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一挙版 幸せになりたいエルフの冒険 第十一話 エルフと願いを叶える実 前編

エルフの女の子デフィーは、
ダークエルフの女の子フィリア、
人間の女性で作家のシャイルと一緒に、
幸せを探して旅をしています。

この日も朝早くから
出発したデフィー達は、
深い森の中を歩いていました。
日没の時間が近づいていたので、
宿を取る為に
最寄りの町を目指しています。

辺りが少しずつ暗くなる中、
無事に森を抜けて
町に到着したデフィー達。
一安心したのも束の間、
町一帯を濃い霧が覆っていました。

初めて訪れる町で
宿屋を探すデフィー達ですが、
町中を覆う霧はとても濃く、
デフィーはフィリアとシャイルを
見失ってしまいます。

その場に立ち止まり
辺りを見渡すデフィーですが、
二人の姿は有りません。

デフィーは周囲に聞こえる声で
フィリアとシャイルの名を
何度か呼びますが、
二人からの返事は帰って来ません。

デフィー「どうしましょう・・
     はぐれてしまったみたいだわ。
     二人共近くには
     居ないみたいだし・・」

デフィーは何度も
周りを見渡しますが、
見えるのは自分を包み込んでいる
濃い霧ばかりで、
周囲の景色さえも見えない状況です。

デフィー「早く二人を見つけないと!
     ・・でも、
     この霧じゃ身動きが
     取れないわ・・」

濃霧の中で一人
立ちすくんでしまうデフィー。
その時、
背後の霧の中から
女性の声が聞こえました。

女性「どうされました?
   何かお困りですか?」

デフィー「えっ!?」

声のした方を向き、
霧の中を見渡すデフィー。
しかし声の主の姿は見当たりません。

デフィー「あっ、あのっ、
     どなたですか?
     申し訳ありませんが、
     霧が濃くて姿が見えなくて・・」

女性「少しお待ちください。
   今そちらに向かいますから」

デフィーが
声の聞こえた方を見ていると、
霧の中にうっすらと
人影が見えてきました。
その人影は少しずつ濃くなり、
デフィーの目の前に
ローブ姿の人物が現れます。

女性「急に声を掛けてしまい
   ごめんなさい、
   お困りのようだったから」

デフィーは相手の姿を
確認しようとしますが、
目の前は霧がかかっている上に、
相手はローブ姿で
フードを被っているので、
顔や体形を確認することは出来ません。
聞こえた声から察するに
若い女性のようです。

デフィー「は、はい・・
     実は初めてこの町に
     来たばかりなのですが、
     この霧の中で
     一緒に居た友達と
     はぐれてしまって・・」

女性「そうでしたか・・
   この霧の濃さですからね、
   はぐれてしまうのも
   無理はありませんね・・」

デフィー「はい・・」

言葉にしたことで
改めて自分の置かれた状況を
理解したデフィーは、
不安が少しずつ大きくなってしまいます。

女性「でも、大丈夫ですよ。
   この町はそんなに大きな
   町ではありません。
   ですので、
   霧が晴れたらすぐにでも
   お友達と再会出来ますよ」

デフィー「そ、そうですか、
     ありがとうございます。
     お姉さんは
     この町の方なんですか?」

女性「ええ、そうですよ。
   私はこの町で
   占い師をしている
   ルフトシュと申します。
   以後お見知りおきを」

デフィー「あっ、
     自己紹介が遅れました。
     デフィーです」

ルフトシュ「デフィーさん、
      とても良いお名前ですね」

デフィー「あ、ありがとうございます」

不安な気持ちでいっぱいな最中、
名前を褒めてもらったことで
少し笑顔になるデフィー。

ルフトシュ「ねぇ、デフィーさん、
      この霧はまだ晴れそうにないわ」

辺りを見渡すデフィー。

デフィー「・・そのようですね」

ルフトシュ「今すぐにでも
      はぐれてしまったお友達を、
      探したいでしょうけど、
      ここまで視界の効かない
      霧の中を動き回るのは危険だわ。
      だからね、
      今はこの場所から
      動かない方がいいと思うの」

デフィー「・・そう・・ですね」

本当はすぐにでも
フィリアとシャイルに会いたいのに、
探しに行くことが出来ない
もどかしい気持ちが、
デフィーの中に溢れてきます。
そのせいで
デフィーの不安な気持ちは
更に大きくなっていきます。

