見出し画像

【基本問題】表現の自由―平成3年旧司法試験(憲法第1問)

司法試験や予備試験では、憲法21条1項が保障する「表現の自由」に関する事例問題がそれなりに出題されます。

中でも、表現内容規制と表現内容中立規制のいずれにあたるかという性質決定ができることは、司法試験や予備試験の受験生にとっては必須です。
前回扱った平成30年司法試験のほか、平成20年新司法試験でも問われているなど、「基本問題」といって過言ではないでしょう。

今回は、この問題点がストレートに問われている平成3年旧司法試験(憲法第1問)を扱います。

本問のポイントは、設問前段では、一見すると表現内容中立規制である法令が、表現内容規制として適用されかねないリスクをどう考えるか、設問後段では、反対に、一見すると特定の表現のみを対象にしている表現内容規制であるものの、全部規制ではなく、あくまでも時・所・方法のみを規制している点をどう考えるか、という点です。

【問題】
「市の繁華街に国政に関する講演会の立看板を掲示した行為が、屋外広告物法及びそれに基づく条例に違反するとして有罪とされても、表現内容にかかわらないこの種の規制は、立法目的が正当で立法目的と規制手段との間に合理的な関連性があれば違憲ではないから、やむを得ない。」との見解について論評せよ。
なお、「小中学校の周辺では扇情的な広告物の掲示はできない」との規制の当否についても論ぜよ。
(平成3年旧司法試験憲法第1問)

1 設問前段

⑴ 憲法21条1項は、「その他一切の表現の自由」を保障しているところ、「市の繁華街に国政に関する講演会の立て看板を掲示した行為」は、人の内面的な精神活動を他者に対して公表するものであるから、「表現」の自由として保障される。
設問前段の事例は、屋外広告物法などにより、当該行為を禁止して刑罰を科すものであるから、表現の自由を制約しているといえる。

⑵ 設問の見解は、当該事例が「表現内容にかかわらない」ことを理由に、「立法目的が正当で立法目的と規制手段との間に合理的な関連性があれば違憲ではない」とする合理的関連性の基準を適用すべきとするものである。
ア たしかに、設問前段の事例は、特定の表現のみを対象とするものではないから、伝達するメッセージを理由として表現を規制する表現内容規制にあたらない。しかし、表現内容規制でないとしても、表現の自由は、民主制の過程そのものを支える自己統治の価値を有する権利であるから、民主制の過程による回復が困難である。また、表現内容規制と表現内容中立規制を明確に区別することもできない。
したがって、表現の自由に対する表現内容中立規制であっても、原則として違憲性を推定し、中間審査基準を適用するべきである。
もっとも、ある表現活動が行動そのものないしは行動をともなってなされた場合、その「非言語」の要素である行動を禁止することにより、たまたま付随的に意見表明が制約されたときは、違憲性の推定があるとは言い難い。このような単純な付随的規制の場合に合理的関連性の基準が適用される余地はある。
イ 設問前段の事例は、ビラ配布のために他人の住居や邸宅への立入り行為に対する規制とは異なり、立看板の掲示という表現の自由で保障された行為を直接規制するものであるから、中間審査基準を適用すべきである。
ウ 具体的には、表現の自由に対する時・所・方法の規制は、目的が重要であり、手段との間に実質的関連性が認められなければならない。また、これに加えて、表現の自由が保障する思想の自由市場を確保するべく、他の代替的な伝達経路も十分に確保されていなければならない。

⑶ 立看板を規制する目的は、美観風致の維持であるところ、一般に、美観風致の維持が法的保護に値する場合があることは否定できない。また、立看板を掲示することで、一定程度美観が損なわれることになり得る。さらに、ビラ配布や私有地に対する立看板の掲示を依頼する方法、インターネット上での表現活動など、他の代替的な伝達経路も十分確保されているといえる。
したがって、一般論として、屋外広告物法等による規制が、憲法21条1項に違反するとは言い難い。

⑷ ただし、「国政に関する講演会の立看板」は、政治的意見表明に関わるものであるから、民主制に資するという重要な価値を有する。また、繁華街の景観は、景観保護地区に指定されているような場所に比べると、法的保護の程度は劣る場合もあり得る。
したがって、個別的・具体的な事情のもとにおいて、保護すべき景観といえるか、代替的な伝達経路があるかについて、慎重に審査をしたうえで、場合によっては適用違憲とする余地がある。

2 設問後段

⑴ 設問後段の事例は、「小中学校の周辺」において「扇情的な広告物の掲示」という特定の「表現」行為を禁止するものであるから、憲法21条1項の「表現」の自由に対する表現内容規制に当たるとも思える。
表現内容規制は、原則として許されず、厳格審査基準が適用されると解される。なぜなら、内容規制は自由市場を歪曲させ、政府が伝達される表現内容を是認しないという理由で内容規制が行われる危険性があることから、違憲性が極めて強く推定されるからである。

⑵ もっとも、規制の対象は、「扇情的な広告物」であり、政治的な意見表明ではないから、思想の自由市場に与える影響が大きいとは言い難い。また、青少年の非行行為を防止するという重要な目的に基づくものであり、禁止される範囲も「小中学校の周辺」という特定の場所に限られているから、政府の不当な動機に基づくものとは言い難い。
したがって、設問後段の事例は、表現内容規制とは「区別」して、表現内容中立規制として、設問前段と同様の基準を適用するべきである。

⑶ 青少年の非行行為の防止の目的は、他者の生命・身体・財産などの保護(憲法13条後段、憲法29条参照)という重要な目的のほかにも、青少年自身に対して将来生じるであろう不利益から保護するというパターナリズムに基づく制約である。パターナリズムに基づく制約は、自己決定権に対する介入であるため、原則として許されないが、憲法が未成年者については成年と区別し(憲法15条3項参照)、保護の対象としていること(憲法26条2項参照)から、未成年である青少年に対しては、一定程度認められるべきであるから、重要な目的といえる。
また、有害広告により青少年による非行行為が生ずる相当の蓋然性が認められることは社会共通の認識であるから、青少年が通学途中に有害広告に接する機会の多い小中学校の周辺を規制することで目的を達成することができる。
本条例は、禁止地域以外での表現活動をなんら制限しておらず、他の場所における表現活動に対する影響が多いともいえない。
したがって、設問後段の規制は、憲法21条1項に違反しない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
みなさまのご支援が、連載の原動力です。
よろしければ、スキ、著者フォロー、マガジンフォローをしていただくと嬉しいです!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?