幸せになりたいエルフの冒険第十三話 エルフと上辺付き合いの男 パート7
エルフの女の子デフィーは、
ダークエルフの女の子フィリア、
人間の女性で作家のシャイルと一緒に
幸せを探す旅をしています。
幸せを探す旅の途中、
図書館のある町に寄り
調べ物をしていたデフィー達。
その町でシャイルは、
幼馴染のフィッサと再会し、
デフィーとフィリアと一緒に
町の酒場で話をします。
フィッサは自分の過去の話を、
デフィー達に話して聞かせます。
大きく息を吐くフィッサ。
フィッサ「それでね、
まぁこの年まで
生きている訳だから、
他にも似たようなことが
何度も有ってね・・
その結果人と絡むことが
億劫と言うか、
怖くなってしまってね・・
人間不信な状態に
なってしまった時期が
有ったんだよ」
デフィー達「・・・」
フィッサ「勿論俺が今まで出会った
人間全員が、
今話したような
クセの有る人間ばかりでは
なかったんだよ。
周りには
普通の人間の方が多かった。
・・でもね、
何故だかその普通の人達とも
上手くやれないと言うか、
距離を縮めて親しくなることが
出来ない感じなんだよね・・
周りの他の人達同士のように
上手く馴染めないんだ・・
それでね、
一部のクセの有る人間とだけ
ならまだしも、
大多数の普通の人達とも
上手くやっていけない俺は、
その原因が
相手側に有るのではなくて、
自分側に有るのではないかと
思うようになったんだよ。
どうやっても周りの人達に
上手くなじむことが出来ない
自分自身に対して、
少しおかしいんじゃないかって
不信感を抱くようになって
しまったんだ・・」
シャイル「・・そうだったのかい」
心配そうな表情で
フィッサを見るデフィー達三人。
フィッサ「うん・・でまぁ、
こちらがどう思っていようと、
生きている限りは人付き合いは
避けられないし、
続いて行く訳じゃない?
人付き合いは在学中も
苦労していたけど、
それは働いている今も
変わらないんだよね。
学校卒業後の俺は、
子供の頃からやりたいことが
無かったから、
とりあえず職に就きやすかった
接客業で働くんだけど、
今話したように人間関係が
苦手であまり合わなくてね・・
それで接客業よりは
人と接する時間の少ない
配達業に就いて
今に至ると言う訳なんだよ」
シャイル「・・なるほどね、
引っ越してからのあんたは、
そんな風に人生を
送っていたんだね・・
人付き合いにそんなに
苦労していたなんて
知らなかったよ」
フィッサ「うん・・
それは今も継続中さ、
配達業に移った今は
接客業の時に比べれば
人と接する時間は
かなり減ったけど、
それでも人と接しない訳には
いかない・・
まともな人が大半だけど、
中には変わった人も
何人か居てね・・
まぁ俺からすれば、
どちらの人達とも
馴染めない訳なんだけどね・・
でもきっとさ、
他の人達だって
そうは見えないだけで、
人間関係で苦労している部分は
あると思うんだよ。
だから俺だけが特別と言う訳では
ないんだろうけどね」
デフィー達「・・・」
かける言葉が見つからないデフィー達。
フィッサ「・・俺には一部の人達が、
何だか不機嫌で怒っていて
こちらに一方的に文句を言い、
自分の要求ばかり
突き付けて来るワガママな人間に
見えてしまうんだ・・
勿論そんな人間ばかりではない、
まともな人達、
優しい人達も周りには居る。
むしろそんな人達が大半さ。
でもどちらの人種とも
俺は上手く馴染むことが
出来ないでいるんだよ・・
だから今はさ、
このままじゃいけないと
危機感を持ちつつも、
誰かと一緒に居るより
一人で過ごす方が楽に感じるし、
好きになってしまったんだよ・・」
デフィー達「・・・」
黙って聞いていたデフィー達ですが、
シャイルが口を開きます。
シャイル「フィッサ、すまない。
一つ質問してもいいかな?」
フィッサ「?
何だい?」
シャイル「あんたは、
周りに居る人達と
仲良くなって一緒に居たいと
思っているのかい?」
フィッサ「えっ?
それは、
勿論そうだけど・・」
シャイル「本当かい?
あんたは周りの人達が
そうしているから、
同じように他人と
仲良くしなければ
ならないと思っている
だけなんじゃないかい?」
考える様子のフィッサ。
フィッサ「いや・・そんな・・」
シャイル「あんたの話を
聞いていて感じたのは、
特定の誰かと親密になりたい
と言うよりも、
不特定多数の人達と
当たり障りなく上手く
やっていきたいと
思っているんじゃないかって
ことなんだ」
フィッサ「・・・」
黙考するフィッサ。
シャイル「どうだい?フィッサ」
フィッサ「・・確かに、
そうだったのかもしれない・・
昔から今まで、
周りに居る人達の中で
特別この人と仲良くなりたいと
思ったことは無かったかも
しれない・・」
シャイル「うん・・やっぱりね。
あんたが他人と
上手く馴染めないと
感じているのは、
もしかしたらそのことが
原因かもしれないよ」
フィッサ「?
どういうことだい?」
シャイル「つまりは、
相手と仲良くなりたいと言う
ゴールが無い状態で
相手に接していることが、
親しくなれない原因なのでは
ないかと思うんだよ」
フィッサ「?・・」
シャイル「もしあんたが相手と
仲良くなりたいと思えば、
あんたなりにそうなれるように
相手に接するはずさ。
実際になれるかなれないは
別としてね。
でもそもそも
相手と仲良くなりたいと
思っていなければ、
あんたの接し方は
自然とそうなるよね?
それに対して相手も、
あんたに合わせて
接し方を変えているはずだよ?
お互いに仲良くなりたいと
思わずに接していたとしたら、
表面上の薄い付き合いになり、
親しい仲になれないのは
ある意味当然というわけだよ」
愕然とした表情になるフィッサ。
フィッサ「・・俺は、
今までそんなことを
考えたことが無かったよ・・」
険しい表情をし、
何かを考える様子のフィッサ。
フィッサ「・・確かにそうかもしれない。
周りと同じように
馴染めないでいる自分に悩み、
誰かと仲良くしている
人達を見て羨み、
そんな風に仲の良い相手が
自分には居ないことに
寂しさを感じていた・・
でもそれは、
周りの他の人達が
そうしているから、
自分もそうしなければ
ならないと焦って不安に
なっていただけで、
俺の本心は
特定の誰かと特別仲良く
なりたかった訳では
なかったのかもしれない・・
そうか・・
だから相手と距離を
縮められなかったのか・・
俺は本心では
仲良くなることを
望んでいなかったし、
その気持ちや態度は相手にも
伝わっていただろうからな・・
特別親しくもなりたくないが、
仲が悪くもなりたくない。
そんな態度で俺は今まで
相手に接していたんだ・・
上辺だけの中途半端なその態度が、
まともで優しい人達を遠ざけ、
代わりに厄介で面倒な人種を
引き寄せてしまっては
離れられないでいたのかも
しれないな・・」
独り言を言うように呟くフィッサを、
黙って見守っているデフィー達三人。
幸せになりたいエルフの冒険第十三話
パート8につづきます。
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