一挙版 幸せになりたいエルフの冒険 第九話 エルフと吸血鬼 第四部
エルフの女の子デフィーは、
ダークエルフの女の子フィリア、
人間の女性で作家のシャイルと一緒に
幸せを探す旅をしています。
デフィー達が旅の途中宿を取った町では、
数年前から若い女性の行方不明者が
出続けており、
それを恐れた町の住人達が
町を捨てて他所の土地へと移住していた為、
人が少なく空き家が目立っていました。
デフィー達が宿屋に泊まった晩、
宿屋の娘のリアムのもとに
Rと名乗る人物から封書が届きます。
封書の内容はRの屋敷への招待で、
リアムと一緒にデフィー達三人も
来ることと、
その中の誰か一人でも来れない場合、
招待の話は無かったことにする旨が
書かれていました。
どうしても屋敷に行きたいリアムは、
デフィー達に無理を言って
一緒に招待を受けてもらうよう頼み、
デフィー達は不安を感じながらも、
リアムの為に引き受けることにします。
翌日の晩デフィー達四人は、
指定された夜の森の中の待ち合わせ場所で
Rの屋敷からの迎えの馬車と合流し、
一時間ほど馬車に乗って屋敷へと到着します。
そして執事のルドムに
屋敷へ迎え入れられたデフィー達は、
休憩も兼ねて一人ずつ
別々の部屋に通されます。
その後
食事の準備が整い食堂へ行くと、
差出人のRこと
ロドスが待っており歓迎されます。
デフィー達とロドスは
お互いに軽く挨拶を済ませると、
料理を用意したテーブル席に着いて
食事をしながら会話をしていました。
しかし少しすると、
リアムとデフィーが
急な眠気に襲われてしまいます。
そこでデフィー達はロドスの提案で、
一度部屋に戻って休むことにしました。
特に眠そうにしていたリアムが
心配だったので、
デフィー、フィリア、シャイルは、
食事の前にリアムが案内された、
屋敷の三階の一番手前の部屋まで
リアムを送り届けることにします。
部屋に辿り着いたリアムは、
デフィー達にお礼を言うと、
そのまま倒れるようにベッドに横になり
眠ってしまいます。
フィリア「もう寝ちゃった・・
よっぽど疲れていたんだね、
リアムさん。
昨日の晩から
とっても張り切っていたから、
無理も無いのかな・・」
シャイル「うん、そうだね・・
とは言え、
こんなに眠り込む
ものだろうか・・」
デフィー「ふ、二人共ごめんなさい・・
私ももう限界で・・
今すぐにでも
眠ってしまいそう・・」
フィリア「デフィー・・」
心配そうにデフィーを見るフィリア。
フィリア「あのね、デフィー、
それとシャイルにも
話しておきたいことが
有るんだけど、
無理そうかな?・・」
シャイル「?」
デフィー「・・ごめんなさいフィリア、
あなたの言い方から
何か大切なことを
話そうとしているのは
分かるんだけど・・
とても起きて聞いて
いられそうにないの・・」
眠気と戦いながら
申し訳なさそうに言うデフィー。
フィリア「・・分かった。
デフィー、
君の部屋に行こう」
深い眠りについているリアムを一人部屋に残し、
食事前にデフィーが案内された
三階の一番奥の部屋へ、
デフィー達三人は移動します。
デフィー「ここよ・・」
部屋に到着して中に入るなり、
ベッドに倒れこんでしまったデフィーは、
リアム同様そのまま眠ってしまいました。
フィリア「デフィー・・。
こんなに疲れ切って
眠り込むデフィーを、
今まで見たことが無いよ・・」
ベッドで眠り込むデフィーの髪を解き、
布団を掛けながらフィリアが言います。
シャイル「デフィーちゃんだけじゃない、
リアムさんもさ。
いくら何でも少し
おかしくないかい?」
フィリア「えっ?」
シャイル「確かに今日は
色々なことが有った。
でもこんな風に
眠り込んでしまう程
疲れてしまうものだった
だろうか?・・」
フィリア「う、う~ん・・
そうだね・・」
シャイル「それに二人が
同じようなタイミングで
眠くなってしまったのも
気になる・・」
フィリア「それは・・
疲れていたところに
お腹が満たされたからだって
ロドスさんが・・」
シャイル「うん・・
二人の眠気の原因が
疲れだったとして、
一緒に居て同じように行動していた
フィリアちゃんはどうだい?
二人のように起きていられない程
疲れて眠たいかい?」
フィリア「えっ?え~と・・
疲れも眠気も
そんなでもないかな・・」
シャイル「そうだよね?
私も同じだよ。
私達は今日一日、
今晩の招待の為に
不慣れなことや
気を遣うことが多かったけど、
招待の食事を
中断しなければならない程
眠くなってしまったり、
部屋に着くなりベッドに
倒れこんで寝入ってしまう程は
疲れてはいないよね?」
フィリア「う、うん」
シャイル「現にフィリアちゃんと
私は平気だ。
でも、
デフィーちゃんとリアムさんは
そうなってしまった・・」
フィリア「・・・」
シャイル「リアムさんは
普段あまり運動をしなさそうだし、
今日は張り切っていたから
疲れていたのは分かるけど、
それでもあそこまで眠り込むのは
不自然な気がするんだ・・
それに私がそこまで
疲れていないのに、
私よりも体力の有る
デフィーちゃんまで
寝込んでしまうのも
やはりおかしい・・」
フィリア「確かに・・」
シャイル「もしかしたら、
二人が眠ってしまったのは、
疲れのせいだけでは
ないのかもしれないね・・」
フィリア「?」
シャイル「・・念の為に
試してみようか?」
フィリア「何をするの?」
シャイル「ちょっと可哀想だけど・・」
ベッドで眠っているデフィーの肩に
右手で触れて、
身体を軽く揺すりながら呼びかけるシャイル。
シャイル「デフィーちゃん!
