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ラファエル・サバチニ資料集

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ラファエル・サバチニ関連の断片的な試訳と雑文など。
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記事一覧

『The Life of Cesare Borgia チェーザレ・ボルジアの生涯』ラファエル・サバチニ著(1912年初版刊行)序文

序文 これは聖人たちの年代記ではない。悪魔の歴史書でもない。欲望にまみれた、絢爛たる時代。血によって赤く、白熱する激情によって青白く染められた時代。鋼鉄と色鮮やかな天鵞絨、まばゆい光と一寸先も見通せぬ影の時代。迅速な行動、無慈悲な暴力と高い努力の時代であり、鋭い対比と鮮やかな対照の時代。これは、そのような非常に人間的で激しい時代を生きた、非常に人間的で激しい人々の記録である。  今世紀という、冷静で、慎重かつ品行公正な――我々が自認する処によればであるが――立脚点から、こ

『スカラムーシュ』英国オリジナル版 第Ⅲ部 第ⅳ章 幕間狂言

はじめに今年は英国で "Scaramouche" が刊行されてから丁度100年ということで、日本で翻訳刊行されたバージョンからはカットされている章、オリジナル版では第Ⅲ部第3章「議長ル・シャプリエ」と第4章「ムードンにて」の間にはさまっていた CHAPTER IV. INTERLUDE をざっと訳してみました。 オリジナル英国版についてはこちら↓ 第Ⅰ部 第1章の未訳部分についてはこちら↓ 第Ⅲ部 剣  第ⅳ章 幕間狂言 数日後、ル・シャプリエがアンドレ=ルイの許に返礼

ラファエル・サバチニの"The Strolling Saint 彷徨の聖者"

続スカラムーシュ以外も、「翻訳予定には入れてないけれど紹介しておきたい作品」に関する記事を #未訳 タグでアップしていくことにしました。 “The Strolling Saint” by Rafael Sabatini (First Published 1913) 16世紀イタリア、ゲルフとギベリン(教皇派と皇帝派)のパルマとピアチェンツァをめぐる争いを背景にした青年の成長譚。1913年(大正2年)初版刊行。 サバチニはこの前年にチェーザレ・ボルジアの評伝"The Lif

ラファエル・サバチニ 戯曲『The Tyrant』脚本序文

序文  小説であれ演劇の脚本であれ、フィクションを執筆する者にはリアリティのある描写というものが要求される。それが掛け値なしの事実そのものである必要はないが、しかし少なくとも尤もらしさは必須であり、そのような説得力が欠けていれば興ざめになってしまうのだ。歴史研究者に関しては、このような制約は課せられていないように見受けられる。「フィクション」として差し出せばあまりにもご都合主義が過ぎるといわれ、軽蔑と共に拒絶されるものが、「実話」であるといえば、到底ありえない矛盾だらけの逸

『スカラムーシュ』英国オリジナル版第Ⅰ部第ⅰ章 共和主義者 冒頭

はじめにラファエル・サバチニの代表作『スカラムーシュ』は英国で刊行されたオリジナル版とアメリカで刊行された短縮版の2バージョンが存在したのですが、流通量的には圧倒的に米国版が多く、現在では英国内で新たに刊行される際は米国版を底本としている模様。 海外で翻訳される場合の底本もほとんどが米国版で、日本で現在手に入る大久保康雄 訳と、加島祥造 訳はどちらも米国版が元になっており、恐らくこれまで英国オリジナル版が翻訳された事はないのではと思われます。 五年ほど前にこの件を知り、続

Turbulent Tales 悪業物語

Queen's Quorum クイーンの定員 ラファエル・サバチニの『Turbulent Tales 悪業物語(1946年初版刊行)』は、 エラリー・クイーンが1845年以降ミステリジャンルで刊行された個人短編集のうち、もっとも重要な106冊をセレクトした『Queen's Quorum クイーンの定員』の中で、 歴史ミステリ短編集の代表的一冊として挙げられています。 クイーンの評によると、 歴史的重要性(Historical Significance) 文体とプロットの独創

