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11.2023年度の電力供給事情まとめ

 2023年度の国内総生産(GDP)は、物価の影響を含めた名目GDPが前年より5.7%増えて591.4兆円に達した。 しかし、米ドル換算では1.1%減の4.2兆ドルで、ドイツの4.4兆ドルに抜かれ、世界4位に転落した。
 円安を何とかしないと、2024年度はインドにも抜かれるかも。

 先進国を中心にカーボンニュートラルが進められる中で、日本も遅ればせながら足並みを揃えて目標を設定した。しかし、原子力発電所の再稼働再生可能エネルギーの大量導入を推進するも、順調には伸びていない。
 加えて、ロシアによるウクライナ侵攻を発端に化石燃料価格が高騰し、依存度の高い日本ではエネルギーの安定供給が重要課題である。

 今後、政府は浮体式洋上風力ペロブスカイト太陽電池などを推進していくと表明している。しかし、再生可能エネルギーの主力電源化に必要な電力貯蔵システムの導入が遅れ、今後も調整電源として火力発電を使用せざるを得ない状況が続くであろう。

 これまでに、福島第一原発事故以降の日本の発電電力量の推移を、原子力発電、火力発電、各種再生可能エネルギーについて観てきた。
 現時点までの点の情報をつなげて時系列の線の情報、さらに面の情報へと進める必要がある。
 ストーリーができれば、今後、何が重要かのポイントが見えてくる。


11.1 日本の総発電電力量の推移のまとめ

 福島第一原発事故以降、FIT制度の導入電力自由化などの諸施策により、国内の発電電力量の構成では、化石燃料による火力発電の低減再生可能エネルギー発電の増強が着実に進められているのであろうか?

 総発電電力量の抑制(省エネ)はゆっくりと進んでいる。しかし、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画2030年を目標とした発電電力量の構成比への到達には、まだまだ道は遠いことが分かった


図12 2010年以降の日本の総発電電力量の推移 出典:経済産業省

11.2 停滞する原子力発電所の動き

 原子力発電所の再稼働は、原子力規制委員会の審査のもと厳格に進められている。再稼働した加圧水型原子炉(PWR)の発電電力量は安全対策工事が完了し、利用率向上で発電電力量の増加が期待できる。また、2024年12月には中国電力の島根原子力発電所2号機が再稼働する見込みである。

 一方、沸騰水型原子炉(BWR)では、2024年9月には東北電力の女川原子力発電所2号機が再稼働する見込みである。しかし、東京電力と日本原子力発電の原発に関しては対応力・技術力の不足のため、政府介入も始まるが再稼働は見通せない。

 そのため、第6次エネルギー基本計画でめざす2030年の原子力発電の増強目標にはまだまだ遠い。 
 新たに、原発の再稼働に関しては、能登半島地震を踏まえた原発事故時の避難の難しさが争点となり、訴訟リスクが高まっている

11.3 ようやく2010年レベルに戻った火力発電

 「パリ協定」の発効で脱石炭火力がEU先進国を中心に進む中で、日本の2022年総発電電力量(1兆82憶kWh)に占める火力発電(7333憶kWh)の割合は72.7%と高く、内訳は石炭(42.4%)、LNG(46.4%)、石油(11.2%)である。
 参考に、2010年の総発電電力量(1兆1494憶kWh)に占める火力発電(7521憶kWh)の割合は65.4%で、内訳は石炭(42.5%)、LNG(44.4
%)、石油(13.1%)であった。

 政府主導で非効率石炭火力の休廃止が進められる一方で、高効率石炭火力へのリプレース・新設が進められた結果、火力発電電力量は、福島第一原発事故前である2010年のレベルにようやく戻った
 残念ながら、第6次エネルギー基本計画でめざす2030年の火力発電の抑制目標には、まだまだ遠い。 

11.4 太陽光発電にかたよりすぎた再生可能エネルギー

 FIT制度が導入された2012~2015年、大規模水力発電を含む再生可能エネルギー全体の発電電力量の年平均伸び率は10~12%であったが、2016年以降は年平均伸び率は年々低下し、2022年は4.1%まで下がった

 仮に、年平均伸び率4.1%を維持して発電電力量が増加した場合、2030年には3019億kWhに到達する。これは、第6次エネルギー基本計画で目標とした総発電電力量(9300~9400億kWh)の36~38%とする再生可能エネルギーの電力量(3348~3572憶kWh)の85~90%である。

 2012年7月の固定価格買取制度(FIT)、2017年4月の改正FIT法、2022年4月からFITと併存する形でのFIP制度の導入と、10年間に再生可能エネルギーの導入拡大をめざす政策が進められたが、今後も年平均伸び率4.1%を維持して発電電力量が増加する気配はない。

 変動型再生可能エネルギーである設備利用率の低い太陽光発電と風力発電は、FIT/FIPによる普及策で発電電力量は増大している。
 特に、設備の建設期間が短い事業用太陽光発電設備(メガソーラ)の普及は目を見張るものがある。風力発電は、今後の洋上風力の導入が待たれる。 
 しかし、電力貯蔵システムの導入が遅れており、太陽光発電と風力発電は増設されても出力制御の対象となり、有効に使えない可能性が高い。 

 一方、非変動型再生可能エネルギーで設備利用率の高い地熱発電中小水力発電バイオマス発電では、地熱発電と中小水力発電の発電電力量は、この10年間で伸びは認められない。
 しかし、木質バイオマスや間伐材等由来を燃料したバイオマス発電の発電電力量は明らかに増加傾向を示しが、一方で中止・廃止の報道も多い。

11.5 第7次エネルギー基本計画の策定に向けて

 今年は、第7次エネルギー基本計画を策定する年である。2024年4月、経済産業省が国際公約となる2035年の脱炭素目標の先を見据えた電源構成の議論を始めた。政府は、2024年度中に2040年度の電源構成を決める

 2017年6月、米国は当時のトランプ大統領が自国の石炭産業を保護するため、「パリ協定」からの離脱を表明した。当時の安倍政権は、これに追随するように火力発電の抑制の手を抜き続けた
 2020年10月、菅政権は「2050カーボンニュートラル」を宣言し、石炭火力の低減に向けて動き始めた。
 しかし、引き継いだ岸田政権では有効な手を打てず、2022年度の火力発電比率は72.7%と高止まり、2030年度に41~43%とした目標には程遠い

 電力(エネルギー)は国民生活や経済活動の基盤をなすものであり、地球環境問題の解決に向けた安定供給のあり方を明確に示す必要がある。
 
そのために、2050年の脱炭素社会に向け、具体的な電源構成や数値目標を定めることは重要なことである。

 しかし、これを”絵にかいた餅”としないために、「何故、第6次エネルギー基本計画で示した2030年の目標に到達できそうもないのか?」を反省することが重要で、対策を第7次エネルギー基本計画に反映させる必要がある。

 この筋道が明確でない2040年の目標値は、再び未達で終わることになる。国民を始めとして、再生可能エネルギー、原子力発電、火力発電を扱う発電事業者すべてが納得できる基本計画(ストーリー)が書けるであろうか?
                          (おわり)

 ところで、「なぜ、再生可能エネルギーの導入が計画通りに進まないのか?」この疑問を理解するために、次に大手電力会社の保有する発電設備について観てみる必要がある。


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