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サバチニと剣戟映画

 1920年代から1950年代の剣戟映画ブームに乗って、サバチニ作品は英米で多数映画化されています。

 1916年に米国のスタジオで短編小説が映画化されたのを初めとして、"The Gates of Doom(1919年)"、"The Tavern Knight (1920年)"、他幾つかの短編を基にした作品を英国の映画会社が次々と製作。
 1923年にはサイレント時代の名匠レックス・イングラム監督により『スカラムーシュ / Scaramouche』がラモン・ノヴァロ主演でハリウッド映画化。
 1924年にはフランク・ロイド監督により『シー・ホーク / The Sea Hawk』が、デヴィッド・スミス監督により"Captain Blood"が映画化(ブラッド役はJ. Warren Kerrigan)。
 1926年には『剣侠時代 / Bardelys the Magnificent』が大スタアのジョン・ギルバート主演でキング・ヴィダー監督により映画化。


 トーキー時代に入ってからは、マイケル・カーティス監督により『海賊ブラッド / Captain Blood』が1935年に再映画化。劇伴はクラシック作曲家エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが担当。
 本作の成功により、オーストラリア出身の野心家、エロール・フリンは大ブレイク。一躍大スタアとなります(本作の時点ではルバスール役のベイジル・ラスボーンの方が格上なので、決闘シーンではルバスールがかなり花を持たされた演出をされています)。

『海賊ブラッド』のヒットを受けて、監督マイケル・カーティス、主演エロール・フリン、音楽コルンゴルトの組み合わせで『シー・ホーク / The Sea Hawk』が1940年に再映画化……ですが、原案サバチニのクレジットはあるものの、原作とは全く違うオリジナル脚本作品でした。
 1932年刊行の『海の征服者 / The Black Swan』がタイロン・パワー主演で1942年に映画化。これもかなり原作から脚色されています。

 英国ではフランス革命ものの中篇"Núpcias de Corbal"が1936年に"The Marriage of Corbal(別題The Prisoner of Corbal)"のタイトルで映画化。1941年刊行の"Columbus"がフレドリック・マーチ主演で1949年に『コロンブスの探険 / Christopher Columbus』のタイトルで映画化。

 サバチニのもう一つの代表作スカラムーシュも1952年にハリウッドでリメイク『血闘(スカラムーシュ) / Scaramouche』。残念ながら出来はあまり良くありませんが……。

 ちなみに月形龍之介が設立したツキガタプロダクションが1932年に製作した時代劇映画『暁の市街戦』や、辻吉朗監督の日活時代劇『維新暗流史(1930年)』もスカラムーシュの翻案だそうです。(NHKラジオ「青春アドベンチャー」シリーズでは2009年にアンドレ:渡辺大、ダジル侯爵:嶋田久作のキャストで『スカラムーシュ』がオーディオドラマ化されました)。

 また、海賊船長ブラッドのキャラクター人気から、作品としての出来は良くないものの、映画オリジナルの続編や番外編も作られました。
 1950年制作『海賊ブラッドの逆襲 / Fortunes of Captain Blood』
 1952年制作『海賊船長 / Captain Pirate』
 中でも珍品は1950年に制作された、エロール・フリンの息子ショーン・フリン主演のスペイン・イタリア・アメリカ合作映画『新・海賊ブラッド / The Son of Captain Blood』でしょうか。
 尚、現時点における海賊ブラッドの最新映像化作品は意外にもロシア映画であり、1991年に制作された露仏合作の"Odisseya Kapitana Blada"です(アンドレイ・プラチェンコ監督、イヴ・ランブレヒト主演)。

 他、サバチニの諸作はTVミニシリーズ等の原作としても長年親しまれてきました。

 戦前戦後、そして1950年代の剣戟映画ブームに何度も映像化されてきたサバチニ作品ですが、近年『パイレーツ・オブ・カリビアン』のヒットを受けて『海賊ブラッド』のハリウッド再映画化の企画が何度か浮上しており、いずれまた銀幕でブラッド船長と再会できる日が来るかもしれません。

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Captain Blood本編の全訳に加え、時代背景の解説、ラファエル・サバチニ原作映画の紹介、短編集The Chronicles of Captain Blood より番外編「The lovestory of Jeremy Pitt ジェレミー・ピットの恋」を収録

1685年イングランド。アイルランド人医師ピーター・ブラッドは、叛乱に参加し負傷した患者を治療した責めを負い、自らも謀反の罪でバルバドス島…

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