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3.停滞する原子力発電所の再稼働?

 2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画で示された2030年を目標とした発電電力量構成比には、まだまだ道は遠いようである。特に、原子力発電の再稼働が順調に進んでいないとの報道もある。本当か?
 2011年の東日本大震災以降の国内原子力発電の再稼働状況について、より詳しくエネルギー事情をみてみよう。


3.1 原子力規制委員会の設置 

 福島第一原発事故後、「原子力規制委員会設置法」の公布に伴い、2012年9月に国家行政組織法3条2項に基づき、環境省外局に独立性の高い行政委員会として「原子力規制委員会」が新たに発足した。

 原発の再稼働に向け、原子力規制委員会が安全確保のための新ルールとして2013年7月に導入したのが原子力発電所の「新規制基準」である。福島第一原子力発電所事故への反省を踏まえて、大幅に厳しい安全対策を電力会社に義務付けた。

 中でも、自然災害への基準は、具体的に地震の揺れ、津波の高さ、竜巻の風速などについて大幅に強化された。
 また、原子力発電所に重大事故が生じた場合、対応するための緊急拠点や周辺自治体による避難計画の策定放射性物質の拡散を防ぐ設備の用意などを義務付けた。
 さらに、テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)を原子炉建屋から離れた場所に新設して制御室や発電機を用意し、テロ攻撃などに備えバックアップ施設として使うことを義務付けた。

3.2 進む加圧水型原子炉(PWR)の再稼働

 2024年3月末の国内原子力発電所は、全原子力発電所33基(PWR:16基、BWR/ABWR:13/4基)のうち、営業運転を再開したのはPWRが12基で、BWR/ABWRは0基である。
 
ただし、加圧水型原子炉(PWR)、沸騰水型原子炉(BWR)、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)で、事故を起こした福島第一原発はBWRである。


【PWR12基の再稼働の状況】

■最初の再稼働は九州電力川内せんだい原子力発電所1, 2号機(PWR、各出力:89万kW)で、それぞれ2015年9月、11月に営業運転を再開した。
 再稼働は、規制委員会による安全審査後に、原子炉の改造工事、運転管理規定の認可を得て、使用前の現場検査を受ける。また、審査内容・安全対策を地元自治体へ説明して、同意を得る必要がある。
 一方、住民の反対で運転差し止めの仮処分申請に対して、2015年4月に鹿児島地方裁判所で棄却、2016年4月に福岡高等裁判所宮崎支部が「原発の新規制基準は不合理とはいえない」と住民側の抗告を棄却した。

関西電力高浜原子力発電所3, 4号機(PWR、各出力:87万kW)の再稼働でも、住民の反対で運転差し止めの仮処分申請が出され、大津地方裁判所で運転停止が判決された。その後、即時抗告により大阪高等裁判所が再稼働を容認し、それぞれ2016年2月、2017年6月に営業運転を再開した。

関西電力大飯原子力発電所3, 4号機(PWR、各出力:118万kW)の再稼働では、周辺住民の運転差し止め仮処分申請を福井地方裁判所が認めたが、控訴審の判決で名古屋高等裁判所が原子力規制委員会の新規制基準を追認した。3, 4号機は、それぞれ2018年4月、6月に営業運転を再開した。

四国電力伊方原子力発電所3号機(PWR、出力:89万kW)は、2016年9月に営業運転を再開した。2017年と2020年に広島高等裁判所が「地震や阿蘇山噴火のリスク」を指摘し運転差し止め仮処分を決定したが、その後に決定は取り消された。
 2023年3月、広島高等裁判所は、広島県・愛媛県の住民による運転差し止め仮処分申請を却下した広島地方裁判所の判決を支持し、住民側の即時抗告を棄却した。

九州電力玄海原子力発電所3, 4号機(PWR、各出力:118万kW)は、地元同意をクリアして、それぞれ2018年5月、2018年7年に営業運転を再開した。
 しかし、2021年3月、市民団体による運転差し止め仮処分申請を佐賀地方裁判所が棄却し、現在、福岡高等裁判所で控訴審が進められている。

関西電力美浜原子力発電所3号機(PWR、出力:82.6万kW)は運転開始から40年超の老朽原発であるが、2021年7年に営業運転を再開した。
 しかし、福井県・京都府・滋賀県の住民らが運転差し止め仮処分申請を大阪地方裁判所が棄却し、2024年3月、大阪高等裁判所が住民側の即時抗告を棄却した。「40年以上経過していることで、新規制基準以上に安全性を厳格に判断しなければならない事情はない」との判決である。

関西電力高浜原子力発電所1, 2号機(PWR、各出力:82.6万kW)は運転開始から40年超の老朽原発であるが、それぞれ2023年8月、2023年10月に営業運転を再開した。
 しかし、美浜原子力発電所3号機と高浜原子力発電所1~4号機について、「老朽化による事故の危険性」を主張する住民たちによる運転差し止め仮処分申請を、2024年3月、福井地方裁判所は棄却した。


