭った
    ばかりなんだよ」

ミテラ「そ、そうよリアム、
    そんなに急がなくても
    いいんじゃないかしら?」

不安そうに心配しながら言う
パテルとミテラ。

リアム「・・ありがとう、
    パパ、ママ。
    でも、
    その言葉に甘えてしまったら、
    決心が鈍ってしまう・・
    またいつもの私に
    戻ってしまうわ」

パテル「リアム・・」

ミテラ「あ、あなた・・」

どうしたら良いのか分からず、
パテルに頼るミテラ。

リアム「だから、
    ワガママかもしれないけど
    分かってほしいの。

    大切な両親が自慢できるような、
    そして
    大切なお友達に恥じないような
    素敵な人間になる為の一歩に、
    私が自立することを」

ミテラ「リアム・・」

パテル「・・・」

リアム「パパ!ママ!」

パテル「・・分かったよ。
    お前がそうしたいと思うのなら、
    そうするべきだ」

ミテラ「あなた・・」

リアム「パパ・・」

パテル「思えば私達も、
    お前を甘やかし過ぎて
    いたのかもしれないね・・

    それに昔は
    いつまでも家に居て良いと
    言っていたのに、
    ここ数年は
    世間体を気にし、
    更には町で起きていた
    若い娘の行方不明現象を恐れ、
    結婚して家を出て
    他所の土地に移るよう
    急かしてしまっていた・・

    そのことがお前を苦しめ、
    追い詰めていると
    分かっていたのに・・」

ミテラ「ええ・・」

パテル「私達が望んでいたのは、
    お前がこの宿を
    継いでくれることでも、
    結婚することでも、
    無かったのかもしれない・・
    お前が自分らしく生きてくれる、
    それが私達の
    本当の願いだったんだ・・」

ミテラ「あなた・・」

リアム「パパ・・」

パテル「だからお前が
    自立して生きたいと言うのなら、
    私達はそれを応援するよ、
    リアム」

ミテラ「ええ・・そうね。
    あなたの言う通りね・・」

リアム「パパ・・ママ・・」

ミテラ「リアム・・
    私もごめんなさい。

    あなたが子供の頃は、
    いつまでもこの家に居て
    良いと言っていたのに、
    あなたが年頃になったら
    結婚して家を出ることを
    求めるようになって
    しまっていたわ・・

    でも、
    いざこの家から
    出て行くとなったら・・
    こんなにも・・
    辛くて悲しい気持ちに・・
    なるなんて・・」

今にも泣きだしそうなミテラ。

リアム「ママ!家は出るけど、
    もう会えない訳じゃないのよ」

ミテラ「分かってる・・
    分かっているわ。
    でも・・
    それでも寂しくて・・」

リアム「ママ・・」

ミテラ「ふふっ、
    ごめんなさい。
    こんなことを言ったら、
    せっかくのあなたの決心が
    鈍ってしまうわね・・」

リアム「・・」

ミテラ「リアム・・
    強い子になったわね。

    ママは勘違いしていたわ・・
    あなたが親離れ
    出来ないんじゃなくて、
    私達が子離れ出来て
    いなかったんだわ・・」

パテル「ああ・・
    その通りだね・・」

堪えていた感情を抑えきれず、
泣き出してしまうパテルとミテラ。
お互いを慰めるように
優しく抱き締め合います。

リアム「パパ!ママ!」

パテルとミテラに駆け寄り、
二人を強く抱き締めながら
リアムも涙を流します。

その様子を静かに見守っていた
デフィー達の目にも、
涙が溢れていました。

リアムの話を聞き終えた
デフィー、フィリア、シャイルは、
自分達の部屋に戻ります。

各々ベッドや椅子に腰かけるデフィー達。

シャイル「二人共、
     改めてお疲れさま。
     長くて大変な一日だったね・・」

フィリア「うん・・
     どうなっちゃうんだろうって
     思うことが何度も有ったよ・・」

デフィー「はい・・
     色々なことが
     いっぱい起きて・・」

シャイル「そうだったね・・
     二人共よく頑張ってくれたよ、
     ありがとね」

フィリア「シャイルだって
     すごい頑張ったよ!」

デフィー「はい!
     いっぱい
     頑張ってくれました!」

シャイル「ははは、
     そうかな・・
     ありがとう。

     本当に・・
     恐怖とピンチの連続の
     一日だったよ・・」

フィリア「うん・・
     僕、正直とっても怖くて、
     逃げ出したい気持ちで
     いっぱいだったんだ・・

     でも二人が傍に
     居てくれたから、
     逃げちゃダメだ!
     二人を守らなくっちゃ!
     って思って、
     何とか頑張れたんだ。
     もし僕一人だったら、
     どうなっていたか
     分からないよ・・」

