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15.大手電力会社の再生可能エネルギーへの取り組み(まとめ)

 大手電力会社はいずれもカーボンニュートラルを宣言しており、その具体的な施策として再生可能エネルギーの導入をあげている。
 しかし、大手電力会社の再生可能エネルギー導入量は、2030年度をめざした目標値も低く、積極的ではない。 


14.1 大手電力会社の非化石電源比率

 2020年3月、「エネルギー供給構造高度化法」で中間目標値が設定された。年間販売電力量が5億kW電気事業者に対し、「2030年度に非化石電源比率を44%以上」という目標が定められた。

 2021年10月、第6次エネルギー基本計画で、政府は2030年度の電源構成で原子力比率を20~22%、再生可能エネルギー比率を22~24%とした。合わせた(原子力+再生可能エネルギー)比率の目標は44%である。

 以上から、大手電力会社の非化石電源比率(=(再エネ+原子力)設備容量/全設備容量))について、まとめて比較した。

図29 大手電力会社の発電出力構成の比較

 現時点で、既に関西電力、九州電力、北海道電力、北陸電力の非化石電源比率は2030年度の中間目標値である44%の目途は立ったかに見える。
 しかし、計画している原発が再稼働した関西電力(7基)と九州電力(4基)は問題ないが、原発再稼働の見通しが立たない北海道電力(3基)、北陸電力(2基)の非化石電源比率は25%に満たない

 一方で、JERAの火力分を振り分けた東京電力HDと中部電力、東北電力、中国電力、四国電力、沖縄電力は、いずれも非化石電源比率が30%以下に留まっており、原発が再稼働しているのは四国電力(1基)、東北電力(1基予定)のみである。

 特に、注目したいのは一般水力以外の再エネ(太陽光、風力、地熱、バイオマス)であるが、最も多い九州電力は8.6%(126万kW)であるが、他の電力会社は5%にも満たないのが現状である。

14.2 大手電力会社の再エネ導入計画

 大手電力会社は、いずれも2030年に向けてカーボンニュートラルを宣言し、その具体的な施策に再エネ導入をあげている。「再生可能エネルギーの主力電源化」をめざすと明記した電力会社もあるが、その導入実数はいかにも少ない。

①東京電力グループ(総出力:3927万kW):「再生可能エネルギーの主力電源化」をめざし、2030年代前半までに国内外で600~700万kW程度の新規開発をめざす。「東京電力リニューアルブルパワー」の導入分で、内訳は水力発電は海外進出による200~300万kW、洋上風力は国内開発が200~300万kWである。2030年までの増設の国内分は、総出力の1割に満たない。

②中部電力グループ(総出力:3574万kW): 2030年頃に向けた再生可能エネルギー拡大目標は、2017年度末(256万kW)に320万kW以上を積み増す。2024年3月時点で、再エ発電設備は350万kW(水力:219万kW、太陽光:74万kW、風力:21万kW、バイオマス:36万kW、地熱:1998kW)のため、今後の積み増しは種別は不明であるが226万kW以上である。

③関西電力グループ(総出力:2326万kW):「再生可能エネルギー」は、2024年6月時点で一般水力(出力:336.4万kW)、太陽光(出力:4.466万kW)、風力(1.8万kW)、バイオマス(18.7万kW)を保有している。
 2040年までに、洋上風力を中心に国内で1兆円規模の投資を行い、再エネの新規開発を500万kW、累計開発900万kW規模をめざす。

④東北電力グループ(総出力:1668万kW):再生可能エネルギーは風力発電を主軸に200万kWを開発とし、陸上風力・洋上風力・太陽光・バイオマス発電などの新規開発や事業参画を進める。2024年3月末時点で、開発案件が全て事業化された場合の出力は約80万kWに達しており、今後の積み増しは種別は不明であるが120万kWとなる。

九州電力グループ(総出力:1473万kW):「再生可能エネルギーの主力電源化」で、2030年までに水力・風力・太陽光発電を導入拡大し、再エネ開発量を+100万kW(+30億kWh)積み増す。また、2050年までに域内外、海外への導入拡大をめざす。2022年2月時点で水力(128.7万kW)、太陽光(9.4万kW)、風力(20.7万kW)、地熱(55.3万kW)、バイオマス(40.6万KW)で合計254.7万kWである。

電源開発グループ(総出力:1236万kW):「CO2フリー電源の拡大」で、2022年7月時点で987.4万kWの再エネを2025年に1103.3万kW以上に増設し、既存設備のアップサイクルと、陸上・洋上風力、小水力、地熱、太陽光などの新規開発を海外プロジェクト分を含み加速する。ただし、987.4万kWの再エネには揚水(437万kW)が含まれ、実質は550.4kWである。

⑦中国電力グループ(総出力:876万kW):再生可能エネルギーの新規導入目標を、2023年4月「Action Plan 2030」で示す。2019年に水力発電を含めて約100万kWをベースに、2030年に130~170万kWをめざす。2022年度末の実績は約128万kWであり、今後の積み増しは2~42kWである。

