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【エッセイ】人生で最も辛い時間

高校三年生の夏、肉体的に一番強く、精神的に一番弱い時期に
僕の家族はアメリカへと移住した。

父の仕事の関係で、駐在員とその家族としての海外移住であった。
高校三年生だった僕だけが、高校卒業間近ということもあり
日本に置いていかれることになってしまった。
(結果的に、僕もまたその半年後には渡米をすることになるのだがそれはまた別のエッセイで書こうかと)

置いていかれた、といっても祖父母の家に預かられていたので
特に何か不自由をする、ということはなかった。
祖父母は一人残された僕を実に良く可愛がってくれたと思う。

当時の僕は大失恋をまさに経験したタイミングで
また熱を入れていた部活動も引退した直後だったので
さまざまなことが唐突に変わってしまった時期でもあった。

端的にいうと、僕は荒れた。

ピアスを両手では数えられないほど開けたし
なんだか怒りっぽくなった。
元カノのことを思い出してはため息をつき
学校を抜け出しては友達と遊び呆ける
といった日々を送っていた。

人生で最も辛い時間を過ごしたのは、この時だったと確信している。

このままではダメだ、と頭ではわかっていながらも
込み上げる負のエネルギーに飲まれていた自分は
受験勉強など一切せず、ただただ自身の感情の赴くままに生きていた。

自分の感情に従って生きるということはなんて不毛なんだろう。
と、大人になった今ははっきりとわかるものだが
その時の僕はまだとても若く、理性的に生きるなんてことは到底難しいことであった。

将来への夢もプランもなく、毎日呆然とただただ生きている期間は
なんとも気持ちの悪い日々だったと、今思い返してもゾッとしてしまう。

けど、なんとなくあの時の純真無垢で怒りや悲しみに身を任せて生きている
その若さを羨ましく思う時も、たまにある。
それは大人になって余裕が持てるようになったからだとは思うのだが
どうであれ純真無垢っていうのは素敵なことだ。
大人になってしまった僕にはもうほとんど残っていないから。

思春期の悩み、という括りにいられるほどの
大したことのない時期であったとも思う。

その時の自分と会話をすることができるなら
言いたいことがたくさんある。
「じいちゃんばあちゃんに心配かけるなよ。あと、じいちゃんとはキャッチボールしとけよ」
「意外と未来はいい感じになるよ」
「うじうじしてないで何か一つでもいいから熱を注げよ」
「結婚は無事できるから安心しろよ」
等々。

後悔ばかりの人生ではあるが、素晴らしく幸せな人生を送れている。

あの時、たくさん悩んで、たくさんもがいたその先に今のこの幸せがある。

それを伝えられることができたら、彼はどれだけ救われるのだろうか。

その機会が訪れたらぜひ伝えてやろう。

まだ若くエネルギーに溢れていた自分のことが大嫌いだった自分へ。


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