ルフトシュ「デフィーさん、
      私ね、思うの」

デフィー「はい?」

ルフトシュ「ここでこうして
      あなたと私が出合えたのは、
      運命なんだって」

デフィー「えっ?」

ルフトシュ「私にはね、分かるの。
      あなたが迷いや不安、
      悩みに憤り・・
      様々な問題を抱えていることが」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「そんなあなたが、
      占い師の私の前に現れた・・
      迷えるあなたは
      私に解決策を望み、
      私はその解決策を
      あなたに授けることが出来る・・

      お互いに求める者同士が
      引き寄せられたのよ・・」

ルフトシュの言葉に戸惑ってしまうデフィー。

ルフトシュ「だからね、デフィーさん。
      この霧が晴れるまでの間、
      私があなたのことを
      占ってあげましょうか?」

デフィー「えっ?
     う、占い・・ですか?・・」

ルフトシュ「そうよ、占い。
      私の持つ特別な力・・
      あなたはその力を
      求めているはずよ?・・」

デフィー「・・私が、
     占いの力を・・
     求めている?・・」

ルフトシュ「ええ。
      今のあなたは多くの問題を
      抱えているわよね?
      自分でも
      気がついているでしょう?」

デフィー「は・・はい・・」

戸惑いながらもそう答えるデフィー。

ルフトシュ「私の占いの力は、
      今の貴方のような人の為に
      有るのよ?」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「私の占いの力を使えば、
      あなたが抱えている問題を
      解決する手助けになるはずよ?」

デフィー「で、でも・・」

ルフトシュ「フフッ、
      遠慮ならいらないわ。
      それにお代も結構よ。
      この出会いは必然、
      こうすることは
      運命なのだから・・」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「デフィーさん・・
      あなたには
      探しているものが
      有るんでしょう?」

デフィー「!?」

自分が幸せを探して旅をしていることを
言い当てられたと思い、
驚いてしまうデフィー。

デフィー「な、何故分かったんですか?」

ルフトシュ「やはり、
      そうなんでしょう?
      あなたが私の
      占いを受ければ、
      抱えている問題も
      解決するし、
      探しているものにも
      近づけるはずよ?」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「フフッ・・」

故郷の森から遠く離れた
初めて訪れる町で、
フィリアとシャイルとはぐれて
一人ぼっちになってしまったこと。

もうすぐ日が暮れようとしているのに、
辺りを濃い霧が覆い身動きが取れず、
フィリア達を探せないこと。

占い師のルフトシュとの突然の出会い。

自分が探し物をしていることを、
ルフトシュが言い当てたこと。

ルフトシュの占いを受ければ、
抱えている悩みは解決し、
探し物にも近づけると言われたこと。

一日中歩き続けた旅の疲れに加え、
短時間の間に起きた
いくつもの状況の変化、
更にそのことによる
不安、迷い、憤り、驚き、戸惑いなどの
多くの感情を一度に抱え込むことに
なってしまったデフィーは、
混乱して考えをまとめることが
出来ませんでした。

ルフトシュ「やはり、
      あなたには多くの迷いが
      有るようね?」

ルフトシュの問いかけにハッとするデフィー。

ルフトシュ「フフッ、いいのよ。
      あなたが望まないのなら、
      私は強制はしないわ」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「私達が出会ったのは運命・・
      そしてあなたが
      占いを受けるのも運命、
      受けないのも運命・・

      さぁ、
      あなたの運命、
      あなたはどうするのかしら?」

デフィー「うっ・・」

考えをまとめることが出来ず
不安な状態な上に、
急な選択を迫られたデフィーは、
益々迷ってしまいます。

ルフトシュ「デフィーさん?」

デフィー「は、はい」

ルフトシュ「今の貴方は、
      不安と迷いに
      押し潰されそうに
      なっているわね?
      それはとても辛いことよね?
      苦しいことよね?」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「自分の運命は
      自分で決めなくてはならない・・
      でもね、
      良いのよ、
      時には人を頼っても」

その言葉を聞いたデフィーは、
益々迷ってしまいます。

ルフトシュ「占いには
      特別な力が有るの。
      その力を使えば
      人々が抱える
      悩みや不安を解決し、
      迷いを断ち切り、
      救ってあげることが
      出来るわ。

      それは誰かの
      役に立てると言うこと。
      私はね、
      人の役に立ちたいの・・
      だから私の占いの力で
      誰かが救われ、
      助けることが出来るのなら、
      こんなに嬉しいことはないと
      思っているのよ・・」

