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ヘブン 川上未映子



図書館で川上未映子を探して棚から一掴み。


処女作(イン歯)と一緒に借りる。
が読みきれないのでヘブンのことを書く。

文章は読みやすく上手。たまに稚拙なように見える書き方をするが、それが味になっている。

内容はすらすら入ってくる。

そして設定、登場人物がうまい。うまさが見えるうまさという感じがする。

弱さに意味を見出し、自分の意思で美学を追求するコジマと、意味も意思もなく欲望に動かされる人間をそのまま受け入れてしまっている百瀬。

その間で揺れ動く主人公と、そこに揺さぶりをかけるいじめ、二ノ宮。

受動的なハンデをおう主人公と、能動的にハンデを受け入れてきたコジマ、受動的にその場を受け入れる百瀬と、能動的に"たまたま"にコミットしていく二ノ宮。


前段のコジマとの公園での出会いから、手紙のやりとり、夏休みの美術館、屋上と青空、涙、ここまでの流れは最高。最高の短編という感じがした。

そこで終わるのかとおもったくらいだ。でも終わらなかった。


そこからはコジマの美学、弱さの意味、百瀬の哲学的な問いが入る。
よくあるいじめの議論、というやつで平行線になる部分をよーく捕らえている。

そこから生き方というものに、いつのまにかいざなわれていく。


結局主人公は斜視をなおし、マジョリティの方へ引かれていき、コジマは美学を貫いて、主人公が百瀬の論に飲まれるのを阻止し、飛散する。

交わした約束も果たされず、コジマと主人公は永遠に異なる向きへ進路を進んでいく。

これは、ある2つの彗星がすれ違い、つかのま相互作用をして、それからまた自分の進む方向へ、その無限の宇宙へと飛び立つ話だ。

百瀬の行動には、人間の業にたいする全面降伏があり、コジマの行動には博愛がある。


しかし、、、

百瀬の教室の口笛のシーンはいったいなんだったんだろう。


ここからはテクニカルな話。

作者は村上春樹が好きだそうだ。村上春樹はテーマから流れ、構成が浮き上がってくが、この作者は構成としてはある程度練った上で書いているのじゃないかという気がする。別によいとか悪いとかではない。個人的に前者のように書かれた作品が好きだから気になるだけだ。

表現として、肉感的なものが多い。たとえば体臭とか口臭とか、汗とか、暑さとか。

勃起もあるし、男の性欲を上手に描いていると思う。


ここで出てくるいじめのやりかたについては、自分の経験とはかなり違っていた。

二宮は美男子で、とりまきがおり、ひまつぶしにいじめをしている。

個人的な経験と印象では、いじめの加害者は自分の尊厳を守ることにいやったらしい。

おれが強い。おれのパンチ力はすごい、おれのけりは一番だ。

そういうのりで、相手が仕掛けてこないことをわかった上でタイマンしようとか

そういうことを言ってくるタイプしかいなかった。


でも二ノ宮は、十分自尊心が満たされていそうなのに、攻撃してくる。

どうも塾にいかされていたりとか、そのへんに鬱屈したなにかがありそうだが、

なんとなくいじめのやり方がスマートで知的で有閑的にすぎる気がした。


でもこの小説のもっとも優れたところは、
うれぱみん、
というワードが登場すること、で間違いない。

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