デフィーちゃん!」
フィリア「!?
シャ、シャイル!何をしてるの?
デフィーが起きちゃうよ!」
シャイル「・・いいや、
見ていなフィリアちゃん」
フィリア「?」
シャイル「デフィーちゃん、起きて!
出発の時間だよ!」
引き続きデフィーの身体を軽く揺すりながら
呼びかけるシャイル。
しかしデフィーが目覚めることはありません。
フィリア「・・・
こんなに揺らしながら
呼びかけても起きないなんて・・
!
まさか・・」
シャイル「大丈夫、
息はしているよ、
眠っているだけさ」
フィリア「よっ、良かった・・」
胸を撫で下ろすフィリア。
シャイル「ただし、
不自然な程ぐっすりとね・・」
フィリア「・・確かに、
シャイルの言う通り
少しおかしいかもね・・
ベッドに倒れこむように
眠ってしまったり、
あんなに揺り起こしても
目を覚まさないなんて・・
こんなことは
今まで一緒に居る時に
一度も無かったのに・・」
シャイル「ああ。
だから疲れとは別の原因が、
何か有るんだと思うんだ・・」
フィリア「疲れ以外の原因って?」
シャイル「私とフィリアちゃん、
それにデフィーちゃんと
リアムさんは、
ずっと一緒に居たよね?」
フィリア「うん」
シャイル「デフィーちゃんも
リアムさんも
さっきまで元気だったのに、
途中から不自然な程の
眠気に襲われ眠ってしまった・・
だからもしかしたら、
デフィーちゃんと
リアムさんには有って、
私とフィリアちゃんには無かった
何かが有って、
それが原因なんじゃないかと
思うんだ」
フィリア「う、うん」
シャイル「そこで
思い出してほしいんだ、
デフィーちゃんとリアムさんの
二人だけはしたけど、
私達はしなかったこと。
或いは二人はしなかったけど、
私達だけがしたことを」
フィリア「えっ?
ちょ、ちょっと待ってね、
今思い出してみるから・・
え~っと・・
う~んと・・」
少しの間考えるフィリアとシャイル。
フィリア「・・ごめんシャイル、
そんなに急には
思い浮かばないよ・・」
シャイル「・・そうだよね、
言い出したものの、
私もすぐには
思い浮かばなかったよ・・」
フィリア「そうだ!
今日一日の行動を、
初めから振り返ってみたら
どうかな?」
シャイル「そうだね、
そうしてみようか。
その方が何か
思い出すかもしれないね」
フィリア「うん。
え~と、今日は・・
朝はリアムさんの宿で
起きてから、
皆で宿の朝食を
ご馳走になったんだよね?
それから・・
いつもならその後
旅の続きに出発するんだけど、
今日はこの招待が有ったから、
宿のお部屋でのんびりと
過ごしていたんだっけ」
シャイル「そうだったね、
久しぶりにゆっくりとした朝を
過ごせたんだった」
フィリア「あっ、
でも僕達はお部屋で
ゆっくりしていたけど、
リアムさんは
宿のお仕事をしたり、
今晩の準備の為に
色々忙しそうに
していたっけ?」
シャイル「ああ、
そうだった。
手紙には普段通りの格好でと
書かれていたけど、
それでもその範囲内で
出来る限りの
おしゃれはしたいって
言っていたからね。
服を選んだり、
メイクの準備をしていたね」
フィリア「うん。
それで僕達は、
お部屋で少しゆっくりした後、
僕、シャイル、デフィーの三人で
一緒に町の中を見て
回ったんだよね?」
シャイル「ああ。まぁ、
例の行方不明現象のせいで
住人が少ない為に、
町中は活気も無かったし、
空き家が多くて
お店なんかもほとんど
閉じていたけどね・・」
フィリア「そうだったね・・
昨日パテルさん達の
話を聞いた後だから、
より切実に感じちゃったよ・・」
シャイル「私もさ・・
そんな中で
お昼を食べた食堂は
やっていてくれて
助かったよね?」
フィリア「うん!
お店の人は親切だったし、
料理も美味しかったね」
シャイル「ああ。
あれだけ美味しくて
店の雰囲気も良いのに
お昼時に閑散としていたのは、
やはり町の人が少ないから
なんだろうね・・
行方不明現象なんて起こらずに
町から人が出て行かなければ、
きっとあの店は
賑わっていたんだろうね・・」
フィリア「うん、そうだね・・
町の食堂の人達も
パテルさん達と同じで、
僕達に早く町を出るように
勧めてくれたね・・」
シャイル「そうだったね・・
自分達が困っていながらも、
よそ者の私達のことを
親身に思って気にかけてくれる・・
あの町にはそんな人優しい達が
多いのかもねしれないね・・」
フィリア「うん・・」
シャイル「そんな人達を
苦しめ続ける行方不明現象が、
私は憎くて仕方が無いよ・・」
悔しそうに言うシャイル。
フィリア「シャイル・・」
シャイル「行方不明現象が
起こり続ける限り、
あの町の人達は
いつまでも苦しむことになる・・
消えてしまった娘さん達は
一体何処でどうしているのか?
そして何が原因で
そうなっているのか?