シャイル「いくら強くても、
     怖いものは怖いよね・・

     本当に・・
     誰一人欠けずに
     戻ってくることが出来て
     良かった・・」

デフィー「はい・・」

フィリア「うん・・
     もしデフィーやシャイルに
     何か有っていたらと思うと、
     僕・・」

シャイル「それは私も同じさ。
     だからこそ恐怖心に負けずに
     頑張れたんだよ。」

フィリア「うん・・そうだね」

シャイル「私も二人が
     一緒に居てくれて良かったよ。
     フィリアちゃんの頼もしさには
     何度も救われたんだよ」

フィリア「シャイルだって
     頼もしかったよ。
     デフィーとリアムさんが
     眠らされてしまった時、
     シャイルが
     居てくれなかったら、
     どうしたら良いのか
     分からなかったもん。

     それにデフィーの部屋で
     ロドスが煙の中から
     襲ってきた時、
     デフィーを離さないように
     シャイルがぎゅっと
     抱き締めていたよね?
     デフィーのことを何が何でも
     守ろうとしてくれている
     シャイルの気持ちが伝わって来て
     僕はとっても嬉しかったんだ。

     それを見て僕も、
     何が何でも二人を
     守らなくっちゃって
     気持ちになったんだよ。
     怖くても頑張れたのは
     シャイルのおかげなんだよ。
     ありがとう、シャイル」

シャイル「フィリアちゃん・・」

デフィー「フィリア、シャイルさん、
     今回のことは本当に
     ありがとうございます。
     二人から聞いた話で
     私は護られているんだと
     改めて気が付きました。
     本当に感謝することしか
     出来ないです。

     私もこれからは、
     大切な二人を守れるように
     強く賢くなります!」

フィリア「デフィー・・」

シャイル「感謝しなくちゃ
     いけないのは、
     私の方さ。

     ロドスに眠らされてしまい
     身動きが取れない
     無防備なデフィーちゃんを、
     そんなデフィーちゃんと
     私を必死に守ろうとしてくれる
     フィリアちゃんを見て、
     この二人を絶対に
     傷つけさせる訳にいかない!
     必ず守ってみせる!
     って思って、
     自分でも信じられないくらい
     勇気が湧いて来たんだ。

     二人が居たから
     乗り切ることが出来たんだよ。
     一緒に居てくれて
     本当にありがとう」

フィリア「・・えへへ、
     何だか照れくさく
     なっちゃうよ・・」

シャイル「そ、そうだね・・」

デフィー「はい・・」

お互いの気持ちを伝え合い、
照れてしまう三人。

フィリア「それに、
     リアムさんが
     元気になってくれて
     良かったよね」

シャイル「ああ、
     無事に立ち直ってくれた
     だけじゃなくて、
     新たな目標を見つけて
     挑戦しようとしているんだ。

     それもこれも二人が
     付き添って元気づけてくれた
     おかげだよ」

フィリア「ううん、
     そんなことないよ」

デフィー「はい、
     私達なんてそんな・・
     リアムさんの心の強さと、
     ご両親の支えが
     有ってのことです」

フィリア「うん!」

シャイル「二人は謙虚だね」

フィリア「ううん、
     本当のことだもん」

デフィー「はい」

デフィーとフィリアを見て
微笑むシャイル。

フィリア「リアムさん言ってたね、
     まだ自分の幸せが
     分からないから、
     まずは自立して生活しながら
     その中で自分なりに
     探してみるって」

デフィー「ええ。
     私達が
     旅をしながら
     幸せを探しているように、
     自分も日々の生活の中で
     探してみるって言っていたわね」