デフィー「ルフトシュさん・・」

ルフトシュ「でもね、デフィーさん」

デフィー「?」

ルフトシュ「いかに素晴らしい力でも、
      それを強制することは
      私には出来ないわ・・

      何より今、
      私がその力を
      使おうとしていることで、
      あなたに新たな迷いと不安が
      生じてしまっている・・

      助けたいと思っているあなたを、
      かえって苦しませて
      しまっているわ・・」

デフィー「そ、そんなことは・・」

否定しようとするも
言葉に詰まってしまうデフィー。

ルフトシュ「・・それは、
      私の望むことではないわ・・

      私には今のあなたの
      不安や迷いが
      手に取るように分かる・・
      でも、
      そんな状態のあなたに対して
      急いで判断を迫るようなことを、
      するべきではなかったわね・・
      ごめんなさい」

デフィー「い、いえ・・」

自分の曖昧な態度のせいで
ルフトシュを謝罪させてしまったことに、
戸惑いながらそう答えるデフィー。

ルフトシュ「でもね、デフィーさん。
      あなたの力になりたいこと、
      あなたを助けてあげたいことに
      変わりは無いのよ。
      だってこれは運命なんだから・・」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「それでね、
      今からあなたに
      特別な果実をあげるわ」

ルフトシュはローブの胸元に
右手を入れると、
木の実を一つ取り出しました。

それは、
大きさと形がリンゴに似た
金色の果実で、
輝きを放っているように見えました。

デフィー「?・・
     これは・・
     リンゴ?ですか・・」

ルフトシュ「フフフッ、
      確かに見た目はリンゴに
      似ているわね。
      でも違うのよ、
      この綺麗な果実は
     『アギベデの実』と言うの」

デフィー「・・アギベデの実・・
     ですか?」

ルフトシュ「ええ、そうよ。
      この実はね、
      とても不思議な実なのよ」

デフィー「?
     どう・・不思議なんですか?」

ルフトシュ「この実を
      食べた者の願いを
      叶えてくれるのよ」

デフィー「えっ!?
     そっ、そうなんですか?
     すごいです!」

ルフトシュ「フフフッ、
      そうでしょう?」

デフィー「はい!」

ルフトシュ「でもね、
      願いを叶える為には
      いくつかの条件が有るの」

デフィー「条件・・ですか?」

ルフトシュ「ええ、そうよ。
      安心して、
      どれも難しいことではないわ」

ルフトシュは右手に持った
アギベデの実を、
見やすいようにデフィーの目の高さまで
持ち上げます。

ルフトシュ「条件は全部で三つ有るのよ。

      まず一つ目、
      このアギベデの実を食べる前に、
      自分が叶えたい願いを
      強く思うこと。

      そして二つ目は、
      この実をすべて
      一人で食べ切ること。

      最後の三つ目は、
      実を食べて浮かんだ
      インスピレーションに従い、
      そのことを必ず実行すること」

デフィー「・・・」

ルフトシュ「・・どう?
      どれも簡単なことでしょう?」

デフィー「は、はい・・」

ルフトシュ「でもね、
      今言った条件の内の
      どれか一つでも
      欠けてしまうと、
      願いが叶うことはないわ。
      だから注意してね」

デフィー「・・・」

ルフトシュはアギベデの実を
デフィーに差し出します。

デフィーは差し出された実を
反射的に受け取ります。
そしてアギベデの実を両手で
大事そうに持ちながら、
その実が放つ輝きに酔い痴れるように
じっくりと見つめます。

その様子を笑顔で見ているルフトシュ。

ルフトシュ「フフッ、
      そろそろ霧が晴れそうね」

デフィー「えっ?」

少しの間
アギベデの実に心を奪われていたデフィーは、
ルフトシュの声で我に返ります。

ルフトシュ「これであなたは大丈夫。
      私の役目は終わったわ、
      だからもう行くわね・・」

デフィー「あっ!あのっ、
     この実が
     今のお話通りのものなら、
     そんな貴重な物を
     いただく訳にはいきません」

ルフトシュ「いいのよ、
      言ったでしょう?
      これは運命だって」

デフィー「で、でも」

ルフトシュ「こうすることが
      私の運命なの。
      私は運命に従い
      アギベデの実をあなたに託したわ。

      その実をどうするか、
      それはあなたの運命。
      あなたが決めることよ」

急な展開に戸惑うデフィー。

ルフトシュ「それじゃあデフィーさん、
      その実をあなたが
      どう使うのか、
      遠くから見守らせてもらうわよ」

デフィー「えっ?
     あっ!」

ルフトシュは霧の中へと
静かに消えて行きます。

デフィー「まっ!待ってください!
     ルフトシュさん!」

デフィーは呼び止めますが、
ルフトシュは答えることも
姿を現すことも有りません。

デフィー「ルフトシュさん!
     ・・・」

ルフトシュから手渡された
アギベデの実を両手で持ったまま、
霧の中で一人その場に
立ち尽くしてしまうデフィー。

デフィー「・・困ったわ・・
     どうしたら良いの?・・」

デフィーの答えも待たずに、
一方的にアギベデの実を手渡して
去ってしまったルフトシュ。
デフィーは戸惑ってしまいますが、
同時に今まで町を覆っていた濃霧が
薄くなっていくのを感じます。

