ひと夏のルグレ【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

【あらすじ】
~あなたは、小学生の頃の初恋を今でも覚えていますか?~
父の訃報を聞き、ケンジは東京を離れ、家業を継ぐために恋人・アミと別れ、広島県福山市に戻ることになる。
子供の頃に過ごした地元へ10年ぶりに戻ってきた。
愛犬のライカと共に、
ケンジは地元の小学校へ向かい、物思いに耽る。
思い出すのは初恋の子のこと。
そういえば、一緒に校歌を練習したっけ。
その初恋の子がアミだったっけ。
その時、元恋人のアミが現れる。
アミはケンジにどうしても告げたいことがあるのだという。
そのために別れた恋人へ会いに来たのだ。
アミの懺悔を聞く中で、ケンジはとあることを思い出していく。
小学校の頃の初恋の思い出…そして二人のすれ違い…
信用できる記憶は上書きされていく?

【第一話】
ケンジ(M)「何か分からない時に人に聞く、ではなくて、『スマホで検索する』と、いうのは当たり前になったし、寧ろその方が早いというのもある。信用できる情報は検索の上位に来る…
でも、『検索の上位に来るものがいつの間にか変わっている』こともある。
しかしそれには気づかない。
知らず知らずのうちに…
信用できる情報は上書きされる。
人の記憶も同じだと…」

 
夜の神社。
   祭り囃子の音が遠くから聞こえる。
   林の中に少女と少年時代のケンジが向かい合って立っている。
   少女が泣きそうな顔をケンジに向けている。
ケンジ(M)「夏が来ると、後悔ばかり思い出す」
少女「駆け落ちしよう。私、ケンジ君と離れたくない」
ケンジ(M)「思い出すのは彼女の言葉。でも、約束の場所に彼女は来なかった」

   〇

タイトル:ひと夏のルグレ

   〇

   ケンジの住む町の俯瞰図。
ケンジ(M)「広島県福山市。父の訃報から数ヵ月。俺は東京を離れ、家業を継ぐために故郷のこの地に帰っていた」
   
   〇

   空の酒瓶などがケースに入れられ、乱雑に放置されている居酒屋の店内。
   その店内で、ライカが尻尾を振っている。
ライカ「わん!」
   ライカをなでるケンジ。
ケンジ「わかってる。散歩だろ! ほら行くぞ!」
   ライカ、ケンジに飛びつく。
ライカ「わん!」
ケンジ「ほら、わかったから。おとなしくしろ」
   ライカ、おとなしくお座り。
   ケンジ、苦笑して首輪にリードをつける。
ライカ「きゅーん…」
   ケンジ、ライカに微笑む。
ケンジ「いい子だ。行くぞ!」

   〇
  
ケンジ、引き戸を開けて居酒屋から出てくる。
  眩しい日差しに目を細めるケンジ。
ライカ「きゃん!」
   ケンジ、ライカを見つめる。
ケンジ「ごめん。今日は、辻堂まで行ってみるか」
   ライカ、嬉しそうに尻尾を振る。
ライカ「わん!」

   〇
   
海辺の道を、ライカを連れて歩くケンジ。
   海鳴りがして、遠方に見える辻堂にケンジは視線を向ける。
   ケンジの顔が曇る。

   〇

ケンジの回想。
   辻堂の前に少女と少年時代のケンジがいる。
   子犬のライカを抱いた少女が、ケンジに微笑む。
少女「この子の名前。ライカにしようよ」
ケンジ「ライカ?」
少女「世界で初めて宇宙に旅立った犬の名前。独りぼっちで、宇宙で死んじゃった」
ケンジ「そいつが独りぼっちだから、ライカなのか?」
少女「それもあるけど、私と同じだったから」
   少女が、悲しげな顔をする。
   ライカ、少女を不安げに見上げる。
ライカ「きゅーん……」
   少女、悲しげにライカを見つめて、
少女「私も独りぼっちだったから、この子はライカ。独りぼっちのライカなの」
回想終わり。

   〇

   海を背景に立つ辻堂をじっと見つめるケンジ。
   ライカが、そんなケンジを不思議そうに見つめている。
ケンジ「そういえば、あいつともよくここで遊んでたっけ……」
ケンジ(M)「アミがいた劇団の名前。辻堂だったな」

   ケンジの回想。
体育館で演技をする少女。
   少女を体育館の観客席から夢中になって見つめるケンジ。
ケンジ(M)「アミは、全国を巡回する劇団の子役だった。彼女の演技に俺は夢中になったものだ」

