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3.「東京電力」の再生可能エネルギーへの取り組み

 「東京電力HD」「中部電力」のエリアでの電源構成は良く似ており、火力発電が75%程度と高く、脱炭素に有効とされる原子力+水力(揚水を含む)発電が25%程度である。

 特に、再生エネ(太陽光、風力、地熱、バイオマス)については、構成比率が1%にも満たず、導入には消極的といえる。


3.1 東京電力グループの現状

 福島第一原発事故の対応のため多額の公的資金が注入され、実質的に国有化された「東京電力」は、2016年4月に事業持株会社(ホールディングカンパニー)制に移行した。

 「東京電力ホールディングス(HD)」では、自社で福島第一原発事故の責任を果たすとし、原子力発電事業と原発事故の賠償などを行う。
 子会社に一般送配電事業を行う「東京電力パワーグリッド」、電力小売事業を行う「東京電力エナージーパートナー」、火力発電事業を行う「東京電力フュエル&パワー」、再生エネの発電事業を行う「東京電力リニューアルブルパワー」を有している。

 原子力発電に関して「東京電力HD」は、ABWR型の柏崎刈羽6, 7号機(1996年と1997年に運開、共に出力:135.6万kW)の再稼働をめぐり、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚した。2023年12月に原子力規制委員会による運転禁止命令が解除されたが、地元の同意を得る必要があり、再稼働時期は見通せていない
 2023年12月、政府は福島第一原発の賠償や廃炉などの想定費用を約23.4兆円と公表した。東京電力は16兆円超、残りは国と他電力会社が支払う。財源とするために、原発再稼働は不可欠としている。

 「東京電力フュエル&パワー」は、2015年4月に東京電力(50%)と中部電力(50%)の火力部門が統合した「JERA」の実質的な持株会社である。 
 JERAは、2050年時点で国内外の当社事業から排出されるCO2をゼロとするゼロエミッションへの挑戦を公表した。「2035年までに2000万kWの再生可能エネルギー導入」と「アンモニア、水素燃料の導入により発電時にCO2を排出しないゼロエミッション火力発電」の実現である。

 「東京電力リニューアルブルパワー」は、再生可能エネルギー専業会社であり、「2030年度までに国内外で600~700万kW程度の電源を新規開発し、再生可能エネルギーの「主力電源化」を推進する」と明言している。

 福島第一原発事故電力完全自由化の流れを受けて分社化が行われ、一見、シンプルな組織となった。しかし、カーボンニュートラルに向け、各社が独自の方向をめざしており、全体の動きが分かりにくい。

 一方、2024年6月、経済産業省は東京電力HD、東京電力パワーグリッド(PG)、東京電力リニューアブルパワー(RP)に業務改善勧告を出した。      PGが保有する顧客情報を、RPやHDの社員らが2024年4月以降に不正閲覧したためである。電力自由化に伴い、新電力との公平な競争を守るため、大手電力は送配電会社との顧客情報の共有が禁じられている。
 送配電事業を分離したが、持株会社としたための弊害が露呈した。

3.2 「東京電力HD」エリアの電源構成

 2020年3月、「エネルギー供給構造高度化法」で中間目標値が設定された。年間販売電力量が5億kWh以上の電気事業者に対し、「2030年度に非化石電源比率を44%以上」という目標が定められた。
 政府は、化石燃料発電を抑制し、再生エネを増設するのが狙いであり、44%以上は中間目標で、今後さらに厳しくなる。 

 非化石電源比率を明らかにするため、東京電力HD(50%)と中部電力(50%)の株式保有比率でJERAの火力発電設備を割り振り、東京電力リニューアルブルパワーの発電設備を東京電力HDにまとめることで、東京電力の発電設備の構成を観てみよう。

 東京電力HDは、国内総発電設備の約17%を保有する国内トップの電力会社である。分社化することで見えにくくなったが、火力発電設備は61%、原子力発電設備は18%、水力発電設備(揚水を含む)が21%で、その他の再生エネ(太陽光、風力、地熱、バイオマス)は1%に満たない
 非化石電源比率(原子力+水力+その他再エネ)は40%弱で、調整電源である揚水発電分を差し引くと27%と低い。 

 東京電力グループは、国内外に多くの子会社と関連会社を抱えている。例えば、東京電力リニューアルブルパワーの子会社である東京発電だけでも、一般水力発電の総出力が20万kWに達する。しかし、それを加えても発電設備の構成比への影響は寡少である。

図5 「東京電力HD」エリアの電源構成 出典:資源エネルギー庁統計

3.3 再生可能エネルギー開発の取り組み

 2021年4月、経済産業省の総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第31回)が開催され、電気事業連合会が主要電力会社の再生エネ開発の取り組みについて報告している。

 東京電力グループとしては「再生可能エネルギーの主力電源化」をめざすことを表明し、2030年代前半までに国内外で600~700万kW程度の新規開発を目指すとしている。
 これは「東京電力リニューアルブルパワー」が明言している内容と一致している。ただし、水力発電は海外進出による200~300万kW、洋上風力は国内開発が200~300万kW、海外進出が200~300万kWとしている。

 東京電力グループとして国内での再生可能エネルギー開発は、洋上風力による200~300万kWである。海外進出は企業としての経済性・将来性から重要であるが、まずは国内に目を向けてもらいたいものである。 

図6 東京電力グループの再エネ開発に向けた取り組み 出典:電気事業連合会

 第6次エネルギー基本計画でめざす再生可能エネルギー開発は未達であり、見通しが立たない現状、次に洋上風力による200~300万kWの積み増しの有効性について検討してみる。

 東京電力グループとして、総発電出力を4687万kWとしても火力発電設備は61%、原子力発電設備は18%、水力発電設備(揚水を含む)が21%で、その他の再生エネ(太陽光、風力、地熱、バイオマス)は1%に満たないことは前述したとおりである

 では、2030年代前半までに国内で洋上風力による300万kWを実現した場合、東京電力グループの総発電出力は4987kWとなり、火力発電設備は57%、原子力発電設備は16.5%、水力発電設備(揚水を含む)が19.6%で、その他の再生可能エネルギーは6.5%となる。
 非化石電源比率(原子力+再エネ)は42.6%であるが、調整電源である揚水発電分を差し引くと34%となり目標の44%には未達である。

 火力発電設備が抑制されれば、さらに非化石電源比率を上げることができるが、カーボンニュートラルに向けた火力発電事業の展開は、「JERA」にお任せの感が透けてみえる。
 JERAは、国内外で「洋上風力と太陽光を2035年までに2000万kW導入」をめざすとしているが、具体的な内容は明らかではない。

 次に、国内総発電設備の約14%を保有する国内二位の中部電力について、詳しく再生可能エネルギーの導入事情を観てみよう。(つづく)

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