それが分かれば
町の人達も少しは
救われるだろうに・・」
フィリア「・・そうだね、
僕達が何か役に
立てればいいのにね」
暗い表情になってしまうフィリアとシャイル。
シャイル「ああ・・ごめん、
話が反れてしまったね。
続きに戻ろうか?」
フィリア「うん・・」
シャイル「え~と・・
お昼ご飯の後は、
町の外をゆっくり歩きながら
見て回って、
それで夕方前には
宿に戻ったんだよね?」
フィリア「うん。
僕達が宿に戻った頃、
リアムさんは宿のお仕事と、
今晩の準備とで
忙しそうにしていたね」
シャイル「そうだったね。
それで宿で夕食を
ご馳走になった後、
リアムさんが今晩の
作戦会議をしようと言って、
私達の部屋で
少し話し合ったんだっけ」
フィリア「うん、
それで話し合いが終わったら
ちょっと休んでから
お風呂に入って・・
それから僕達も出かける準備に
取り掛かったんだよね?」
シャイル「ああ、
まぁ準備と言っても
手紙に書いて有ったから、
普段通りの格好で
特別なことは
していないんだけどね。
そして手紙には内密にと
書かれていたから、
パテルさんとミテラさんに
手紙のことや招待のことを
知られないように、
リアムさんが二人を
早く休ませたんだったね」
フィリア「そうそう、
それでパテルさん達が
眠った後に起こさないよう
静かに宿を出て、
指定の時間に間に合うように
皆で暗い夜道を歩きながら、
森の中の
待ち合わせ場所に行って、
それであの大きな馬車に乗って
このお屋敷まで来たんだったね」
シャイル「ああ、
そして屋敷の入り口前で
馬車を降りて待っていたら、
執事のルドムさんに
中に入れてもらい、
最初に一階の食堂の場所を
案内してもらった後、
一人ずつ別々の部屋に
通されたんだっけ」
フィリア「うん、
そのあとしばらく
お部屋で待っていたら、
食事の準備が整った合図の
銅鑼の音が聞こえたから、
皆それぞれ部屋から出て
食堂前に集まって、
それで四人一緒になって
食堂の中に入ると、
ロドスさんが食事を用意して
待っていてくれたんだよね」
シャイル「ああ。
それで挨拶を済ませて
食事をしながら話していたら、
デフィーちゃんとリアムさんが
突然強い眠気に襲われた。
なので食事を中断して
少し休むことにして、
案内された部屋に戻ったら
二人は眠り込んでしまった・・
という感じだったよね」
フィリア「うん、そうだったね」
シャイル「どうだい?
思い返してみて
何か気になることは
有るかい?」
フィリア「う~ん・・
特には無いかな・・
僕とシャイルとデフィーは、
今日一日ずっと一緒に居て
皆で同じように
行動をしていたよね?」
シャイル「ああ」
フィリア「リアムさんは、
宿のお仕事や
今晩の準備が有ったから、
僕達とは別の行動を
とっていたけど、
宿を出発してからは
僕達とずっと一緒に居て
皆で同じように
行動していたし・・」
シャイル「そうだよね・・
私達はいつもと
生活リズムが違ったし、
この招待に対しての
不安や緊張は有ったけど、
そこまでのものでは
なかったはずだ」
フィリア「うん、
時間的にも体力的にも
いつもよりゆっくり出来たし」
シャイル「ああ。
リアムさんの方も、
宿の仕事に今晩の準備と
張り切っていたけど、
疲れ切って眠ってしまう
程ではなかっただろうし・・」
フィリア「リアムさん・・
忙しそうに張り切っていたけど、
元気で嬉しそうだったし、
何よりこの招待を
楽しみにしていたからね」
シャイル「そうだよね・・
あんなに楽しみにしていた
ロドスさんとの食事の最中に、
眠たくなってしまうとは
考えにくいよね・・」
フィリア「うん・・」
シャイル「それに、
リアムさんだけが
眠ってしまっているなら
ともかく、
私達とずっと一緒に居て
同じような行動をとっていた
デフィーちゃんまで、
リアムさんと同じように
眠り込んでいるのを見ると、
リアムさんだけが
別に取っていた行動に
原因が有るとは
考えにくいね・・」
フィリア「そうだね・・
もしリアムさんだけが
取っていた行動が原因なら、
僕達とずっと一緒に居たデフィーが
リアムさんと同じように
眠っているはずないものね・・」
シャイル「ああ。
一体何が原因なんだ?・・」
フィリア「・・・
もっと別の所に原因が
有るのかなぁ?・・
それとも、
原因なんて無いのかなぁ?」
シャイル「いや、
やはりあの眠り方は
不自然だよ。
そうなると必ず何か
原因が有るはずさ」
フィリア「原因か・・
ねぇシャイル」
シャイル「何だい?」
フィリア「僕達は今、
今日の行動から
眠くなる原因を考えていたけど、
そもそも眠くなるのって
何が原因なのかな?」
シャイル「!
なるほど、
行動から原因を
探るのではなくて、
眠くなる原因から
考えてみる訳だね」
フィリア「うん」
シャイル「眠くなる原因か・・
う~ん、
一般的なのは
疲れやストレスなどから来る
エネルギー不足かな?
所謂生理現象だよ。
ほら、朝起きてから
一日活動していると、
夜には疲れて眠くなるだろう?」
フィリア「うん」
シャイル「他にも睡眠不足や、
体内時計の乱れなんかが原因で、
眠くなってしまうことも
有るみたいだよ」
フィリア「さっきの話だと
疲れやストレスが原因の
眠気ではなさそうなんだよね?