デフィー「あっ、霧が・・」

それから数分も経たない内に、
周囲を見渡すことさえ出来ない程
濃かった霧は、
嘘の様にすべて晴れてしまいました。

デフィーが霧の中で迷っている間に、
すっかり日は暮れてしまい、
辺りは暗くなっていました。

デフィー「大変!もう真っ暗だわ。
     早くフィリアと
     シャイルさんを見つけないと!」

デフィーは持っていたアギベデの実を
一先ずリュックの中に入れると、
フィリア達を探す為
来たであろう道を戻ろうとします。

その時デフィーの耳に、
デフィーの名を呼ぶ
フィリアとシャイルの声が聞こえました。

その後すぐに
フィリア達と再会できたデフィーは、
日が暮れてしまい暗くなった町の中で
急いで宿を探し、
無事に泊まることが出来ました。

濃霧で迷ってしまったことも有り、
宿に到着した時間が
遅くなってしまったので、
既に宿の夕ご飯の時間になっていました。

デフィー達はチェックインを済ませると、
部屋に荷物を置いて
すぐに食堂に向かいます。

食堂に入ると、
冴えない見た目の疲れ切った
中年の男性客が一人、
テーブル席に着いて
食事をしているだけで、
他の客は見当たりませんでした。

デフィー達が男性客に挨拶をすると、
男性客は微笑みながら笑顔で返しました。

空いているテーブル席に
デフィー達が着くと、
宿の食堂係が料理を運んできます。
三人は旅の疲れを癒しながら、
料理を堪能します。

フィリア「わ~!
     おいしいね」

シャイル「そうだね、
     疲れ切った体に
     美味しい料理が
     染み渡るよ」

デフィー「はい」

フィリア「今日もい~っぱい
     歩いたからね」

シャイル「ああ、
     それにさっきの霧さ。
     初めて訪れた町で
     しかも時間は夕刻、
     急いで宿を探さないと
     いけないのに、
     あんなに濃い霧に行く手を
     阻まれてしまうなんてね。
     本当に参ってしまったよ」

フィリア「うん、
     それにデフィーとは
     はぐれちゃうし、
     僕もう心配で心配で・・」

シャイル「そうだったね・・」

デフィー「二人共ごめんなさい、
     先程はご心配おかけしました」

シャイル「ううん、
     謝らなくていいよ。
     あの濃い霧の中じゃ、
     はぐれてしまっても
     仕方なかったしね」

フィリア「うん」

デフィー「・・不思議なんです、
     霧が濃いのは
     分かっていたから、
     はぐれないように気を付けて
     ずっと二人の傍に
     居たはずだったのに、
     急に二人の姿が
     見えなくなって
     しまったんです・・」

フィリア「・・そうだったね、
     はぐれないように
     皆で注意しながら
     一緒に居たのに、
     気がついたら
     デフィーの姿が
     見えなくなっていたんだ」

シャイル「ああ、
     ずっと傍に居たはず
     だったのにね・・」

デフィー「そういえば、
     はぐれたことに
     気がついてからすぐに
     二人の名前を
     大きな声で呼んだんですが、
     聞こえませんでしたか?」

シャイル「そうだったのかい?
     すまなかったね、
     全然聞こえなかったよ・・」

デフィー「そうでしたか・・」

フィリア「うん、
     デフィーの声は聞こえなかったよ。
     それに僕達もデフィーの名前を
     霧の中で何度も呼んだんだよ」

デフィー「えっ?
     そうなの?」

フィリア「うん。
     だけどデフィーの返事は
     聞こえなくて・・」

デフィー「ごめんなさい、
     聞こえなかったわ・・

     それも不思議ですね、
     はぐれてすぐだったから
     まだお互い近くに
     居ると思ったんですけど、
     呼び合う声がお互いに
     聞こえなかったなんて・・」