   〇

ケンジ(M)「それから10年。彼女には会っていなかったが……」
  編集部の一角。アミと向かい合って座るケンジ。
   アミが、ケンジに微笑む。
アミ「ひさしぶり。ケンジ君。待ちくたびれて会いに来ちゃった」
   アミを見たまま、驚いたような表情を浮かべるケンジ。
ケンジ「会ったのは、初めてだと思うのですが……」
アミ「忘れちゃった? 竹田アミ。あなたと駆け落ちの約束をした女の子だよ」
ケンジ「竹、えっと……。たしかに、そんなような苗字だった気がするけど……」
   アミ、悲しげに微笑んで、
アミ「本当に久しぶり。ずっと、会いたかったんだから……」
   回想終わり。


   
   辻堂に座って、ライカをなでるケンジ。
   ケンジ、苦笑する。
ケンジ「まさか、演劇続けて女優になってるとはな。約束の場所には来てくれなかったのに、会いに来たって……」
   ケンジ、空を見上げて、
ケンジ「俺はずっと、待ってたのに……」

   〇

ケンジの回想。
   祭囃子の音が遠くで鳴っている。
   林の中で、ケンジは浴衣姿の少女と向き合っている。
   少女、泣きながら、
少女「嫌だ!ケンジ君と別れたくない!ずっと一緒にいたいの!」
   ケンジ、少女の手をとる。
   ケンジ、真剣な眼差しを少女に向け、
ケンジ「じゃあ、東京に行こう!」
   少女、驚いた様子でケンジを見つめる。
少女「え?」
ケンジ「東京には何でもある。俺達でも生きられるかも」
ケンジ(M)「今思えば、すごく子供じみた考えだけど、東京に行けばなんとでもなると俺は思っていた」

   真夜中の須佐能表神社で少女を待つケンジ。
ケンジ(M)「俺はずっと、彼女を待ってた。でも、約束の場所にアミは来なかったんだ」
   回想終わり。

   〇

   ぼーっと、海を眺めるケンジ。
ライカ「わん!」
ケンジ「あ、ごめん。帰ろうか……」
   ケンジ、ライカに微笑む。
   辻堂から、立ち上がるケンジ。
   ケンジ、ライカを連れて辻堂を離れる。

〇  

真夜中。ケンジの自室。
   布団に横になり、天井を見つめているケンジ。
   ケンジの隣には、ライカが寝そべっている。
   ライカをなでるケンジ。
ケンジ(M)「俺はアミに会いたくて上京したのかもしれない。そして、彼女はずっと俺を待っていてくれた」

   〇

   ケンジの回想。
   ホテルの寝室。アミとベッドを共にするケンジ。
   ケンジ、アミの髪を梳かしながら、
ケンジ「会いに来たって、どういうこと?」
アミ「取材の依頼を受けたとき、担当があなたでびっくりした。すぐに、駆け落ちの男の子だってわかったよ」
ケンジ「ごめん。俺はわからなかった」
   アミ、苦笑しながら、
アミ「仕方ないよね。ケンジ君、私の名前も覚えてなかったんだもん。
竹のつく名字の子だったなんて言われて、嫌だったんだから」
アミ、すこし嫌な表情
ケンジ「ごめん。でも、もう1人の子の名字ははっきり覚えてるんだ」
   アミ、不思議そうな顔をして、
アミ「もう1人の子?」
ケンジ「アミと同じ劇団にいた龍光寺って名字の子。学校もあんまり来なかったけど。珍しい苗字だったから」
   アミ、気まずそうな顔をして、
アミ「ああ……。あの子」
ケンジ「龍光寺さん。元気?」
   アミ、苦笑しながら、
アミ「知らない。居たことも忘れちゃった」
   回想終わり

   〇

   回想を終えじっと、天井を見つめるケンジ。
ケンジ(M)「だが父親の死をきっかけに、アミと別れてしまった……」
   ケンジ、天井を見上げたまま苦笑。
ケンジ「こんな田舎の酒屋に、女優さんは連れてこれないよな」
   ライカが、心配そうにケンジに鼻を擦りつける。
ライカ「きゅーん……」
   起き上がるケンジ。
   ケンジ、ライカをなでる。
ケンジ「ああ、寂しくなんかない。今は、お前がいるから大丈夫だよ」
   ケンジ、ライカに微笑む。
   ライカ、ケンジに鼻を摺り寄せて、
ライカ「きゅーん……」
ケンジ「はは、大丈夫だよ。ライカ」
ライカ「きゅーん……」
   ケンジ、布団に横になる。
ケンジ「ちょっと、昔のことを思い出しただけだ」
ライカ「わん!」
ケンジ「ああ、もう寝よう」
ライカ「わん……」
   ライカ、ケンジに体を摺り寄せて目を瞑る。
   ケンジ、ライカに微笑む。
ケンジ「お休み。ライカ」