となると睡眠不足や
体内時計の乱れなのかな?・・
リアムさんは分からないけど、
デフィーは毎日ちゃんと
寝れていたと思うから、
寝不足ではなかったと思うよ。
それに僕達は、
割と規則正しい生活を
送れていると思うから、
体内時計が乱れるようなことも
ないと思うんだけど・・」
シャイル「そうだよね・・
一緒に旅をしているけど、
デフィーちゃんに
寝不足や体内時計の
乱れのような症状は、
特に見られなかったよね・・」
フィリア「うん・・
でもそうなると、
原因が無くなっちゃうよね・・」
シャイル「ああ・・」
フィリア「他には何か無いの?
眠くなっちゃう理由?」
シャイル「他にかい?
う~ん・・
他にもあるには有るけど・・」
フィリア「有るけど?・・」
シャイル「うん・・
この場合は当てはまらないと
思うんだよね・・」
フィリア「?
どんな方法なの?」
シャイル「薬を使う方法なんだけど・・」
フィリア「薬?」
シャイル「ああ。
眠れなかったり
眠りが浅かったりして、
睡眠に障害が有る人が、
寝つきを良くする為に
睡眠薬を
服用することがあるんだ」
フィリア「へ~」
シャイル「因みに
デフィーちゃんは、
そう言った睡眠薬の類は
飲んでいないよね?」
フィリア「うん。
今まで飲んでいるところを
見たことないよ」
シャイル「付き合いの長い
フィリアちゃんが言うなら
間違いないよね。
もし仮にリアムさんが
薬を常用していたとしても、
あれだけ楽しみにしていた
招待が有るにも関わらず、
眠ってしまうような薬を
事前に飲んだとは考え難い。
となると、
やはりこの線も薄いよね・・」
フィリア「そっか・・」
シャイル「・・眠くなるのとは
少し違うけど、
他にも
麻酔薬なんかで
感覚や意識を一時的に無くし、
深い眠り状態にしたり、
催眠術を使って暗示をかけて
催眠状態にするなんて方法も
有るみたいなんだけど・・
でも、
どちらも今回の状態には
当てはまらなそうだよね・・
それに催眠術に至っては
フィクションの中の話だからね・・」
フィリア「・・そうなると原因は
何なんだろう?
ますます分からなく
なっちゃったね・・」
シャイル「ああ。
疲れやストレスが原因の
エネルギー不足でもなければ、
睡眠不足や
体内時計の乱れでもない・・
更には睡眠薬のような薬を
服用した訳でもないとなると・・
参ったね・・
さっぱり分からないや・・」
フィリア「ねぇシャイル、
二人が眠ってしまった原因を
考えるのも大事だけど、
リアムさんの様子が心配だよ。
様子を見に行ってみない?」
シャイル「そうだね、
そうしよう」
フィリアとシャイルは、
ベッドで眠っているデフィーを残して
部屋を出ます。
そして、
廊下を歩いてリアムの部屋へと向かいます。
廊下は数本の蠟燭で
明かりを灯してありましたが、
薄暗い状態でした。
シャイル「・・・
初めて案内された時から
思っていたけど、
薄暗くて陰気な廊下だね・・
ここで暮らしている
ロドスさんには失礼だけど、
こんなところに毎日居たら
気が滅入ってしまいそうだよ・・」
フィリア「うん・・
それに何だか、
寒く感じない?」
シャイル「・・そう言えばそうだね、
廊下に出てから急に
冷えた感じがする・・
きっと窓から隙間風でも
入ってくるんじゃないかな?」
フィリア「でも、
今日外はそんなに
寒くなかったよ?」
シャイル「・・そうだったね、
外よりも屋敷の中の方が
寒いなんてことが
有るのかな?・・」
フィリアとシャイルは
リアムの部屋の前に到着し中に入ると、
ベッドで眠っている
リアムの様子を窺います。
シャイル「・・うん、
さっき部屋を出た時と同じだ、
よく眠っているよ」
フィリア「・・デフィーと
同じだね」
シャイル「ああ。
念の為にリアムさんにも
声をかけてみようか。
リアムさん!リアムさん!」
シャイルはデフィーにしたのと同じように
リアムの身体を優しく揺すりながら
名前を呼びかけます。
しかしリアムも目を覚ましそうにありません。
フィリア・シャイル「・・・」
シャイル「やはりリアムさんも起きない・・
デフィーちゃんと言い
これだけ呼びかけても
目を覚まさないなんて・・」
フィリア「うん・・
眠り方もだけど、
起きないところも
デフィーとまったく同じだね」
シャイル「ああ、
そっくりだ。
まるで同じ方法で
眠らされたみたいに・・」
フィリア「!?
眠らされたって?・・」
シャイル「・・フィリアちゃん、
二人のこの眠り方は、
普通の睡眠とは違うよ・・
不自然だよ。
だから
こうなってしまったのには
必ず何か原因が有るはずだ。
睡眠の原因については
さっき考え尽くしたけど、
どれも当てはまらなかった。
となるとこれはもう、
自然な睡眠ではなく
何者かによって起こされた
現象だとしか思えないよ」
フィリア「シャイル・・」
シャイル「誰が、どうやって、
一体何の為に二人を・・」
フィリア「ま、待ってシャイル、
まだそうと決まった訳じゃ・・」
シャイル「でもフィリアちゃん、
そうでもなければ
説明がつかないんだよ。
何の原因も無いのに
突然睡魔に襲われて
そのまま寝込んでしまうなんて
おかしいもの」
フィリア「・・・」
シャイル「自発的な原因は
考え尽くしたけど、
どれも当てはまらなかった・・
となると外部から意図的に
何かをされたとしか
考えられないよ」
フィリア「そんな・・」
動揺するフィリア。
フィリア「もし本当にそうなら、
どうして?・・」
シャイル「・・・」
黙ったまま考えている様子のシャイル。
フィリア「・・今日は皆で一緒に
お屋敷に招待されて、
楽しい日になるはず
だったのに・・
リアムさんはあんなに
ロドスさんに会うのを
楽しみにしていたんだよ?