北海道電力グループ(総出力:845万kW):「再エネ電源の導入拡大」で、陸上/洋上風力・地熱・太陽光・バイオマスの導入を進め、2030年までに30万kW以上の増設をめざす。2022年7月時点で水力(172.33万kW)、2022年9月時点でバイオマス(0.056kW)、太陽光(0.9kW)、地熱(2.5万kW)、風力(0.025万kW)で総出力36.3万kWを公表した。

⑨北陸電力グループ(総出力:828万kW):「再生可能エネルギーの主力電源化」で、2030年までに水力・風力・太陽光発電を導入拡大し、再エネ開発量+100万kWを積み増す2023年3月時点で北陸電力グループの発電設備は、水力発電設備(193.67万kW)、風力発電設備(2.96万kW)、太陽光発電設備(0.4万kW)である。 

⑩四国電力グループ(総出力:488万kW):国内外で2030年度までに50万kW2050年度までに200万kWの再生可能エネルギーの新規開発をめざす。2022年度の新規開発は約30万kW(太陽光13万kW、風力3万kW、水力4万kW、バイオマス3万kW、海外7万kW)で、今後の積み増しは2030年までに20万kWである。

沖縄電力グループ(総出力:217万kW):「再エネ主力化」をめざし、2030年までに再エネ導入+10万kW(蓄電池付太陽光5万kW、風力5万kWをグループ会社で設置)を進め、2050年に向け最大限導入を図る。2023年3月時点では、風力発電(8基、0.2315万kW)を保有している。

⑫JERAグループ(総出力:7044万kW):再生可能エネルギー開発目標は、洋上風力を中心とした開発と蓄電池による導入支援を推進し、2023年現在の320万kWを、2025年に500万kW、2035年に2000万kWへと拡大する。ただし、海外プロジェクトへの参画分が含まれる。

14.3 電力小売自由化での問題点

 2012年7月に導入された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」に基づき、国内では再生可能エネルギーの急速な拡大が始まった。 

 また、2015年6月、電力・ガス・熱供給を一体的に改革する「電気事業法等の一部を改正する等の法律(改正電気事業法)」が公布され、2016年4月より電力小売業、2017年4月よりガス小売業への参入の全面自由化が開始。

 これまで一般電気事業者10社(大手電力会社)が独占的に電力供給を行ってきた家庭向け電力市場の開放で、政府は特定規模電気事業者(新電力)の参入による競争促進で、家庭用電気料金の引き下げをめざした。

 2020年まで再エネ導入は順調に伸び、発電電力量構成比は、原子力3.9%、火力76.3%、水力7.8%、地熱及び新エネルギー12.0%と、再エネは約20%に達した。しかし、その伸びは鈍化傾向にあり、発電単価は諸外国に比べて高止まりの状況にある。 

 2020年4月、大手の一般電気事業者10社からの送配電部門の法的分離が行われた。一般電気事業者が保有する送配電網を、新電力が利用する際に自由競争の妨げとならないための措置である。
 しかし、持株会社制度による見掛けの「発送電分離」であるため、2023年3月、大手電力会社による新電力会社の顧客情報の不正閲覧問題が発覚し、自由競争とは言い難い状況が露呈した。

 2024年6月、2024年3月までの約3年間に撤退・倒産した新電力会社は119社と、全体の約2割に上った。
 燃料価格の高騰で、自前の発電所を持たない多くの新電力は値上げ必須の状況にある。しかし、余力のある大手電力会社は料金据え置きや値上げ幅を抑制したため、新電力の競争力が大幅に低下しているのが現状である。 


14.4 見えない再エネ主力電源化

 2011年3月の福島第一原発事故を契機に、政府はFIT法導入により「再生可能エネルギーの主力電源化」を推進し、2016年4月には「電力自由化」による電気料金の引き下げを図った。

 しかし、2020年以降、燃料費の高騰などで家庭用電気料金は右肩上がりの状況が続き、加えて、2022年頃から「電力ひっ迫問題」が露呈した。

 一方で、2020年10月に政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、「原発再稼働」に大きく方針転換を図った。

 以上の環境変化に対して、国内の大手電力会社は、電力の安定供給を建前にリスクの高い再エネ立ち上げに消極的となった。また、「電力自由化」では、危機感から新電力の顧客情報の不正閲覧問題を引き起こした。

 「2050年カーボンニュートラル」に関しても、「再生可能エネルギーの主力電源化」を標榜するが、十分といえる再エネの積み増しを示せず、石炭火力休廃止計画(フェードアウト)も具体的には示していない。

 脱炭素社会の実現には、電気自動車(EV)シフト持続可能な航空機燃料(SAF)なども重要であるが、供給する電力が化石燃料由来では話にならない。電力会社には「2050年カーボンニュートラル」を、産業界の先頭に立って牽引する気概が必要である。            (おわり)


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