シャイル「・・確かに」

フィリア「・・うん」

デフィー「霧で見えなかったけど、
     実際には声も聞こえない程
     離れていたのかしら?・・」

シャイル「う~ん・・
     お互いに近くに居たのなら、
     呼び合う声が
     聞こえていたはずだからね。
     もしかしたら霧の中で
     歩いている内に、
     距離が離れてしまって
     いたのかもね・・」

フィリア「うん・・
     呼んでも返事が無かったから、
     デフィーはもう近くに
     居ないのかと思ったんだ。
     それですぐに探そうと
     したんだけど・・」

シャイル「ああ。でも、
     あの霧に阻まれて
     身動きが取れなくてね・・」

デフィー「私も同じ状況でした」

シャイル「そうか・・
     お互い大変だったね。
     本当に、
     こうして無事に
     会うことが出来て良かったよ」

フィリア「うん!」

デフィー「はい。
     私・・
     二人が居なくて
     とても心細く
     なってしまって・・
     だから霧が晴れた後に
     フィリアとシャイルさんの顔を
     見れた時は、
     とっても嬉しくなって
     心の底からホッとしました」

フィリア「僕達もだよ」

シャイル「うん」

宿の料理は美味しく空腹も手伝い、
デフィー達はあっという間に
料理を完食しました。

そして食後に食休みも兼ねて、
デフィーとフィリアは温かいお茶を、
シャイルはホットコーヒーを飲みながら
少しの間食堂で話を続けます。

シャイル「それでデフィーちゃん、」

デフィー「はい?」

シャイル「さっきデフィーちゃんと
     合流出来た時は、
     急いで宿を探さないと
     いけなかったから
     詳しく聞けなかったけど、
     霧の中で出会ったと言う
     占い師の女性の話を、
     聞かせてもらえないかな?」

フィリア「あっ、
     デフィーと会えた時に
     言ってた話だね?
     僕も聞きたかったんだ」

デフィー「はい、
     私も是非二人に
     聞いて貰いたくて。
     何だか不思議な
     出来事だったので・・」

デフィーは霧の中で出会った
ルフトシュとのやり取りや、
受け取ったアギベデの実のことを、
フィリアとシャイルに話します。


シャイル「・・なるほどね」

フィリア「・・僕達が居ない時に
     そんなことが
     起こっていたんだね」

シャイル「・・しかし、
     失礼だけど
     そのアギベデの実とやら、
     何とも如何わしいねぇ」

フィリア「う、う~ん、
     でももし本当に
     願い事が叶うなら
     すごい実じゃない?」

デフィー「私もそう思います。
     あっ、ちょっと
     待っていてください。
     今部屋から持ってきますから」

     デフィーはそう言うと
     一度部屋に戻り、
     リュックに入れてあった
     アギベデの実を持って
     食堂に戻ってきます。

     そしてデフィーがアギベデの実を
     自分達のテーブルの上に置くと、
     フィリアとシャイルは
     不思議そうな眼差しで
     実を見つめます。

フィリア「・・これが
     そのアギベデの実なの?」

デフィー「ええ」

シャイル「・・・
     金色?・・に輝く実か・・。
     何だか不思議な
     雰囲気が有るね」

デフィー「はい」

フィリア「だね」

シャイル「形や大きさは
     リンゴに似ているけど、
     こんな色のリンゴは
     見たことが無いよ・・」

フィリア「僕もだよ。
     それはやっぱり、
     この実がリンゴじゃなくて
     アギベデの実だから
     じゃないかな?」

シャイル「う~ん・・
     でもそんな名前の果実は、
     今までに見たことも
     聞いたことも
     無いけどなぁ・・
     因みに二人は
     有るのかい?」

フィリア「ううん、
     僕も同じさ、
     見るのも聞くのも
     初めてだよ」

デフィー「私もです。
     名前を聞いたのも
     目にしたのも
     今日が初めてです」

シャイル「・・・」

怪訝そうな表情をするシャル。

フィリア「どうしたのシャイル?」

デフィー「?」

シャイル「う~ん、
     やっぱりどうもねぇ・・
     いや、デフィーちゃんを
     疑う訳ではないんだよ。
     ただ、
     アギベデの実なんて
     果実が実在するのかなって
     思ってしまってね。

     人間の私が知らないだけ
     かと思いきや、
     別の種族で
     私より長く生きている二人も
     知らないと言うじゃないか。

     それに、
     リンゴに似たこの見た目さ。
     だけどリンゴそっくりなのに、
     見たことも無い色で
     不自然なまでに
     輝きを放っている。

     そのことが
     市場に出回らない
     珍しい品種か、
     或いは色を細工しただけの
     リンゴなだけなんじゃ
     ないかと思わせる・・