それなのに、
こんなのって無いよ・・」
悲しそうに言うフィリア。
シャイル「フィリアちゃん・・」
心配そうにフィリアを見るシャイル。
フィリア「デフィーもリアムさんも
さっきまで元気だったのに・・
デフィーとは、
一緒に精一杯リアムさんに
協力するって約束してたんだ・・
だからリアムさんが
ロドスさんと楽しそうに
お話ししたり、
美味しそうに料理を
食べているのを見て
良かったなって思ったんだ・・
このままリアムさんの願いが
叶えばいいのにって・・
リアムさん、
あんなに嬉しそうに
していたのに・・
それなのに・・
どうして・・
どうして急にこんな・
!・・」
急に何かに気がついた様子のフィリア。
シャイル「?
ど、どうしたんだい?
フィリアちゃん・・」
フィリア「・・そうか、
うん、そうだったよ!
分かったよシャイル!」
シャイル「な、何がだい?」
フィリア「デフィーとリアムさん
だけがして、
僕達がしなかったことが
分かったんだよ!」
シャイル「!?
何だって?
フィリアちゃん、
それは一体何だい?」
フィリア「食事だよ・・」
シャイル「・・食事?」
フィリア「うん、
このお屋敷での食事さ」
シャイル「!
ああ!!」
フィリア「ねっ?
デフィーとリアムさんは
このお屋敷で出された料理を
食べていたけど、
僕と、確かシャイルも
口にしなかったんじゃないかな?」
シャイル「そうだ・・
うん、確かにそうだったよ。
私も一口も食べなかったよ。
流石はフィリアちゃん、
よく覚えていたね」
フィリア「えへへ」
シャイル「こんなことに
なってしまったから、
すっかり忘れていたよ」
フィリア「僕も今の今まで
忘れてたよ」
シャイル「そうか食事、
食事か・・
あっ!
分かったよフィリアちゃん、
二人が突然眠ってしまった原因が!」
フィリア「本当!?シャイル?」
シャイル「ああ。
きっと屋敷で出された食事に、
何か薬が仕込まれていたに
違いないよ」
フィリア「えっ!?」
シャイル「小説なんかで有るんだよ、
食事や飲料なんかに
睡眠薬を仕込んで
相手を眠らせてしまう話がね・・
かなり古典的なやり方だけど、
相手が警戒さえしていなければ
食事をさせることによって、
自然且つ高い確率で
薬を服用させることが出来る・・
そうだったと考えれば、
デフィーちゃんとリアムさんが
眠ってしまったけど、
私達が眠らなかった理由に
説明がつく」
フィリア「まさか、
デフィーとリアムさんは
睡眠薬の入った食事を
食べたから、
眠ってしまったってこと?・・」
シャイル「ああ。そして
私とフィリアちゃんは、
薬入りの食事を食べなかったから
眠らずに済んだ・・
ねっ?」
フィリア「で、でも・・
本当にそんなことが・・」
シャイル「私も考えたくはないよ・・
でも、
そう考えれば
この不自然な状況の
説明が付くだろう?」
フィリア「ま、待ってよ・・
まだ食事の中に
薬が入れられていたと
決まった訳でもなければ、
デフィーとリアムさんが
無理やり眠らされたとも
限らないじゃない」
シャイル「そうでなければ、
他にどうすれば
この状況になると言うんだい?
他の可能性はさっき二人で
散々考えたけど、
どれも当てはまらなかった
はずだよ?」
フィリア「うっ・・
で、でも、
もしシャイルの考え通りなら、
それをしたのは
食事を用意してくれた
このお屋敷の人達って
ことになるよね?」
シャイル「・・ああ」
暗い表情で答えるシャイル。
フィリア「だったら何で僕達に
そんなことをするの?
お屋敷の人達が
今日初めて会った僕達に、
そんなことをする理由が
無いじゃない?」
シャイル「そ、それは・・
そうなんだよね・・」
フィリア「ねっ?