3.3 原子力発電による発電電力量の推移

 直近10年間に注目して、経済産業省が公表している電源別の発電電力量から、原子力発電による発電電力量のみを切り出した結果を、図4に示す。 
 住民の運転差し止め申請が相次いだが、この問題をクリアして九州電力、四国電力、関西電力は原発の再稼働を進めた。しかし、2018年以降の原発による発電電力量は500億kWh程度と低迷している。

 原子力産業新聞によると、2022年の国内原子力発電所の設備利用率は18.7%(対前年比3.4ポイント減)ときわめて低調であった。
 その主な原因は安全対策工事で、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」の整備のために、発電所の停止が相次いだことによる。

 関西電力美浜3号機は、2022年7月に特定重大事故等対応施設を設置、9月に運転を再開した。関西電力大飯3, 4号機は2023年11月、高浜1, 2号は2023年10月、九州電力玄海3, 4号機は2024年2月までに営業運転を再開した。

 設備利用率は28.0%(対前年比9.3ポイント増)、総発電電力量は810.8億kWh(同49.6%増)に上昇し、今後も順調に設備利用率が伸び、発電電力量が増加すると考えられる。 

図4 2010年以降の原子力発電電力量の推移 出典;経済産業省 

3.4 遅れる沸騰水型原子炉(BWR)の再稼働

 2024年3月末で、規制委員会による新規制基準適合性審査による設置変更許可は得たが再稼働していない原子力発電所は5基、審査中は8基である。


【BWR5基の再稼働状況】

中国電力島根原子力発電所2号機(BWR、出力:82万kW)は、2022年6月に島根県知事が再稼働の同意を表明し、2024年5月に特定重大事故等対処施設を含む安全対策工事を完了、2024年8月の発送電開始をめざしている。
 一方、島根県と鳥取県の住民の運転差し止め仮処分申請を松江地方裁判所が棄却し、2023年3月現在、広島高等裁判所で控訴審が進められている。

日本原子力発電の東海第二原子力発電所(BWR、出力:110万kW)は運転開始から40年超の老朽原発であるが、2018年11月に運転延長の認可を受け、2024年9月に安全対策工事を完了する予定である。
 しかし、2023年4月、提出資料に記載ミスやデータの取り違えなど計1300カ所以上の誤りが見つかり、規制委員会から安全審査を継続できないとして申請書の再提出が求められており、再稼働の先行きは見通せない。
 一方、茨城県など九都県の住民の運転差し止め仮処分申請に、2021年3月、水戸地方裁判所は「重大事故に備えた広域避難計画の不備」を理由に原発の運転差し止めの司法判断を示した。現在は、東京高等裁判所で控訴審が進められている。

■東北電力女川おながわ原子力発電所2号機(BWR、出力:82.5万kW)は、2024年6月に安全対策工事を完了し、2024年9月頃の発送電開始をめざしている。  
 一方、重大事故に備えて自治体が作成した避難計画に不備があるとした周辺住民の運転差し止め仮処分申請を、2023年5月に仙台地方裁判所が棄却し、現在は仙台高等裁判所で控訴審が進められている。

■東京電力柏崎刈羽原子力発電所6, 7号機(ABWR、各出力:135.6万kW)は、2017年12月にBWRで初めて再稼働に必要な安全審査に合格。今後の焦点は地元同意であるが、新潟県知事は再稼働に慎重な姿勢を示している。
 しかし、2021年2月の東電社員が同僚のIDカードを不正使用して中央制御室に入った問題、2021年3月の不正侵入を防止する複数の検知設備の不具合問題が露見し、規制委員会は再稼働手続きの一次的な保留を決定した。
 2023年12月、規制委員会は柏崎刈羽原子力発電所に出している事実上の運転禁止命令を2年8カ月ぶりに解除した。2024年4月、7号機への核燃料の装荷が開始され、再稼働に向けた検査が本格化している。
 一方、周辺住民らによる運転差し止め仮処分を求める新潟地方裁判所での訴訟は長期化しており、原告側が能登半島地震を踏まえた原発事故時の避難の難しさなどを主張に追加するなど、先行きが見通せない。

 以上から、原子力発電所の再稼働は、原子力規制委員会の審査のもと厳格に進められている。再稼働したPWRの発電電力量は安全対策工事が完了することで、今後の発電電力量の増加が期待できる
 一方、BWRに関しては東京電力と日本原子力発電の対応力・技術力の不足が大きな問題で、政府介入も始まっているが先行きは見通せない。
 また、原発の再稼働に関しては、能登半島地震を踏まえた原発事故時の避難の難しさなどが、新たな争点となっている。

 次は、2011年の東日本大震災以降の国内の火力発電の抑制状況について、より詳しくエネルギー事情をみてみよう。(つづく)

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