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岡村靖幸ツアー2022/『美貌の彼方』

LINE CUBE SHIBUYAでの千秋楽を観終えたあと、「美貌の彼方」とは、とてもメッセージ性の強いツアータイトルだったのだなと思わされた。まさに今、私たちは彼方にいる。美貌に気軽に触れられる世界から、という意味において。コミュニケーションに不向きなマスクを付けなければならない、不幸な現実への焦燥感が、このタイトルには溢れている。

普段のライブでは、「モテたい」以外の個人的な感情を楽曲外に漏らさない岡村ちゃんだが(DATEっていうくらいだからね!)、今回、山下達郎「いつか(SOMEDAY)」のカバーの中で、大体このような趣旨のことをしっかりと言葉にして伝えていた。

「こんな世界が、こんな日々がいつまでも続くわけじゃない。マスクを取って、笑顔が見られる日が必ずくる。笑顔で笑い合える日が。僕はそう信じている。みんなもそう思うでしょ?」

ここに自身の曲ではなく、達郎御大の楽曲を持ってきたのはなぜだろうかと、ライブ後もずっと考えていた。辿り着いた結論としては、このメッセージを伝える瞬間だけは、ステージに立つシンガーソングライター、いわゆるエンターテイナーとしての「岡村靖幸」ではなく、コロナ禍をみんなと同じ思いで暮らしているひとりの人間・岡村靖幸のポジションで語りかけているのではないか、ということ。ある種の偶像であるステージ上の岡村ちゃんと、岡村ちゃんがリスペクトする達郎御大の楽曲というフィルターを介して、いつもは見せない、心の内に潜む素直な思いを虚飾なく告白しているのだと。だからこそ、いつものライブで得られる幸福感とは異なる違和感と共に、ストレートにその思いが突き刺さってしまう、稀有な時間になったように思う。

音楽家にとってライブとは、お客さんのリアクションが絶対的に不可欠な空間であるはず。それがマスクによって表情が遮られ、呼びかけができない、レスポンスの声が聞こえないという辛さは、私たちの想像を遥かに超えるものなのかもしれない。過去のライブ映像作品を振り返っても、岡村ちゃんは自身のパフォーマンスだけではなく、オーディエンスの反応を随所に入れた編集をする。それだけ一体感を大切にしてきた意味やこれまでの歴史を考えると、なるほど今回のメッセージも地続きにあるような気がしてならない。

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さて、ライブ全般に関して触れると、過去ツアーの中でも一番じゃないかと思うほど、ファンキーでディスコティックな、無邪気に踊らせてくれる150分間だった。冒頭から「ロングシュート」~「だいすき」という驚きの大ネタではじまり、ステップUP↑から住所(サビ)~ステップアップLOVEのスムーズなつなぎに悶えたノンストップメドレー。
メンバーも、ホーンに真砂陽地(元オーサカ=モノレール!)、ドラムに佐藤大輔が固定され、よりスリリングでウェイトが乗ったサウンドに。まさにベストな布陣なのでは。

そして何より「ハレンチ」! カポエイラベースのダンスが癖になるあのMVよりもテンポアップして、アウトロのホーンとダンスもバッチリなアレンジ。90年代中盤にリリースされた、シングル「チャームポイント」「ハレンチ」は、歌詞はどんよりシリアス模様なのに、ガッツと疾走感があって良い。

何よりも楽しそうに歌うU2のカバー、今回初披露となったマイケル感増しアレンジの「レーザービームガール」、原曲アレンジの「ラブタンバリン」、ストリングスのイントロが再現されていた「イケナイコトカイ」……そして「できるだけ純情でいたい」の復活(これもアウトロの怒濤の展開に萌える)。

弾き語りも戻ってきた。アイナ・ジ・エンドに提供した「私の真心」もファルセットで披露。「いつか」へのブリッジ的な使い方が見事すぎた。

日によっては「Out of Blue」すら外してしまう意欲的なセットリストも、それが満足感を削ぎ落とす要素にならないくらい、充実の内容だった。

前回のツアーは、(音楽業界やライブ活動に対する世間の目という点から)もっとシビアな時期に行われていたものだったことを考えると、幾分、通常通りに近づいたとも言える「美貌の彼方」。だが、あのメッセージをしっかりと届けようとした岡村ちゃんの姿勢に、それでも、まだまだ、という執念のような、強い意思を感じる。第7波の襲来により、すべてが元通りになるのは当分先になるだろうが、秋からのツアーは、また一歩、岡村ちゃんとオーディエンスの距離が近づいたものになってほしい。

そう心から願いたくなるライブだった。

恒例のピーチマーク撮影タイム

※8月5日一部表現を加筆・修正しました

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