だからまだ
そう決めつけるのは
早いと思うんだよ」
シャイル「う、う~ん・・」
フィリア「・・シャイル、僕ね・・
人間が人間同士や、
僕達みたいな違う種族に、
何か危害を加えるような
ことをするなんて
考えたくないんだよ・・」
シャイル「フィリアちゃん・・」
フィリア「・・だから、
この屋敷の人達を疑う前に
他の原因も考えてみようよ?」
シャイル「・・そうだね、
分かったよ。
フィリアちゃんの言う通りだ。
安易にこの屋敷の人達を
疑う前に、
もう少し他の可能性も
考えてみないとね。
原因が
分からなかったところに、
都合の良い答えが
浮かんだものだから、
ついそうなんじゃないかって
思ってしまったよ。
森の中での話といい、
私は小説の読み過ぎだね。
反省しないと」
フィリア「シャイル、
ありがとう、分かってくれて」
シャイル「ううん、
私の方こそお礼を言わないと。
証拠も無いのに、
この屋敷の人達に
疑いをかけてしまう
ところだったよ」
フィリア「ねぇ、シャイル。
僕達も少し休まない?」
シャイル「ああ、
それもそうだね。
思えばさっきから少し
頭を使い過ぎかもね。
・・それに今日は
色々なことが立て続けに
起こり続けているからね、
流石に少し疲れたよ・・
休憩しよう」
フィリア「うん」
シャイル「リアムさんの状態も
確認できたし、
一度デフィーちゃんの
部屋に戻って、
そこで休もうか?」
フィリア「そうだね、
そうしよう」
フィリアとシャイルは
少し休憩をとることにして、
リアムの部屋を出てデフィーの部屋へ戻ります。
デフィーの部屋に入ると、
フィリアはデフィーが寝ているベッドへ
静かに駆け寄ります。
フィリア「デフィー・・
やっぱりまだ眠っているよ」
シャイル「そうか・・
リアムさんも同じように
眠っていたからね・・」
フィリア「うん・・」
心配そうにデフィーを見る
フィリアとシャイル。
シャイルは部屋の中に有る椅子に腰かけ、
フィリアもデフィーの眠るベッドの足元の方に
静かに腰を下ろします。
シャイル「・・さて、
どうしたものかね?
考えられる原因は
一通り考えてみたけど
分からずじまいだし、
一番可能性のあるものも
推測の域を出ないからね・・」
フィリア「うん・・」
シャイル「二人が眠ってしまった
原因も考えないと
いけないけど、
これからどうするかも
考えないといけないね」
フィリア「えっ?」
シャイル「当初の予定では、
屋敷に到着して
少し話をしたら、
すぐに宿に帰る予定だった。
でも二人がこんなことに
なってしまい、
そうもいかなく
なってしまったからね、
どうするかを考えないと」
フィリア「う、うん、
そうだね」
シャイル「リアムさんに
頼まれたから
渋々引き受けたけど、
誰が招待したのかも
屋敷の場所が
何処に有るのかも
分からない、
この謎だらけの招待に
応じてしまったのは
やはり間違いだったのかも
しれないね・・
そのせいで
デフィーちゃんとリアムさんが
こんなことになってしまった・・」
フィリア「シャイル・・」
シャイル「もう時間も遅いし、
あまり長居すると
今晩中に宿に
帰れなくなってしまう・・
この招待を楽しみにしていた
リアムさんには悪いけど、
もう少ししても
二人が目を覚まさなかったら
眠ったままでも連れて
帰ることにした方が
良いかもしれないね・・」
フィリア「・・そうだね、
もしパテルさん達が
目を覚ました時に、
リアムさんや僕達が
居なかったら
心配しちゃうだろうからね・・」
シャイル「ああ」
フィリア「!」
何かに気が付いた様子のフィリア。
シャイル「?
どうしたんだい、
フィリアちゃん?」
フィリア「・・足音が聞こえるんだ、
誰かが廊下を歩いて
この部屋の方に
近づいてくるみたいだよ」
シャイル「何だって?」
フィリア「・・もしかして、
リアムさんが目を覚まして
僕達を探しているのかな?」
シャイルはデフィーの様子を見ますが、
デフィーはまだ眠っています。
シャイル「・・そうじゃなければ、
私達以外に
この屋敷に居る人間かもね。
このまま様子を見よう」
フィリア「うん、
分かった」
廊下を歩く足音はどんどん近づいてきて、
デフィー達の居る部屋の前で止まりました。
次の瞬間
部屋のドアを軽くノックする音が
部屋の中に響きます。
『コン、コン!』
フィリア・シャイル「・・・」
ロドス「失礼します、ロドスです。
シャイル様にフィリア様、
こちらにいらっしゃいますかな?
お茶をお持ち致しました」
フィリア《小声で》
「ロドスさんだ・・」
シャイル《小声で》
「・・そうだね。」
(やはりデフィーちゃんが
眠ったままなのに、
リアムさんが起きている
訳はないか・・)
シャイルは部屋の外に聞こえる声で答えます。
シャイル「はい。
ありがとうございます、
今ドアを開けますので
お待ちください」
椅子から立ち上がり
ドアを開けるシャイル。
廊下には、
カップに注いだ四つのお茶を
トレーに乗せて持っているロドスが
一人で立っていました。
部屋の外から中を確認するロドス。
ロドス「ああ、お二人共、
やはりこちらに
いらっしゃいましたか。
二階のお部屋にも、
リアム様のお部屋にも
いらっしゃいませんでしたからね」
シャイル「え、ええ。
二人のことが
心配だったので。
どうしたものか二人共
すっかり眠り込んで
しまったんですよ。
デフィーちゃんはいつも
こんなことは無いんですが・・」
ロドス「ははは、
長い道のりをお越し
いただきましたからね、
さぞお疲れになったのでしょう。
そこにお腹が満たされたものだから、
急に眠くなって
しまったのでしょうね」
優しく微笑みながら言うロドス。
ロドス「失礼致します」
シャイルに断ると
デフィーの部屋の中へ入り、
テーブルの上に
お茶の入ったカップを置くロドス。
フィリア「あ、ありがとうございます」
ロドス「いえいえ。
先程リアム様の
お部屋を見てきたところ
お休みのようでしたので、
リアム様の分のお茶も
こちらのお部屋に
置かせていただきますね」
シャイル「お心遣い
ありがとうございます」
ロドス「冷めてしまう前に
お目覚めになれば
良いのですが、
デフィー様もリアム様も
大分お疲れのようですからね・・」
シャイル「ええ・・」
ロドス「・・どうでしょうか?