シャイル「ああ。
     幸せの形は、
     人それぞれ違うらしいからね。
     人によっては身近に求める
     ものなのかもしれないし、
     或いは遠くに求める
     ものなのかもしれないね」

デフィー・フィリア「・・・」

シャイル「?
     どうしたんだい?
     二人共」

フィリア「うん・・
     僕達の幸せは、
     何処に有るんだろう?
     って思っちゃって・・」

デフィー「はい・・
     それにもしかしたら、
     遠くじゃなくて、
     近くに有るのかも
     しれないとも
     思ってしまって・・」

フィリア「でも、
     その近くって
     何処なんだろう?
     今の僕達の近くのこと?
     それとも旅に出る前の、
     家族と一緒に
     生活していた場所の
     近くのことかな?」

デフィー「・・・」

フィリア「・・・」

シャイル「ふふふっ、
     さては二人共、
     リアムさん達を見て
     自分の家族のことを
     思い出したんじゃ
     ないのかい?」

フィリア「うん・・実は・・」

デフィー「はい・・」

シャイル「無理も無いさ、
     私も思い出して
     しまったからね・・」

フィリア「シャイルもなの?」

デフィー「そうだったんですか?」

シャイル「ああ。
     まぁ私の場合は、
     家族との関係が上手く
     行ってなかったからね・・

     だから、
     懐かしむと言うよりは、
     リアムさん達みたく
     親子で分かり合うことが
     出来たら良かったのになって、
     憧れの気持ちだけどね・・」

フィリア「シャイル・・」

デフィー「シャイルさん・・」

自分が言ってしまったことに気が付き、
溜息をつくシャイル。

シャイル「ゴメンよ二人共、
     こういう空気になってしまうのは
     分かっているんだけど、
     つい言ってしまうんだよね・・」

デフィー「いいえ、
     もっと言って下さい」

シャイル「?」

デフィー「私、もっと聞きたいです、
     シャイルさんのご家族のこと」

シャイル「!」

デフィー「勿論、
     シャイルさんが
     嫌じゃなければですが・・」

フィリア「うん!
     僕も聞きたいな、
     シャイルの家族のこと」

シャイル「デフィーちゃん・・
     フィリアちゃん・・

     ありがとう、二人共」

優しい笑顔で言うシャイル。

シャイル「・・でも、
     まだやり切れない気持ちが
     強いんだ・・
     だから、
     その気持ちを吹っ切ることが
     出来たら、
     その時は二人に
     聞いてもらおうかな、
     私の家族のことを」

デフィー「はい」

フィリア「うん、待ってるよ」

シャイル「ありがとう・・」

微笑み合う三人。

共に危険を乗り越えたことにより
更に信頼を深めた三人の夜は、
静かに更けて行きます。

若い女性の行方不明者が
出続けている町を訪れたデフィー達。
その原因の一端は、
身分を偽り森の館で暮らしながら
周囲の町や村の女性達を手にかけていた
ロドスでした。

ロドスの逃走を許してしまうものの、
行方不明現象の元凶だったロドスが
森の館を去った今、
周囲の町や村には束の間の平和が
訪れたかのように思われます。

しかし、
行方不明になっていた女性達は
帰ることはありませんし、
町や村を離れて行った人々も
戻っては来ません。
何もかも元通りにはならないでしょう・・

また、
逃走したロドスが別の土地でも
同じことを繰り返さないとも限りません。
ロドスが捕まるまでは、
行方不明現象が解決することは
ないでしょう・・・


ロドスに招待された森の館で
命の危険に遭遇するも、
何とか乗り切ることが出来た
デフィー、フィリア、シャイル、リアム。

館での出来事で
ショックを受けていたリアムは立ち直り、
前向きに生きていくことを決意したようです。

デフィー達も共に危険を経験し、
乗り越えたことで、
絆がより深まりました。

デフィー、フィリア、シャイルの
幸せを探す旅はまだまだ続きます。
次はどんな出会いや出来事が
待っているのでしょうか?
そして三人は、
幸せになることが出来るのでしょうか?

幸せになりたいエルフの冒険
第十話につづきます。

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