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令和2年度本試験の不動産登記法を振り返る

みなさん、こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は、2020年本試験の択一式の不動産登記法の振返りとして,私なりの分析をお伝えします。難易度等に関しては,本試験問題分析会で話がありましたので,私からは今年の試験の特徴及び近年の試験の傾向から導かれる来年の試験に向けた勉強法を重点的にお話しします。

【1】 長文の問題への対応

近年の不動産登記法の問題は長文になる傾向にありますが,今年はそれが顕著に表れていた問題といえます(e.g.第14問「代位による登記」,第22問「処分制限の登記」)。問題文が長文になると難しくなるのが次の2点です。

⑴ 問題文を読むのに時間が掛かる

問題文が長ければ読むのに時間が掛かるので,読んだ上で判断する時間,又は多めに肢を検討する時間が削られてしまいます。その結果、ミスが生じやすくなり、点数が取りにくくなります。実際、今年の午後の部の択一式を解くのに70分又はそれ以上かかったという方も多いです。

問題文の読み取りを早くするために重要なのは、論点判断の材料となるキーワードに素早く着目することです。例として問題文の抜粋を用意しました。キーワードを太字にしましたので、そこに注目してください。

■ 第22問ウ
「甲建物について,Bの抵当権の設定の登記請求権を保全するため,処分禁止の仮処分の登記とともに保全仮登記がされた場合において,当該保全仮登記に基づく本登記をすべき旨の本案の判決書の正本に記載の債務者の表示と,当該保全仮登記の登記記録上の債務者の表示とが異なるときは,当該保全仮登記の本登記をする前提として,A及びBは共同して当該保全仮登記の更正の登記申請することができない。」→○

もちろんキーワード以外を読まないわけではありませんが、キーワードに着目をした上でメリハリをつけて読むことで、問題文を読むスピードが格段に上がります。そして、このようにキーワードに着目できるようにするためには、普段の学習から論点のポイントとなるキーワードを押さえたうえで知識をインプットする必要があります。具体的には、普段テキストに目を通す際には、論点のポイントとなるキーワードに下線や丸を付け、そこに注目しながら読むようにしましょう。そうすることで、自然とキーワードに着目する癖をつけることができます。

⑵ 何の論点が問われているのかを把握するのが難しくなる

問題文が長文となると、事例が複雑になり、何の論点が問われているのかを把握するのが難しくなります。次のように、実際に解説を読めば知っていた知識だったものの、現場で判断できなかったものも多かったのではないでしょうか。

■ 第13問イ
「乙区1番賃借権の登記名義人であるA株式会社から賃借物の転貸を受けたBを登記名義人とする転貸の登記が乙区1番付記1号でされた後,Bの住所移転により登記記録上の住所とBの現在の住所が異なることとなった場合において,乙区1番付記1号転借権の登記の抹消を申請するときは,その前提として,Bの住所の変更の登記の申請をしなければならない。」→×

〔解説〕所有権以外の権利の登記の抹消を申請する場合には,申請情報の内容である登記義務者の氏名等が登記記録と合致しないときであっても,申請情報と併せて氏名等の変更又は錯誤若しくは遺漏を証する情報を提供すれば,前提として登記義務者の氏名等の変更又は更正の登記を申請することを要しない(昭32.6.28民甲1249号回答参照)。

このような問題に対応できるようになるためには、テキストの抽象的な記載から問題文の具体的な記載に変換して判断する、いわば「知識の変換力」が必要となります。そして、「知識の変換力」は、テキストの抽象的な記載と問題文の具体的な記載の行き来により、身に着けることができます。

すなわち,問題演習の際にマメにテキストに戻ることが大事です。問題演習の際に,正解できた問題に関してはテキストに戻らないという方も多いですが,それだと個別的な問われ方を押さえているだけで,本試験で角度を変えて問われたときに対応するのが難しくなるため,なるべく正解できた問題も含めてテキストに戻るようにしましょう。

なお、次の第19問オは,不動産登記法の出題でありながらも実際は民法の判例知識を問う問題でした。登記法の問題を解いていると、どうしても実体法の視点が抜けてしまいますが、この手の問題の判断にもコツがあります。午後の手続法の科目であっても、実体法の判例知識を問う問題には、問題文の冒頭に「判例の趣旨に照らし」という文言が付きます。そのため、この文言が出てきたら、「実体法の判例知識が問われている」ということを意識して問題を解くようにするとよいでしょう。

■ 第19問オ
「甲不動産の所有権の登記名義人であるAが死亡し,Aの法定相続人として配偶者B,子C及び子Dがいるときの相続による登記に関して,Dが甲不動産を取得するが,DはBに対してBを扶養する義務を負担する」との遺産分割協議に基づき,Dを所有権の登記名義人とする所有権の移転の登記がされた後に,DがBを扶養する義務に基づく債務を履行しないときは,Bは,Dに対して債務不履行に基づく解除の意思表示をすることによって,解除を登記原因として当該所有権の移転の登記の抹消を申請することができる。」→×

〔解説〕共同相続人間において遺産分割協議が成立した後に,相続人の一人が他の相続人に対して当該遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても,当該他の相続人は,当該遺産分割協議を解除することができない(最判平元.2.9)。

【2】 不動産登記法の難化傾向

近年、不動産登記法の難化傾向が続いていますが,その大きな要因となっているのが,未出先例(及びの登記研究の見解)の出題の多さです。

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今年は昨年に比べて未出先例等の数がやや減りましたが,直近で出された最新先例の知識を問う問題(e.g.第19問エ,第20問ア)や改正絡みの知識(e.g.第15問オ,第27問ウ)を問題もあったため,引き続き未出先例等は積極的に習得していく必要があるといえるでしょう。

具体的には,答練等を通して未出先例等の知識及び改正絡みの知識を積極的に吸収するとよいでしょう。とはいえ、知識のインプットでも順序が大切なので、今年不動産登記法の正解数が10問以下だった方は、年内は既出の基礎知識のインプットに重点を置き、年明けから未出知識のインプットをするようにしましょう(11問以上の方は、昨年度の答練等を活用して、年内から積極的に未出知識のインプットをすることをお勧めします)。

いかがでしたでしょうか。今後の不動産登記法の学習指針を定める際の参考としてぜひお役立てください。

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