もう時間も遅いですし、
今晩はこちらの屋敷に
お泊りになられては
いかがですか?」
フィリア・シャイル「!?」
シャイル「い、いえ、
それではご迷惑に
なってしまいますから」
ロドス「迷惑だなんて、
そんなことはございません。
ご遠慮はなさらなくて
結構ですよ」
シャイル「ありがとうございます。
しかし、
いただいたお手紙に
内容は内密にと
書いて有りましたので、
私達が泊まっている
リアムさんの宿のご夫婦には、
このお屋敷に行くことを
言わずに出てきて
しまっています。
客の私達もそうですが、
娘のリアムさんが、
知らない内に出かけたまま
朝になっても
帰っていないとなれば、
宿のご夫婦が
心配してしまいます。
なのでもう少ししたら
二人が眠ったままでも
連れて帰るつもりでしたので」
フィリア「う、うん。
パテルさん達心配するよ、
だから帰った方が良いよ、
うん」
ロドス「・・左様でございますか?
どうしてもお帰りになると
おっしゃるのなら
馬車でお送りしたい
ところなのですが、
こうも時間が遅くなってしまうと
それはどうにも難しく
なってしまいますね・・」
シャイル「?
どう言うことですか?」
ロドス「はい、
この屋敷を取り囲む森は深く、
これ程に遅い時間になってしまうと
夜の闇が酷く深まってしまい、
視界が非常に効き辛く
大変危険な状態になっております。
更には
森の中には狼などの
危険な野生動物が生息しております。
その動物達が夜になると活発になり、
餌を求めて森の中を
歩き回っているのです。
そんな中を馬車で移動する行為は
非常に危険ですので、
出来ることなら避けたいのです」
シャイル・フィリア「・・・」
ロドス「それにお送りするにしても、
馬車は皆様がお泊りの
リアム様の宿までは
お送りすることは出来ません」
シャイル・フィリア「?」
シャイル「何故です?」
ロドス「御者から
お聞きになったと思いますが、
悪しき者に屋敷の馬車を見られて
後をつけられないようにする為です。
夜とは言え何処で誰に
見られているか
分かりませんからね。
よって人目の有るかもしれない
町の中の宿まで
馬車でお送りすることは、
申し訳ありませんが
出来ないのです。
お送り出来るとしたら、
行きと同じ待ち合わせ場所の
森の中までです」
フィリア「そ、そんなぁ・・」
ロドス「その待ち合わせ場所の森にも、
屋敷の周りの森同様に
獰猛な野生動物が
居ないとも限りません」
シャイル・フィリア「・・・」
ロドス「それに今の
デフィー様とリアム様の
ご様子ですと、
これから馬車を出して
無事に待ち合わせ場所の森まで
帰れたとして、
馬車をお降りになる頃までに
お二人は目を覚まして
歩けるようになって
いますかどうか・・
もしお二人が
眼を覚まさなかったら、
暗くて危険な森の中から
眠ったままのお二人を
シャイル様とフィリア様が
運んで移動することになります。
そのような危険なことは、
私としましては
お勧めしたくないのです・・
悪いことは言いません、
ご遠慮なさらずに
泊っていくと良いですよ。
あなた方がお泊りの
リアム様の宿のことがご心配なら、
朝一でお帰りになればいいでしょう。
明るくなれば視界が効きますし、
獰猛な動物達も
眠りについています。
その時間にお帰りになれば
安全ですし、
ご夫婦が目覚める前に
帰れるか、
或いは目覚めてしまっても
ご心配させる時間が
短くて済むでしょうから」
シャイル・フィリア「・・・」
ロドス「危険を冒して今帰るもよし、
今晩は泊まり朝一に帰るもよし。
私はどちらでも構いませんが、
いかがなさいますか?」
フィリア「シャ、シャイル~・・」
不安そうに呼びかけるフィリア。
シャイル「・・もしあなたの
おっしゃる通りなら、
私の判断だけで
眠っている二人に
危険を冒させる訳に
いきません・・
ですので・・
今晩はお言葉に甘えて
泊まらせていただき、
明日の朝一番に帰らせて
いただくことにします・・」
フィリア「シャイル・・」
ロドス「そうですか!
ええ、
それが正解ですとも。
ご理解いただけて良かった」
微笑みながら嬉しそうに言うロドス。
シャイル「はい・・
今晩はお世話になります」
ロドス「ええ、ごゆっくりと
お寛ぎください。
それでは、
何か必要なものは
ございますでしょうか?
皆様お泊りのおつもりでは
なかったでしょうから、
無いと不便なものが
お有りでしたら
お申し付けください」
シャイル「・・ありがとうございます」
ロドス「もしよろしければ、
お風呂はいかがですかな?
温かいお湯に浸かれば
疲れも取れますし、
よく眠れますよ?」
シャイル「いえ、
お心遣いはありがたいですが、
結構です。
明け方まで数時間
休ませていただいたら
帰りますので」
フィリア「はい」
ロドス「そうですか、
分かりました。
・・そう言えば、
お二人共お食事中は
料理を何も口に
されていませんでしたが、
お腹は空いておりませんか?