   〇

   早朝の海辺の道。
   辻堂の前を、ライカを連れて歩くケンジ。
   ケンジはやがて坂を上り、廃校へと赴く。

   〇

   廃校舎の前
   じっと、廃校舎を見つめるケンジ。
   ライカが、そんなケンジを不安げに見つめている。
ケンジ「ここも、変わってないな……」
   ケンジ、廃校舎の横にある体育館を目指す。

   〇
   
   ケンジ、ライカを体育館前の傘立てに繋ぐ。
ケンジ「ここで待っててな。ライカ」
ライカ「わん!」
ケンジ「いい子だ。すぐ戻るからな」

   〇
   
   ケンジ、体育館の中を歩き回る。
ケンジ「あのころのまんまだ……」
   ケンジ、壁を見上げ校歌が飾ってある額を見つめる。
ケンジ「校歌……。アミも、よく歌ってたっけ」

  〇

   ケンジの回想
   少女が、じっと額に飾られた校歌の歌詞を見つめている。
   彼女の横にいるケンジが、不思議そうに彼女を見つめる。
ケンジ「どうしたの?」
少女「校歌。覚えたことない」
ケンジ「え?」
少女「いつも覚える前に転校しちゃうから」
ケンジ「じゃあ、覚えなくていいんじゃない?」
   少女、悲しげな顔をケンジに向ける。
少女「なんで、そんなこというの?」
   ケンジ、困惑した様子で、
ケンジ「すぐに転校するなら、覚える必要ないじゃん」
   少女、歌詞に視線を戻して、
少女「でも、私は歌いたいの。覚えたいの……」
   少女、泣きそうな顔でうつむいて、
少女「そうでなきゃ、ケンジくんのこともすぐ忘れちゃう。そんなの嫌だよ。」
回想終わり。

   〇

   ケンジ、壁にかかった額を見つめながら、
ケンジ「アミに付き合って、校歌の練習したっけ。アミ、覚えてるかな?」
ライカ「きゃん!きゃん!」
アミ「わ、なにこのワンちゃん!」
   ライカ、アミに尻尾を振る。
   ケンジ、驚いて声のした入口へと顔を向ける。
   アミが、こちらへと歩いてくる。
   ケンジ、驚いた様子でアケミを見つめる。
   アミ、ケンジの前で立ち立ち止まる。
   アミ、ぎこちない笑顔を浮かべ、
アミ「ひさしぶり……」

   〇

   ケンジとアミ、並んで壇上に座っている。
   ケンジ、前を見つめながら、
ケンジ「仕事はどうした?」
   アミ、苦笑しながら、
アミ「今はお休み中。だから、ケンジ君に会いに来た」
   ケンジ、苦笑してアミを見つめる。
ケンジ「休みなのに、別れた彼氏に会いに来るか?」
   アミ、寂しげな表情で、
アミ「だって、ケンジ君のこと忘れられなかったから」
ケンジ「忘れられないって、この学校の校歌みたいだな」
アミ「え?校歌」
ケンジ「ほら、お前が覚えたいって一緒に練習したじゃん」
   アミ、怪訝そうな顔をして、
アミ「そんなことあったっけ?」
ケンジ「え?」
   アミ、苦笑しながら、
アミ「この学校の校歌なんて忘れちゃったよ。ひと夏しかいなかったもん」
ケンジ「そうだっけ?」
アミ「ケンジ君、誰かとの思い出を、私とのものだって勘違いししてる」
ケンジ「そうかな?」
   アミ、笑顔を浮かべる。
アミ「そうだよ。絶対にそう」
   怪訝そうな表情をするケンジ。
ケンジ「アミ……?」
ケンジ(M)「この時。突然霧が晴れたように、俺は違和感を覚えた。彼女が、別人に思えたんだ」

(続く)



【第二話】


【第三話】
https://note.com/itsuki_seiro/n/nd451897ef2d7?sub_rt=share_pb


#創作大賞2024 #漫画原作部門 #純愛


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?