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令和2年度本試験の民法を振り返る

みなさん、こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は、2020年本試験の民法の振返りとして、私なりの分析をお伝えします。今後、民法の学習指針を定める際の参考としてお役立ていただければ幸いです。

難易度等に関しては,本試験問題分析会で話があったと思いますので,私からは今年の試験の特徴及び近年の試験の傾向から導かれる来年の試験に向けた勉強法を重点的にお話しします。

【1】 民法改正の出題

今年は民法(主に債権法・相続法)改正が初の出題範囲となる年であったものの,民法改正に関係する知識の出題は,次のようにそれほど多くはありませんでした。

① 第7問「不動産の物権変動」オ
② 第16問「保証人に対する情報提供義務」ア・イ・ウ・エ・オ
③ 第17問「定型約款」ア・イ・ウ・エ・オ
④ 第18問「解約手付」ア・イ
⑤ 第19問「消費貸借」ア・イ・オ

第16問と第17問は改正により新設された項目からの出題でしたが,それ以外は明文化の規定が問われているところも多かったため,今年の試験では改正の影響はさほど大きくなかったといえます。今年の出題がなかった分,来年は改正で大きく変更があった主要分野が狙われる可能性が高いといえます(e.g.時効,詐害行為取消権,契約不適合)。今後はより一層,相続法改正の対策を含めて,改正項目の学習に力を入れていきましょう。

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【2】 引っ掛かりやすい問われ方

今年の問題では,問われ方としては長文の問題も少なく,素直な問い方の問題が多かったですが,中には次のような引っ掛かりやすい問われ方の問題もありました。

① 第11問エ
「先取特権は,債務者がその目的物を第三取得者に引き渡した後はその物について行使することができませんので,Aの甲建物についての不動産保存の先取特権は消滅します。」→×

〔解説〕第三者への引渡しがあった場合に先取特権が消滅すると定める333条は動産を目的とする先取特権に関する規定であり,不動産を目的とする先取特権には適用がない。

② 第13問オ
「本件抵当権が実行されて甲土地が競売されたときであっても,その競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは,Cは,甲土地を買受人に明け渡すことを要しない。」→×

〔解説〕抵当権が実行された場合の明渡猶予を定める395条は抵当不動産が建物の場合に適用があり,抵当不動産が土地の場合には適用がない。

③ 第19問ア
「書面でする消費貸借契約の貸主は,借主に対して目的物を交付するまでは,契約の解除をすることができる。」→×

〔解説〕書面でする諾成的消費貸借における受取り前の解除権を定める587条の2第2項前段は,借主に解除権を認めるものであり,貸主に解除権を認めるものではない。

今回は肢の組み合わせの関係から,これらが正答率を下げる大きな要因とはなりませんでしたが,こういった引っ掛かりやすい問われ方の出題は,今年だけでなく,昨年(2019年)の問題でも見られた傾向です。こういったミスを「ケアレスミス」という認識で片付けずに,次のことを意識すると,上記のような問題にもしっかり対応できるようになります。

(1)制度趣旨から理解する

上記のような引っ掛かりやすい問われ方の問題は、単に知識で対処しようとすると反応しづらいため(「このような場合には適用がない」という知識の押さえ方を予めしておかないと対応できない),知識の制度趣旨にさかのぼって対応した方が効率的です。上記の①~③の問題を例にとって説明します。

① 333条は,動産上の先取特権は登記のような公示方法がないことから,取引の安全を重視して,第三取得者が譲り受けた動産の所有権を失うことがないようにしている。⇒不動産上の先取特権には適用がない。
② 395条は,抵当権の実行により競売がされて,出て行くまでに引越しの準備期間として,6か月の猶予期間を設けるものである。⇒建物の賃借にのみ適用があり,土地の賃借は対象外である。
③ 587条の2第2項前段は,書面でする諾成的消費貸借の成立後,実際に目的物が交付される前に,すでに目的物を借り受ける必要がなくなった借主側の事情を考慮して解除権を認めたものである。⇒貸主に解除権は認められない。

このように制度趣旨にさかのぼって対応するためには,普段の学習において制度趣旨から理解することが重要です。

(2) 過去問から引っ掛けパターンを知る

例えば,上記②は,過去に平成24年第13問エにおいて,同様の出題がされています(下記の問題文を参照)。この問題から,目的物が土地か建物かで引っ掛ける出題パターンがあるということを把握することができるわけですが,過去問を解く際も,ただ〇×を付けるのでなく,このように出題パターンの類型(他にも根拠となる条文番号で引っ掛けるなど)を意識して学習すると,同じ知識に限らず,同様の手口で引っ掛ける問題が出されたときに対応しやすくなります。

・平成24年第13問エ
「抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である土地を競売手続の開始前から使用する者は,その土地の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは,その土地を買受人に引き渡すことを要しない。」→×

いかがでしたでしょうか。今後の民法の学習指針を定める際の参考としてぜひお役立てください。

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