たまにはビジョンの話でも


さて。自分は広島県の西部に位置する江田島市でオリーブ栽培をしています。栽培から商品づくり、販売と体験プログラムの実施、さらに観光にも取り組む事業者です。
 
人口2万人ほどの島で、オリーブの会社をしながら「まちづくり」についても色々と考えることの多い日々です。なぜ、オリーブ農家が「まちづくり」にも想いをめぐらせるのか。自分が日々事業に取り組むなかで大切にしていることなどを、時々はじっくりと立ち止まって記してみたいなと思っています。
 

 
オリーブの樹の寿命を皆さんはご存知でしょうか?
 
世界には樹齢3,000年を超える樹があるとされ、ここ江田島市にも(特定寄付のもとで植樹された)樹齢400年の樹があります。スペイン産まれとされるこの古木は、400年の時を生き抜き、日本の瀬戸内の江田島市にやってきました。
 
400年前といえば日本では江戸時代です。江戸時代に植えられた樹を、多くの人が代わる代わるに世話をし続け今に至る。
 
江田島市にあるこの樹を、自分はこの6年ほど世話させてもらっています。400年の歴史のなかのたった6年。この樹に触れるたび、この樹が辿ってきた歴史と時間と、この樹に携わってきた人たちのことに想いを馳せます。「世話」という役割を継ぎながら、この樹と生きてきたわたしたち。人間の一生の何倍もの時間を生き抜いてきたオリーブ。
 

 
オリーブの歴史は古く、一説では8,000年前からオリーブが存在していたとされています。発祥の地とされる地中海沿岸をはじめ、ヨーロッパのみならずアフリカ、アジア、オセアニアなど世界各地で栽培されているオリーブ。
 
オリーブがこれほどまでに世界各地に広まった理由はなぜでしょう? 推測に過ぎませんが、それはやはり、(人間にとって)「特別な樹」だからではないでしょうか。食用のみならず、薬用や化粧用、灯りとしての利用や儀式などにも使われてきたと聞きます。
 
人間のいとなみに古来から寄り添ってきたオリーブ。その歴史に想いを馳せると、長い長い時間軸の端っこに今自分がいることを強く確かに実感します。
 

 
瀬戸内海に浮かぶ「江田島市」で、7年前にわたしはオリーブの苗木を植えました。
 
遠い時間に想いを馳せるならば、この苗木も、挿し木や接ぎ木、はたまた種からの生長によって継がれ繋がってきたオリーブという植物全体の命の、何先年という歴史の結晶であると言えるかもしれません。
 
ふと、目線を過去から未来へとうつしてみます。
 
わたしが植えたこの樹は、あと何年ここで生きるでしょうか? わたしはあと何年、この樹を見ていけるでしょうか? そしてその先は・・?
 

 
現在40代の自分が、ここに植えたオリーブを見ていけるのは、おそらくせいぜいこの先30年くらいでしょう。
 
大切に世話をすることで、わたしよりも遥かに長く生きる可能性のあるオリーブ。
 
長い時を経て江田島市にやってきた400年の古木のように、7年前にわたしが植えた樹が、この先何百年も健康で生き続けるために、いま、どんなことが出来るでしょうか?
 

 
日本の、広島の、瀬戸内の、江田島市のここに植えたオリーブという樹を、数先年と継がれてきたこの植物の命を、この地でこれから長く人々が見守っていくために、わたしに今出来ることは何があるでしょうか?
 
ひと雨ごとに逞しく伸びていく草の世話に追われながら、オリーブと瀬戸内海が一望できるこの場所の景色に心を安めながら、そんなことにわたしは想いを馳せています。
 
これからこの先、この地で何百年と生き続ける可能性のあるオリーブの、最初の数十年を今わたしが見ています。わたしたちはこれから、どのようにバトンタッチをくり返しながら、この地でこのオリーブを何百年と見守っていくことが出来るでしょうか。
 
いち個人ではなく会社として取り組むこと。わたしのあとにこの樹を見ていってくれる人をつくること。オリーブに親しむ文化をつくること。オリーブやオリーブオイルを楽しむこと。少子高齢化と人口減少の進むこの島で人口の維持と仕事の創出に励むこと。耕作する人たちの減少により日々範囲を広げてくる自然の巻き返しに抵抗し、かつての住人がこの地に拓いてくれた農地を守ること。
 
継いでいくこと。繋いでいくこと。今この場所における農業や、オリーブという樹の未来、その持続可能性。
 
そうしたことを思えば思うほど、2023年にここで生きるわたしたちに課せられた役割は、農業にとどまらず、農業を土台とした様々な活動であると感じるようになりました。オリーブ栽培から関わる「まちづくり」。畑から地域、島の内と外、関われる場所を増やしていくこと。これが、今わたしたちが持っているヴィジョンです。
 
その方法とは? いったい何が出来るのか? 少しずつ少しずつ、また書いていきたいと思います。お読みくださりありがとうございました。

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