     そして何より、
     この実を食べただけで
     願いが叶うと言う話。
     どれをとっても
     疑わしいんだよね・・」

フィリア「もう、シャイルは
     夢が無いなぁ」

シャイル「うっ、
     げ、現実的と言っておくれ」

フィリア「確かに僕達も
     この実のことは
     知らなかったけど、
     世界は広いんだよ。
     そんな実が有っても
     不思議じゃないし、
     有るかもって思った方が
     面白いじゃない?」

シャイル「それは、
     そうかもしれないけど・・」

静かに二人のやり取りを見守るデフィー。

シャイル「・・すまない。
     この実の話が
     真実であろうとなかろうと、
     願いを叶えるアイテムと
     言った類の物には
     あまり良い印象が無くてね」

デフィー・フィリア「?」

フィリア「何でなの?」

シャイル「また本の話に
     なってしまって
     申し訳ないけど、
     いくつかの物語の中にも
     今聞いたこの果実のような
     願いを叶えると言うアイテムが
     出てくる話が有るんだよ。

     でもね、
     そういった話は大抵
     ハッピーエンドにならないことが
     多いんだ」

フィリア「えっ?
     どうしてなの?」

デフィー「願い事を叶えてくれる
     アイテムが出てくる物語なら、
     その物語に登場する人達は
     願いを叶えることが出来て、
     良い結末になるのでは
     ないんですか?」

フィリア「うん」

シャイル「いや、
     それがそうでもないのさ。
     と言うのも、
     そう言った物語には
     争いや偽り、代償や不幸が
     つき纏うからなのさ。
     その結果
     あまり良い結末を
     迎えないんだよ・・」

フィリア「・・具体的に
     どうなっちゃうの?」

シャイル「うん・・
     人間や、
     他の種族もだろうけど、
     生きていれば
     誰しも願いや望みを
     持っているものだと思うんだ。
     そしてそれを叶えたいとも
     思っているはずさ」

フィリア「・・うん」

デフィー「・・ですね」

シャイル「その願い事は、
     人によって大きさや強さも
     色々有るし、
     簡単に叶えられる願いも有れば、
     反対に叶え難い願いも
     有ると思うんだ」

頷くデフィーとフィリア。

シャイル「つまり、
     世に存在する者達の大半が
     叶えたい願いを持ちながら
     生きていることになる。

     その中には
     自力で叶えることが
     困難な願いを持つ者達、
     或いは自力で叶う願いでも
     楽をして叶えたい者達が
     共存している。

     そんな世の中に、
     願いを叶えてくれる
     アイテムなんて物が、
     存在したらどうなると思う?

     叶えたい願いを
     持つ者達の多くは、
     そのアイテムを欲することに
     なるだろう?」

フィリア「そう・・だね、
     だって願いを
     叶えられるんだからね」

デフィー「ええ・・」

シャイル「そのアイテムが
     願い事を持つ者達
     すべての願いを
     叶えてくれるかと言うと、
     そんなことは決して無い・・
     叶えられる願いには
     限りが有るんだ。

     そうなると
     願い事を持つ者達は、
     自分の願いを優先的に
     叶えようとする為、
     そのアイテムを廻って争いが
     起こってしまうことになるんだ・・」

フィリア「ああ・・」

デフィー「・・・」

シャイル「その争いの中で、
     願いを叶えるアイテムを
     手に入れる為に嘘をつく者。
     或いは
     願いを叶えると言う効能を
     謳う偽物を使い、
     別の何かを手に入れる為に
     嘘をつく者が出てくる・・」

デフィー・フィリア「・・・」

シャイル「争いの末に幸運にも
     願いを叶えるアイテムを
     手に入れることが出来、
     そして自分の願い事を
     叶えられる者も居るんだけど、
     そこにもまた
     問題が有るのさ・・」

デフィー・フィリア「?」

デフィー「願い事を
     叶えられたのに、
     問題が有るんですか?」

シャイル「そうさ」

フィリア「どんな問題なの?」

シャイル「新しい何かを
     得ると言うことは、
     今持っている何かを
     失うと言うことになる・・

     願いを叶えるアイテムが、
     叶えた願い事に相応の代償を
     求める場合が有るんだよ・・

     そしてその代償は、
     願い事が大きくて困難なほど
     大きくなる・・」

デフィー・フィリア「・・・」

シャイル「それだけじゃない・・
     そんな思いまでして
     叶えた願いが、
     自分が本当に望むものでは
     なかったことが、
     願いを叶え
     その代償を払った後に
     分かることもあるんだ・・」

デフィー・フィリア「!?」

シャイル「そうなってしまったら
     どうだい?
     争い、偽りを繰り広げ、
     やっとのことで
     願いを叶えることが出来ても、
     代わりに多くの物を失い、
     更には叶えた願い事が、
     自分が本当に望むものでは
     なかったとしたら・・
     それは
     とても良い結末とは
     言えないんじゃないかな?

