サムライマラソン

サムライマラソン(2019年:日本)
監督:バーナード・ローズ
原作:土橋章宏
出演:佐藤健
  :小松菜奈
  :森山未來
  :染谷翔太
  :長谷川博己
 
アメリカの黒船が来航した幕末の日本。ある小藩の藩主は家臣の鍛錬のために現代で言うマラソンを開催。先祖代々密偵として小藩に潜入していた主人公は謀反と勘違いして幕府へ報告するが、ただのマラソンと判明し、報告を取り消そうとする。しかし小藩には彼以外にも隠密が潜入しており、また幕府大老は藩主を殺害するため刺客を送る。江戸へ行って絵画の修業をしたい小藩の姫は、マラソンに乗じて家出しようと画策する。勝って姫を娶りたい者、出世したい者、最後に一花咲かせたい者、それぞれが思惑をかかえたまま遠足(とおあし)が開催される。
主人公は隠密としての役目と藩士としての連帯感の板挟みに悩むが、ストーリーにほぼ関係ない。そもそもこの隠密が早合点して幕府の上層部に謀反の兆候があると密書を送ったのが原因なのに、それすらも忘れ去られたようにマラソンが進み、その背後で暗闘が繰り広げられる。じゃぁ何のための主人公かと考えると首を傾げた。所々で見せ場あるのだが、別に戦わんでもいいんじゃないのかとさらにツッコんだ。せっかく例の明治の剣豪少年マンガの主人公を演じたことのある佐藤健を起用してるので、もっと立ち廻りが見たかった。途中自分の上役との決闘があるが、腰低く構えた姿はなかなか見物。泥だらけになりながらも切り合うシーンは迫力があった。もったいない。
姫を娶りたい若い武士役の森山未來の二刀流、騎馬戦も迫力があった。片肌脱いで、細身でも剛健な肩を見せつけるように切り合う姿は見事。でも抜き身の刀を持って走るのは危ないのでやめといたほうがいい。先の大河で殺してしまえホトトギスの武将を演じた染谷翔太は小藩一足の速い下級武士を演じていたが、刺客と格闘し血しぶきを浴びている姿は非情な実戦を感じさせて良かった。アクションについては見るべきものが多いのは意外。ただのコスプレとしか感じられない小松菜奈の姫も泥にまみれて身体を張ったアクションを繰り広げていた。若手の役者が頑張っている。
事実を元に創作された小説を原作とした映画作品。現実は小説より奇なりを描きたかったのかもしれないが、盛り上がりに欠ける。主役の隠密は徳川家康の頃から先祖代々小藩に潜入していることが説明される。そんな昔からこの藩は信用されていないのかとツッコんだ。そして主役の隠密以外にも何人かの潜入している隠密が現れるが、幕府はこんな小藩に何人も隠密・刺客を送り込んで何を恐れているのかが分からない。藩を取り潰すにしても、しかるべき手続きと占領鎮圧できる兵力を揃えてやってくるだろう。でも大老から送り込まれたのはならず者っぽい一団。二丁拳銃をぶっ放し関所を突破して、ずかずかと藩主の所へ土足で乗り込んでくる。できる訳がない。映画的演出と言っても、これはやりすぎ。
無駄な登場人物が多いのも気になる。竹中直人が演じる、お役御免になった老武士は人情枠なのだろうが、話の流れに水を差すので意味がない。姫様も男装して参加するが、登場の理由がない。男装しても女子って分かる。お姫様が侍に交じって走れるほど体力があるとは思えない。しかもナンバ走りの武士たちに交じって一人だけマラソンの走り方。西洋走りって言われてもなぁ、目立つだろ。途中拳銃で肩を撃たれて負傷するが、後半その負傷を感じさせないくらい激走する。メチャクチャである。すらっとした姿勢で、長い手足のバランスがいい、アクションができる女優さんだけにもったいない。
城下町がしょぼい。身分の垣根があいまい。走っている武士の数が少ない。史実を取り入れながらも歴史考証ができていない。等々粗が目立つ。もっと参加した武士それぞれの想いや葛藤、欲や野望を前面に出して、それがマラソンに結び付けられるように疾走感ある演出にしてくれれば見ごたえがあったのかも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?