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事業性融資の推進等に関する法律の創設

伊藤塾司法書士試験科 講師 坂本龍治

本日(2024/6/14)付けの官報にて、「事業性融資の推進等に関する法律」が公布されました。司法書士実務への影響がある改正ですので、ここに簡単に要点をまとめたいと思います。

事業者が不動産担保や経営者保証等によらずに、事業の実態や将来性に着目した融資を受けられるようにするため、無形資産を含む事業全体を担保とする制度(企業価値担保権)の創設を内容とする「事業性融資の推進等に関する法律案」が、令和6年3月15日、金融庁から第213回国会に提出されました。法案提出の理由は、次のとおりです。

理 由
不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正及び会社の事業に必要な資金の調達等の円滑化を図るため、事業性融資の推進等に関し、その基本理念、国の責務、基本方針の策定、企業価値担保権の設定、事業性融資推進支援業務を行う者の認定、事業性融資推進本部の設置等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

この法律案は、令和6年6月7日、事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号、以下「事業性融資推進法」という)として成立しました(同月14日公布)。
原則的施行日は、公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内において政令で定める日となります。

要旨は以下のとおりです(財政金融委員会「事業性融資の推進等に関する法律案(閣法第57号)(衆議院送付)要旨」参照)。

第一 総則
1 この法律において「事業性融資」とは、金融機関等からの会社に対する貸付けのうち、不動産を目的とする担保権又は個人保証契約等若しくはこれに準ずるものとして主務省令で定めるものによって担保されず、又は保証されないものをいう。
2 事業性融資の推進に関し、基本理念及び国の責務を定める。
第二 企業価値担保権
1 会社の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む。)は、一体として、企業価値担保権の目的とすることができる。
2 企業価値担保権を設定しようとする場合には、企業価値担保権信託契約に従わなければならない。
3 企業価値担保権に関する信託業務は、内閣総理大臣の免許を受けた会社でなければ、営むことができないこととし、企業価値担保権信託会社に関し、所要の行為規制等を整備する。
4 担保目的財産の換価は、裁判所の許可を得て、営業又は事業の譲渡によってすることなど、企業価値担保権の実行に関する規定を整備する。
第三 事業性融資推進支援業務を行う者の認定事業性融資について、事業者や金融機関等に対して指導又は助言を行う機関の認定制度を創設する。
第四 事業性融資推進本部金融庁に、特別の機関として、事業性融資推進本部を置く。

上記のほか、

①債務者(企業価値担保権の被担保債権の債務者)は会社(株式会社・持分会社)に限定される(事業性融資推進法2条2項)。

②企業価値担保権の設定をするには、取締役会設置会社においては原則として取締役会の決議が必要であるなど、同法10条の定める要件を満たす必要がある。

③企業価値担保権の得喪及び変更は、債務者の本店の所在地において、商業登記簿にその登記をしなければその効力を生じない(同法15条本文)。

④企業価値担保権の登記は企業価値担保権の「設定」「移転」「変更」「処分の制限」又は「消滅」についてなされる(同法219条)。

⑤不動産登記法の規定が企業価値担保権に関する登記に一部準用されているため(同法223条)、企業価値担保権に関する登記を申請する際には、原則として登記原因証明情報の提供(不登法61条)、共同申請構造の履行(不登法60条)が求められ、登記完了時には登記識別情報が通知される(不登法21条本文)。

⑥抵当権と企業価値担保権とが競合する場合には、それらの優先権の順位は、抵当権設定登記と企業価値担保権に係る登記の前後による(事業性融資推進法18条1項)。

⑦債務者は、企業価値担保権を設定した後も、担保目的財産の使用、収益及び処分をすることができるが、重要な財産の処分などを行う場合には当該処分対象となる財産について全ての企業価値担保権者の同意を得なければならず、同意なき処分は無効となる(同法20条)。

などのポイントがあります。 

⑦と関連して、たとえば、企業価値担保権の設定をしたA株式会社が、所有不動産を第三者に売却した場合、不動産登記の申請の際に、企業価値担保権者の同意書(印鑑証明書付)の提供が必要になるものと思われます。

取引手配時に、商業登記簿をよく見て、企業価値担保権が設定された法人に該当しないか否かを見極める必要があります。


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