     こんなことになるなら、
     願いなんて
     叶えなければよかった。
     そうなる原因となった
     願いを叶えるアイテムなんて、
     端から存在しない方が良かった。
     なんてことにも
     なりかねないよね?・・」

デフィー・フィリア「・・・」

シャイル「まぁ、
     そういった結末を迎える
     物語の多くは、
     人間が戒めや教訓の為に
     書いたものが多いからね。

     必ずしもすべてが
     今話したような結末を
     迎える訳ではないとは思う。
     だけど、
     それでもやっぱり
     願いを叶えると言った
     アイテムの類を、
     私は好きに
     なれないんだよね・・」

シャイルの話を聞き、
すっかり意気消沈してしまう
デフィーとフィリア。

その様子に気がつくシャイル。

シャイル「すまない二人共・・
     場の空気を悪く
     してしまったね・・

     今話したことは、
     あくまで一部の
     物語の中の話だし、
     その感想についても
     私が勝手に
     そう思っているだけさ。

     だから目の前に有る
     この果実とは
     関係の無いことだからね・・」

フィリア「・・そ、そうだよね」

デフィー「・・・
     でも、
     今シャイルさんが
     してくれた話にも
     一理有ると思います。
     
     私、成り行きで
     この実を受け取って
     しまったものの、
     どうしたら良いのか
     迷っていたんです・・」

フィリア・シャイル「・・・」

デフィー「フィリア、
     シャイルさん。
     私、どうしたら
     良いんでしょうか?」

フィリア「う、う~ん・・」

シャイル「そうだね・・
     この実を貰ったのは
     デフィーちゃんだから、
     デフィーちゃんが
     思うようにしたら
     良いと思うんだけど・・
     それが分からないんだよね?・・」

デフィー「はい・・」

シャイル「・・それなら、
     敢えて私の考えを
     言わせてもらうよ」

デフィー「はい、お願いします」

シャイル「うん・・
     今話したように、
     願いを叶えると言った
     類の物に
     良い印象が無い私としては、
     その果実の効果が
     本物にせよ、
     そうじゃないにせよ、
     デフィーちゃんが
     その果実を使うことには
     正直反対かな」

フィリア「シャイル・・」

デフィー「シャイルさん・・」

シャイル「デフィーちゃん、
     すまないね・・」

デフィー「い、いえ。
     ・・フィリアはどう思う?」

フィリア「えっ?
     ぼ、僕は・・」

デフィー「うん」

フィリア「・・ごめんよ、
     デフィー。
     僕も反対なんだ・・」

デフィー「えっ?」

フィリア「その実をどうするかは、
     貰ったデフィーの好きに
     したらいいと思うのは
     シャイルと同じ意見だよ。

     でもね、
     もしデフィーが
     使うことを選んだのなら、
     その実の効果が本物にせよ、
     偽物にせよ、
     僕は不安で仕方がないんだ・・

     だから出来ることなら
     デフィーには、
     その実を使ってほしくないと
     思っちゃっているんだ・・
     ごめんよ・・」

デフィー「フィリア・・」

フィリア「デフィー・・
     僕達が今こうして
     旅をしているのは、
     幸せを探す為だよね?」

デフィー「ええ」

フィリア「もしかしたら
     その実の力が本物で、
     幸せを願うことで
     君の願いが叶い、
     幸せになれるかもしれない・・」

デフィー「・・・」

フィリア「幸せになる為に
     旅に出たんだから、
     可能性が有るのなら
     試してみるべきなのは
     分かっているんだ・・

     でも、
     それが分かった上でも
     不安なんだ。
     君がその実を使うことが・・」

デフィー「フィリア・・」

フィリア「その実を使えば、
     もしかしたら
     幸せになれるかもしれない。
     でも、
     代わりに何かを失って
     しまうかもしれない・・

     何より、
     その実が本当に
     願いを叶える実なのか
     どうかは確証が無い・・

     怖いんだ・・
     君の身に何か良くないことが
     起きてしまうかも
     知れないことが・・」

デフィー「・・・」

二人のやり取りを見守るシャイル。

フィリア「ごめんよ、
     デフィー・・
     せっかく幸せを手に入れる
     チャンスなのかも
     しれないのに、
     こんなことを言ってしまって・・

