直人へ

なんだかね、ドキドキする感じなの。
こうやって、なんとなくこういう気分のまま仕事をして、
仕事にならなくて、
こっそり文書を書くのって久しぶり。

今あなたがとても近い気がする。

そう、あの芸術鑑賞会。体育館で一緒に影絵をみたでしょう?
ブルーシートを敷いて、上履きを脱いで。

私たち出席番号近かったけど、隣では無かったじゃない。
でもだんだんみんなで雑魚寝したりして、それに紛れて、私たち、
くっついたんだよね。

それがね、びっくりするくらい気持ちよくて。
私そこで直人のこと好きになった気がするわ。

あなたが好きだったケロロはね、今も見かけるとすぐに私も嬉しくなるくらい、楽しい思い出と結びついているの。

直人はなぜか私たちのへたくそなブラスバンドの演奏を、毎回聴きにきてくれたよね。
どうして来てくれたのか、私にはすごく不思議だったの。
その時の私は(今もそうだけど)、他の人の応援よりも自分でやることしか興味が無かったの。

私の小説も「続きを書いたら読ませて!」って言ってくれたよね。この経験も、ずっと宝物だわ。
それ以外に言い方を思いつかないくらい、宝物だわ。

私のこと「くそでっぱめがね」って呼んだことあったじゃない?
私ね、あの時、嫌な気持ちにならなかったの。

あなたのからかう標的に入ったような気がしたわ。
男の子のからかうってそういうことでしょう?
私のポニーテールをぱしぱし叩くときも、
ちっとも痛くなかったわ。

今日はそんなあなたにね、
後ろから抱きしめられる夢を見たの。

やっぱりあの時の、あなたの体に触れた時がね、
今までで、抱かれるよりもずっと、
一番良い体験だったんじゃないかと思うの。

あなたは今どこにいるの?
会ったらきっと、はやてのやてっちゃんやテルの話を聞くと思うわ。
でもそうじゃなくてね、ほんとうはね、直人のことを知りたいの。

一緒の帰り道、私に子供の作り方を知ってる?って聞いてきたこともあったよね。
実は私も大分ませていたから、あなたが知っているくらいのことは既に知っていたの。

でも知らないふりをしてごまかしたわ。だってどうしたら良いのかわからないもの。
小学生の頃に「こいつエロイ」って言われてしまうと、今なら色気があるって意味にもなるけれど、当時は死活問題だったから。
あの質問にはとてもドキドキしたわ。楽しかった。覚えてる?

私今、結婚しているの。中学で出会った人よ。
直人のことは好きだけれど、私彼がいたから今があると思うわ。

彼のおかげで上品な世界を知って、良いものを知って、穏やかに世界を愛することを知って、待つ大切さを知って、人に甘えることを知ったわ。

私は彼に無条件に許されているの。
それがあるから私、今こうして楽しく幸せに暮らしているの。

さっきね、もしあの成人式の日にうまく落ち合えて、あなたと恋に落ちて、一緒になっていたらと想像してみたのだけれど、うまく出来なかったわ。

勝手にあなたを振るみたいになってしまってごめんなさいね。
でもそうではなくて、今の私にとってあなたは、
なんだかそことは違う場所に、
違う役割として求めているの。

あなたは今どこにいるの。
隣にいてほしいわ。私に愛をささやいてほしいし、私を求めてほしいわ。
これは本当の気持ちよ。もし世界中で誰もいなくなって、私たち二人になったら抱いて欲しいわ。

あの時よりも可愛らしい恰好しているから、一瞬分からないかもしれないけれど、気づいてね。

私、直人に、道端でばったりでくわさないかしらって、いつも思っているの。どうか今度ばったり会って頂戴ね。

その時は、こんな文章読まなかったふりして声をかけて。

車椅子でも、手術跡がひどくても、もし幽霊になっていたとしても、
私は驚かないで、絶対に満面の嬉しそうな顔をするわ。

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