【学Fエンジン開発】燃焼状態を計測する手法について

※初めての方はぜひ「はじめに」からご覧ください

前回の記事では、完走を経験していないチームに向けた最初のゴールとそこへの道程を提案しました。今回は上位チームに向けて、さらなるチャレンジングな取り組みを提案したいと思います。それは筒内圧解析と呼ばれるものです。

筒内圧解析とは?

圧力センサによってエンジン燃焼室内の圧力を計測、演算する事で燃焼状態を定量的に知る手法です。燃焼解析や、指圧線解析と呼ばれたりもします。
近年のエンジンは燃費、出力、エミッションを高い水準で求められており、これらの目標を達成するにエンジンの燃焼開発の現場では欠かせない計測手法と言えます。
元名古屋工業大学教授の太田安彦先生のサイトに、学術的な意味などの詳しい解説があります。(この方のサイトはエンジン技術者にとって非常に有用で、今後も度々引用させて頂く予定です。)

学生フォーミュラの国内チームで筒内圧解析を行った事例は私の知る限りではありません(筒内圧の計測まではあったかもしれません)。学生フォーミュラの枠組みで実現させるのはかなり困難な計測ですが、実現できたなら学生フォーミュラのエンジン開発はメーカーと遜色ないレベルに到達すると言えます。

※追記:
Twitterにて学生フォーミュラでの活用事例があることを教えて頂きました。京都大学にて計測していた時期があったそうです。

筒内圧解析で出来る事


・各気筒の燃焼状態が定量的に分かる。適合値の最適化が容易。特にノッキングを観測出来るので、点火時期セッティングをギリギリまで攻められる。
・給排気系、カム、圧縮比など、燃焼に関わる全て諸元設計に活用できる。
・シミュレーションの精度向上。例えばGT-Powerなどでエンジンを含めたモデルの作製に計測データが活用できる。

筒内圧解析を行う前提条件


筒内圧解析で恩恵を受けるのは、「エンデュランス完走は前提、ラップタイムを1秒縮める手段を求めている」ような上位チームになるかと思います。
下位チームには効果が無いという意味では無く、「同じ工数を別の開発に注ぎ込んだ方が効果的」だと考えます。

・エンジン動力計またはシャシダイナモを持っている
・エンジンの適合値を変更できる汎用ECU(Motecなど)を使用している

これらが筒内圧解析で恩恵を受ける前提条件です。
上記の環境を持っていても、計測環境が軌道に乗るまでにはかなりの工数と熱意が必要です。

筒内圧解析に必要な装置類

・シリンダヘッド
圧力センサを挿入するために、エンジンの燃焼室に穴を空ける追加工が必要です。穴の寸法や座面の処理はセンサのマニュアルか、メーカーのHPに記載があります。加工精度が要求されるため、外注や大学の技官さんに相談するのも良いでしょう。
水冷エンジンの場合、水路を貫通させるので水漏れ対策が必要です。追加工ヘッドを車載して走行するのはリスクしかないため、車載用エンジンと別にベンチマーク用のエンジンを1基仕立てるのが理想です。

・燃焼圧センサ
 圧電式の圧力センサで、キスラーやシチズンが作製しています。シチズンの方が若干安価。ヘッドの追加工が厳しいという場合、プラグ一体型という商品もあり、こちらの方が敷居は低いです。ただしこちらは振動に極めて弱く、ガイシ部分が破損しやすいため、取り扱いには注意が必要です。


・チャージアンプ
 圧力センサの出力を増幅するアンプ。キスラー製が最も一般的で、代替についてはあまり知見がありません。新品は1台で数十万円なので、入手ルートを考える必要があります。
先述の太田先生のHPにも圧力センサ、チャージアンプのより詳しい解説があります。アンプの自作にも触れられていますが、資金に都合がつくならキスラー推奨です…

http://glanze.sakura.ne.jp/charge_amplifier.html


・エンジン回転角度検出手段
 後述の専用ソフトウェアを利用するなら、1回転360パルスまたは720パルスの信号が必要です。クランク軸端にロータリーエンコーダやスリット円盤を取り付けます。クランク角度のズレが演算値の誤差に非常に大きく影響するため、メーカーの開発現場では高精度な角度検出手段が要求されますが、学生フォーミュラにおいて仕様の相対差を評価する限りにおいては簡易的な計測でも問題無いでしょう。簡易的に解析するなら、ECU用のカム角センサの信号を加工するのもアリです。

・解析用ソフトウェア
小野測器のDS3000など、専用のハード、ソフトウェアがあります。…が、学生にとっては天文学的な値段です。企業からレンタルなどでスポンサードしてもらうか、信号はオシロスコープに取り込み、演算マクロを自作するかです。

https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/products/keisoku/vehicle/ds3000_combustion.htm


まとめ

前回と打って変わって、今回は上位校に向けた内容にしてみました。かなり挑戦的な内容ですが、もし実現出来れば日本の学生フォーミュラのレベルが一段階上がる事は間違いありません。
皆さんの力になれればと思いますので、興味のある方は個別質問も歓迎します。皆さんの挑戦を期待しています。

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