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日本のアート自虐史観

日本人はどういうわけか自国の歴史を自虐的に自己卑下して捉える癖があって、それを「自虐史観」というのですが、どうやらそれがアートの分野にも持ち込まれていることに、ふとあらためて気付いたのです。

一つには「江戸時代までの日本には「芸術」という言葉がなく、だから「芸術」の概念は明治になってヨーロッパからもたらされた」という言い方です。

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しかし考えてみると、一方では「日本美術史」という言葉があって、日本には古くは縄文土器から埴輪、そして仏像などの彫刻や寺院やお城などの建築、掛け軸や絵巻物などの絵画、浮世絵に代表される版画など、さまざまな美術作品が作られてきた歴史があるのです。

もちろんそれらの作品を指し示す「芸術」という言葉はなく、英語のliberal artsに西周(にしあまね)という明治期の学者が「芸術」の訳語を当てたのです。

しかしだからと言って、江戸時代までの日本は「芸術」の概念も知らないような文化的に劣った国だった、という認識は明らかに間違いなのです。

そもそも明治期の日本を指した「文明開花」という言葉が誤解を生みやすいのですが、明治になって欧米から「文明」がもたらされたのではなく、日本はそれ以前から「文明国」だったのです。

日本列島に「文明」がもたらされたのは教科書的には弥生時代になってからで、中国や朝鮮から「渡来人」とともに「稲作」を始めとする文明的システムが持ち込まれたのでした。

この時点で確かに日本は中国や朝鮮に比べて後進国だったといえるのです。

特に中国は、日本人が文字も持たず狩猟採取をしていた縄文時代に、すでに立派な大帝国を作り、文字によって歴史書も書かれていたくらい進歩していたのです。

しかし日本はその後も使節や留学生を送るなどして大陸の文明を学び、江戸時代の鎖国中もオランダとの貿易を通じてヨーロッパ文化を学びながら、自分達のオリジナリティを付加させながら日本独自の文明を築き上げ、発展させたのです。

そして江戸末期に黒船が来航する頃には、日本の文明は当時の欧米に引けを取らないレベルにまで達していたのです。

もちろん、本格的に近代化を進めていた欧米に比べ、日本が遅れていたことは確かです。

しかし日本が欧米からもたらされた近代化をすんなり受け入れたのは、実は日本でも独自の仕方で近代化が進んでいたからなのです。

例えば寺子屋によって教育制度が整っていたり、お伊勢参りで幹線道路が整備されていたり、大阪商人が世界初の先物取引を始めていたり、学問が盛んで独自の進化論を提唱した学者がいたり、そしてもちろん浮世絵を始めとするアートも高度なレベルにまで発展していたのです。

そしてそのような下準備が日本にあったからこそ、欧米からもたらされた近代化に対し「あー、似たようなことは自分たちもやってましたね〜」という感じで理解して、受け入れることができたのです。

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これに対してかつての先進国であった中国は、欧米人がもたらした近代化が自分たちの常識や慣習からあまりにかけ離れていたため、理解できずに「そーゆーのはいりません!」と突っぱねてしまったのです。

実は中国は伝統的に、王朝が変わるたびに前の文明を否定して白紙還元してしまうため、ある程度以上に文明が発展せず、日本のような独自の近代化もなし得ずに、旧態然とした価値観に凝り固まっていたのです。

この点、中国と地続きで直接の影響を受ける朝鮮も事情は同じでした。

しかし日本は島国でしたから、中国の直接干渉を受けずに独自の進化を遂げ、特に天皇家と将軍家とを併立させた統治システムは、ヨーロッパの教会と王との二重権力構造とも似ており、文化を破壊せずに存続させ発展させる土壌ともなったのです。

実際、江戸時代の日本を訪れた欧米人はその文化レベルの高さに驚き、中国はじめ他のアジア諸国のような植民地化は無理だと判断し、そして日本は近代的な独立国家の道を歩むことになるのです。

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ところが日本人の方は自分たちの文化を「当たり前のもの」と感じてその優位性を認識せず、「文明開化」と言って外来のものだけを有難がり、ともすれば自国文化を蔑ろにし、あまつさえ破壊してしまったりもしたのです。

それこそが日本人に特有の「自虐史観」の現れだと言えるのですが、そもそも縄文弥生の昔から日本人にとって文明とは海外先進国からの輸入品でしたから、自虐的に自己卑下する態度が板についてしまったのかも知れず、そのような謙虚さが素直に学ぶ心を育んだと言えるかもしれません。

しかし「事実」を見るならば、江戸時代まで日本の文明レベルは欧米に肩を並べるほど発展しており、特に浮世絵はヨーロッパ近代絵画に多大な影響を与え、さらには「写真表現」の発展にも決定的な影響を与えているのです。

一般に、江戸文化がヨーロッパ近代に与えた影響は「ジャポニズム」として一過性のブームのように語られがちですが、実際にはそんなレベルでは済まない影響を世界中に与えているのです。

そんなわけで日本の浮世絵が「近代絵画」と「写真」に与えた影響について述べたいと思うのですが、長くなってしまったので次回以降にさせていただければと思います。