ラファエル・サバチニの歴史夜話

サバチニ歴史夜話は「歴史実話を極力創作要素を排して短編小説形式で描く」をコンセプトにしたシリーズ。とりあえず収録作品の概要だけ書き出しておきます。 The Historical Nights' Entertainment, 1st Series(1917年刊行) I. THE NIGHT OF HOLYROOD〜The Murder of David Rizzio ホリールード宮殿の夜 ~ダヴィッド・リッチオ殺害 スコットランド1566年、メアリー・ステュアートの秘書ダ

ラファエル・サバチニの『Captain Blood 海賊ブラッド』Kindle版発売中です

縦書き・ルビ付き・註へのジャンプ可 海賊ブラッド:His Odyssey(翻訳版) 「スカラムーシュ」のラファエル・サバチニ(Rafael Sabatini, 1875年4月29日 ― 1950年2月13日)による活劇小説の名作 "Captain Blood: His Odyssey (1922年原著初版刊行)"の独自翻訳。 1685年イングランド。アイルランド人医師ピーター・ブラッドは、モンマス公の乱に参加し負傷した患者を治療した責めを負い、自らも謀反人としてバルバド

ラファエル・サバチニの『The Lost King 失われし王 ルイ=シャルル』Kindle版発売中です

縦書き・ルビ付き・註へのジャンプ可 失われし王 ルイ=シャルル Vol. 1(翻訳版): タンプル塔の少年  『スカラムーシュ』のラファエル・サバチニが描くフランス革命秘話。ルイ・ダヴィッドの弟子にして王党派の密偵である画学生ラサールは、ジャン=ピエール・ド・バッツ男爵の指令を受けてタンプル塔に幽閉された少年王ルイ17世救出の任務に就くのだが…。原題『The Lost King』 (1937年初版刊行)の独自翻訳。 巻末付録 エラリー・クイーンが『クイーンの定員』の中で

5月21日からラファエル・サバチニ作『The Lost King~失われし王ルイ=シャルル』を翻訳連載予定

ラファエル・サバチニ長編リスト

The Lovers of Yvonne (1902年)別題 The Suitors of Yvonne 17世紀半ば、ルイ十四世治世下のフランス。 フロンドの乱の頃。決闘騒ぎを起こしたガストン・ド・リュイーヌはパリからの逃亡を余儀なくされるが、彼は枢機卿マザランの野心に利用されようとしているイヴォンヌ嬢と深く関わりあう事になる。 The Tavern Knight (1904年) 17世紀半ば、清教徒革命時代のイングランド。 チャールズⅡ世の英国脱出を助けたクリスピン・ガ

「キャプテン・ブラッド」シリーズの成り立ち

『海賊ブラッド』本編にあたるCaptain Blood: His Odysseyが書籍として刊行されたのは1922年の事ですが、それに先行して前年の1921年に原型となる読みきりシリーズが存在しました。 原型バージョンにはアラベラ嬢は登場せず、当然の事ながらブラッドの旗艦は「アラベラ号」ではなく「Colleen(アイルランド語で「お嬢ちゃん」)号」と名づけられます。 このシリーズが好評で加筆修正して長編化された訳ですが、加筆された一方で長編としてのテンポが悪くなる為に割愛

『スカラムーシュ』英国版と米国版

初読から20数年目にして知った真実ラファエル・サバチニの『スカラムーシュ』には、オリジナル英国版と短縮米国版があり、日本で長年親しまれてきた大久保康雄先生の翻訳版は米国版を底本にしている。したがって、我々が読んでいたスカラムーシュは完全版ではない……! プロジェクト・グーテンベルク・オーストラリアにアップされている両バージョンを比べると 英国版には第三部の III. PRESIDENT LE CHAPELIER(議長ル・シャプリエ)と V. AT MEUDON(ムードンに