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理不尽と挫折と、受け継がれる希望:日本未公開野球映画を観る(24)

One Hit from Home(2012)

※「日本未公開野球映画を観る」カテゴリーの作品については、基本的に結末まで紹介しています。ご了解のうえお読み下さい。

共通の傷を負ったコーチと選手

 「野球後」の映画であるが、これまで取り上げてきた多くの作品と違うのは、主人公がメジャーの元スター選手であること。とはいえ、それ以外の設定においてはやはりいくつも類似点が見つかる。
 ジミー・イーストンは膝に大きなケガをして引退を余儀なくされ、久しぶりに故郷アリゾナに帰ってくる。バーでからんできた男を殴って拘留されたジミーは、保釈と引き替えに叔父が勤める大学の野球部のコーチに就任する。指導者になる気はなかったが、唯一の有力選手ブランドンの才能と欠点に気づいて積極的に関わるようになるうち、彼も自分と似た傷を負っていることを知る。
 傷とは、ジミーはドラフトされプロ入りが決まった日、家族で祝おうと言う両親を置いて恋人ジェニファーと出かけたが、その間に両親が交通事故死し、ジェニファーとも別れて逃げるように故郷を出たこと。一方ブランドンは2年前に母親を事故で亡くし、それを悔やむ父親は「母を忘れたのか」と息子に殊更に厳しく当たるようになっていた。
 チームは快進撃を始め、カンファレンスの決勝進出を決めるが、選手と練習する間になぜかケガが癒えたジミーは、外野手が足りない古巣のメジャー球団から復帰を打診される。チームを離れてサンフランシスコに向かおうとするジミーに、ブランドンと父親が乗った車が事故に遭い、父親が死亡したという報せが入る。病院へ向かう山道で車を降りたジミーが道路に倒れ込み意識を失うと、夢の中で(自分の)亡き父に再会する。
 ジミーはコーチに留任してジェニファーとやり直すことを決める。そして2週間後、ブランドンがサンフランシスコにドラフト1巡目で指名されるという結末。

「野球後」の定番+厄災、迷い、覚醒

 本作もクリスチャン映画であり、そのことは前々回紹介したFull Countよりも早い時点で明らかになる。主人公らは事故死という理不尽に何度も見舞われるが、それもすべて神の意思であり意味があることが強調され、しかし信仰を強くすれば神は耐える力や希望を与えてくれる、というのがメッセージのようだ。超自然的な奇跡によってストーリーが動いたFull Countのような奇想天外さはなく、チャペルで司祭がジミーに諭すシーンなど直接的な描写もあって、クリスチャン映画としてはオーソドックスな作りかもしれない。
 ただ、野球映画としては突っ込みどころがいくつもある。ジミーを引退に追い込んだ大ケガがいつの間にか癒えたり、連敗続きの負け犬チームがたった4日間コーチが本気で練習させただけで生まれ変わって連戦連勝とか、これらの方が奇跡に思えるが、そうは位置づけられていない。
 「野球後」映画の定番としては、祝福されないプロ入り、挫折による帰郷、昔の恋人との再会(ジェニファーは離婚し、ジミーの叔父の世話で同じ大学の教壇に立っている)、故郷での居場所と次の人生の発見、といった要素が含まれている。また、一度復帰のチャンスが訪れるのはBrampton's Ownにもあった。これらに、いくつもの理不尽な厄災と迷い、覚醒という出来事を加えてクリスチャン映画になっているのが本作である。
 厄災と挫折に見舞われた失意の元選手の「復活」のストーリーであり、同じ傷を負った若者に希望が引き継がれるのもよいのだが、これらが神の意思によって動いているのかどうかは、信仰を持たない者にとってはどちらでもよいことだろう。
 それから、悲劇的な経験を共有して別れたカップルが、昔の自分と似た若者との関わりを契機にやり直すことを決めるのは、ジャンルは違うが木村拓哉主演のTVドラマ『GOOD LUCK!!』(2003)を思わせる。

フェニックスとサンフランシスコ

 本作の舞台となるグランドキャニオン大学はフェニックスに実在する大規模なキリスト教系大学。チーム名は本作では「Gladiators」とされているのに対して実際はLopesだが、ユニフォーム等にはあまり記されておらず、ほぼGCUという大学名だけで戦っているのが珍しい。メジャーで大成した選手としては、1989年エンジェルスに3巡目で指名され93年新人王になったティム・サーモンがいる。この年は45巡目でチャド・カーティスも同じエンジェルスに指名されており、この大学史上最高の「当たり年」だったようだ。
 それから、ジミーがプレーしブランドンも指名された球団は単にサンフランシスコと呼ばれており、ジャイアンツではない架空の球団である(ユニフォームにはソックスが描かれている)。2006年にワールドシリーズに出たことになっているが、現実のこの年はカージナルスがタイガースに勝っており(第4戦の田口壮のスクイズ)、事実とは無関係である。

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