     だけどね、
     君がその実を
     使うことに反対なのは、
     僕の勝手な思いだ。
     だからもし君が
     その実を使いたいと
     思うのなら、
     僕やシャイルの意見に
     構わず使うべきさ」

シャイル「うん」

頷くシャイル。

デフィー「・・・」

デフィー達は押し黙り、
数秒ほど無言の時間が続きます。

デフィー「・・私、決めたわ」

フィリア・シャイル「・・」

デフィー「この実は
     使わないことにするわ」

フィリア・シャイル「!」

フィリア「えっ、でも・・」

シャイル「・・・」

フィリア「ごめんよ、
     僕のせいだね・・」

シャイル「いや、
     私があんな話を
     してしまったから・・」

デフィー「いいえ、
     違うんです二人共。
     この実を手渡されてから、
     ずっと迷っていたけど、
     どちらかと言うと
     使う気にはなれないでいたの」

フィリア「そうなの?」

デフィー「ええ」

シャイル「何故なんだい?」

デフィー「このアギベデの実のが
     ルフトシュさんの言う通り、
     本当に願いが叶う果実
     だったとして、
     それでこの実を食べて
     幸せになれたとしても、
     それは本当の幸せでは
     ないんじゃないかって
     思うんです」

フィリア「?
     どうしてなの?」

デフィー「だって、
     その幸せは
     自分の力で手に入れた
     幸せではないから」

その言葉を聞き、
納得する様子のフィリアとシャイル。

デフィー「それに、
     ルフトシュさんは
     言っていました。
     願い事は強く思わなければ
     叶わないと・・

     私は自分の望む幸せが
     まだどんなものなのか
     分かりません・・
     だからそれを強く思うことは
     出来ないと思うんです。

     もし仮にこの実を
     食べたとしても、
     幸せになりたいと言う願いを
     叶えることが出来ない
     かもしれません」

フィリア「デフィー・・」

シャイル「デフィーちゃん・・」

心配そうな表情になるフィリアとシャイル。

デフィー「それに、
     二人の意見も聞いたら
     尚更です」

フィリア・シャイル「・・・」

デフィー「だから私、
     この実は使わないことにします」

フィリア「・・本当にいいの?
     デフィー?」

デフィー「ええ」

シャイル「すまないね、
     私達が反対して
     しまったばかりに・・」

フィリア「うん・・」

デフィー「いいえ、
     二人が貴重な意見を
     聞かせてくれたことに
     感謝しています。
     それに、
     私のことを心配して
     くれる気持ちも
     嬉しかったです。

     そのおかげで、
     この実を使うかどうかを
     自分で決めることが
     出来たんですから」

優しく見守るような笑顔でデフィーを見る
フィリアとシャイル。

デフィー「でもそうなると、
     この実をどうしたら
     いいのかしら?」

その時、
デフィー達の近くの席に座っていた
中年の男の客が、
意を決したように突然
席から立ち上がります。

デフィー・フィリア・シャイル「!?」

男が突然立ち上がったことに驚き、
男の方を見るデフィー達。

立ち上がった男は
デフィー達の居るテーブルの方へ
ズカズカと速足で近寄り、
デフィーの目の前まで来て立ち止まります。

男の髪はボサボサの短髪で
顎に無精髭を生やし、
着ている服は袖口や襟元が
所々小さく解れていました。

男の突然の行動に警戒するデフィー達。
フィリアとシャイルは席から立ち上がり
万が一に備えます。

男「すっ、すいません・・
  あのっ・・
  申し訳ない、
  決して盗み聞きを
  するつもりでは
  なかったんだけど、
  今の話が
  聞こえてきてしまって・・」

男の様子を窺うデフィー達。

男「そっ・・
  それでっ・・そのっ・・
  今話していた
  その実のことなんだけど・・
  使わないのであれば、
  も、もし良かったら、
  俺に譲っては
  もらえないだろうか?・・」

デフィー達「?・・」

男「と、突然
  こんなことを言っしまい
  すまない。
  俺はオルアディって言うんだ、
  今していた話が本当なら、
  俺にはどうしても叶えたい
  願いが有るんだ。
  だからお願いだ、
  お嬢さんがその実を
  使わないと言うなら、
  俺にその実を譲ってくれ!
  頼む!」


一挙版 幸せになりたいエルフの冒険
第十一話 エルフと願いを叶える実 
後編につづきます。

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