よろしければ
何かお持ちいたしますが?」
フィリア・シャイル「!」
シャイル「いっ、いいえ、
大丈夫です。
もう時間も遅いですし、
今晩はこのまま
休ませていただきます。
ロドスさんも私達に構わず
お休みください。
私達の為に色々と
準備して下さり
お疲れでしょうから・・」
フィリア「はい、
僕達は大丈夫です。
ありがとうございます」
ロドス「そうですか・・
承知いたしました。
それではゆっくりと
お休みください。
お二人共
デフィー様とリアム様のことが
ご心配かもしれませんが、
疲れを取る為にも
ご自分の部屋に戻られて
ベッドで休まれた方が
良いですよ」
シャイル「はい・・
もう少ししたら
そうさせていただきます」
フィリア「お気遣い
ありがとうございます」
ロドス「フフッ。
では何か御用が有りましたら、
遠慮無くお声掛け下さい。
それでは皆様、
良い夜を・・」
ロドスは満面の笑みを浮かべてそう言うと、
デフィーの部屋を出て静かにドアを閉じ、
下の階へと降りて行きました。
ロドスの足音が聞こえなくなるのを待つ、
フィリアとシャイル。
フィリア「・・うん、大丈夫。
もう近くには
居ないみたいだよ」
シャイル「そうか・・
ふぅ~・・
ごめんよフィリアちゃん、
私も本当はすぐにでも
この屋敷から
帰りたかったんだけど・・」
フィリア「ううん、
仕方ないよ。
今から帰ることで
危険な目に遭うかも
しれないんだから。
僕とシャイルだけでも
危なそうなのに、
眠っていて動けない
デフィーやリアムさんが
そんな目に遭うようなことは
僕もさせたくないし・・」
シャイル「ああ・・
そうだね・・
まぁ、ロドスさんの話は
本当か嘘か
分からないけどね・・」
フィリア「?」
シャイル「それにその話を
聞いた上でも
私達が今から帰ることを
選択していたとして、
これまでの経緯と
ロドスさんの様子を見るに
無事に帰して
もらえたかどうか・・」
フィリア「?・・
どういうことなの?」
シャイル「・・これでやっと
分かったじゃないか?
デフィーちゃんと
リアムさんが
眠ってしまった理由が」
フィリア「えっ!?」
シャイル「私達を
帰らせないようにして、
この屋敷に留まらせる為さ。
その為にこの屋敷の人間が
二人を眠らせたに
違いないよ!」
フィリア「・・・
シャイル・・
確かに一見
筋は通っているようだけど、
そうと決まった訳じゃ・・」
シャイル「フィリアちゃん・・
この屋敷の人達を
疑いたくない気持ちは
分かるよ・・
でも、
四人の内の二人が
突然謎の眠気に襲われて、
それが屋敷の食事を
食べた二人だけ。
更にその食事を出した本人が
もっともらしい理由をつけ、
私達に帰ることを躊躇させて
屋敷に泊まることを勧める・・
これはもうすべて
繋がっているとしか・・」
フィリア「で、でも、
デフィーとリアムさんの眠気は
本当に偶然で、
その様子を見たロドスさんも
本当に善意から屋敷に留まることを
勧めてくれたのかも
しれないじゃない?」
シャイル「・・フィリアちゃん、
私がこの屋敷の人間を
疑う理由は、
それだけじゃないんだ・・」
フィリア「えっ?」
シャイルは周りを警戒し、
フィリアにのみ聞こえる声で
その理由を伝えます。
フィリア「!!・・
そ、そうだったの?
でも・・それなら・・」
シャイル「ああ、
最初は気のせいかと
思っていたんだ・・
でも何度も耳にする内に
確信に変わってね・・」
フィリア「・・・
あのね、シャイル・・
色々有ったから
言いそびれちゃって、
本当はもっと早く
皆にも伝えて
おきたかったんだけど、
僕もずっと
気になっていたことが
有るんだ・・」
シャイル「?
何だい?フィリアちゃん」
フィリアも周りを警戒し、
シャイルにのみ聞こえる声で
そのことを伝えます。
シャイル「!?
そ、そうなのかい?
フィリアちゃん」
フィリア「うん・・
間違いないよ・・」
シャイル「そうか・・
でもこれで疑惑が
確信に変わったね」
フィリア「・・・」
シャイル「やはりこの屋敷の人間が
怪しいと言うことが・・」
フィリア「・・でも、
どうして?
何の為にデフィーと
リアムさんに
こんな酷いことをしてまで、
僕達をこのお屋敷に
留まらせたの?」
シャイル「それはまだ分からない・・
でもその理由にこそ
私達を今晩この屋敷に
招待した本当の答えが
有ると思うんだ」
フィリア「・・・」
シャイル「そして、
ここまでしたからには、
今晩この屋敷の中で
何かを仕掛けてくるに
違いないよ・・」
フィリア「!・・
ど、どうしようシャイル?・・」
不安そうに尋ねるフィリア。
シャイル「落ち着いて、
フィリアちゃん。
ここで私達が
動揺してしまったら、
その何かが
起こってしまった時に
対処出来なくなってしまう」
フィリア「う、うん・・」
何とか気持ちを
落ち着けようとするフィリア。
シャイルは少し俯き、
何かを考えている様子です。
そして大きなため息を一つつくと、
決意した表情をします。
シャイル「・・こうなってしまった以上、
やるしかないね・・
フィリアちゃん、
私に考えが有るんだ。
力を貸してくれないかい?」
シャイルからの強い意志を
感じ取るフィリア。
フィリア「うん!」
シャイルは周りを警戒しながら、
フィリアにのみ聞こえる声で
自分の考えを話します。
幸せになりたいエルフの冒険
第九話エルフと吸血鬼
第五部につづきます。