悪魔も酒が飲める横丁 荒城様
荒城は悪魔である。人間よりは生きているが悪魔としては少し若い。人間から『荒城』という名前を付けられたわけではない年若い悪魔なので、人間の真似事をして暮らしていた。
人間を騙したり、たまには人間に騙され返されたり。そういった人間との関わりを楽しんでいる。
そんなある日、荒城は『VRchat』というゲームの存在を知った。そこは数奇者な人間が最初は集まる場所であったが、6年という荒城にとっては一瞬で人間には長い月日が流れた末に様々な人間が入り混じるゲームと成長していった。
荒城もVRchatをやってみたところ、様々な人間との出会いと日常の起伏の多さを知る。
例えば、現実ではある街に住んでいると隣に住んでいる顔見知りや近所の住人はみんな同じである。しかし、VRchatでは毎日が初対面で常に新しい人間であふれている。その新たな出会いの連続が好きだ。
人間のごった煮なVRchatで一番好きなワールドが『ポピー横丁』である。そこはVRchatの中でも特に混沌としており、おせっかいな人間が多かった。
初心者がいるとまずは各々が良いと思う方法で話しかける。
紳士的に話しかけてくる人はもちろんのこと、下ネタから入る人や一発ギャグを披露してから入る人など様々な方法で初心者にコミュニケーションを図る。
それとは逆に、ひとりで居たい人はひとりで居させてくれる場所でもあった。
荒城は今日、ひとりでグラスを傾けたい気分であったのだが隣に初心者が座った。
「こんなところに居たら危ないよ、お嬢ちゃん」
軽くからかう様に荒城は初心者に目を向ける。
「危ないってどういうことですか?」
「いや、隣に座っているの悪魔かもしれんのよ?」
初心者は「まさか」と言って笑う。
「じゃあ、悪魔の私がこの横丁での身の守り方やマナーを教えてあげよう」
荒城は楽し気にニヤリと笑った。
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